『国際潜入捜査(4)』

競技は佳境に入って来た。
これが14種類目の競技に当たっていた。
残っている人数は既に9人にまで絞られていた。
この競技は遮蔽物を縫いながら攻撃して来るビーム砲がそのまま標的となっている。
ビーム砲を破壊したら勝ちだ。
このような訓練には普段から手馴れているジョーにとっては全く問題のないレベルの競技だった。
高くジャンプをし乍ら攻撃を避け、地面を転がりながら身体が仰向けになった状態でジョーは両腕を伸ばして拳銃を発射した。
見事1基のビーム砲が破壊される。
この競技では決まった時間の間に10基のビーム砲を破壊しなければならない。
時間内に完遂しないと合格点は貰えないシステムになっていた。
競技は始まったばかりだったが、ジョーは息も切らさずに黙々と、そして確実にビーム砲の射出口を銃弾で潰して行った。
それを見守る健も手に汗を握ったが、ジョーは1弾たりとも無駄にはせず、驚くようなスピードでこの競技を終えた。
ストレートだ。
観客からも大きな拍手が挙がった。
次に競技に入る王女も思わず拍手を送った。
これは敵わない。
この人の射撃の腕は半端ではない。
世界一の称号を与えても良いのでは、と王女は思った。
ジョーは全く気負った事もなく、引き上げて来て、王女と擦れ違いざまにそっと呟いた。
「ビーム砲の攻撃を出来るだけ早く見切る事です。
 相手はコンピューターです。攻撃に転ずる瞬間に隙が出来ます。
 敏捷性の勝負ですよ」
「有難う…」
王女も小さく答えて、競技場に入った。

王女は何とかこの5分間の競技に、30秒を残して合格した。
此処で人数は7人に絞られた。
王女は最後に少ししくじり、左腕に掠り傷を負った。
彼女の取り巻きは既に全員敗北していた。
ジョーはハンカチを取り出し、傷口を縛った。
「心配要りません。掠り傷ですよ。痛みますか?」
「いいえ。大丈夫です。有難う。貴方、随分と凄いのね。
 此処まで素晴らしい名手だとは思わなかった。
 最初から貴方にお任せしておいた方が良かったのかもしれないわ。
 でも、此処まで来たら私も行くわよ」
王女の気の強さに舌を巻くジョーであった。
「覚悟の上で仰っているのでしょうから、お…いえ、私は止めません。
 いざとなったら出来る限りの事をして貴女を守ります」
「『俺』で構わないわよ。気を遣わないで。私は飽くまでも1出場者。
 それにしても貴方は随分とギャラクターに恨みを抱えているようね」
「子供の頃……両親を眼の前で惨殺されていますからね」
ジョーは静かに答えた。
その瞳が一瞬だけ遠くを見つめた。
「そうだったの……。子供の頃って、貴方、まだ未成年でしょ?それは辛かったわね。
 だからこんな危険な仕事に身を投じているのね」
王女にとっては、18歳もまだ『子供』だった。
彼女の瞳がふと潤んだが、それを力強く手の甲で拭った。
「私も負けてはいられない。この国をギャラクターに牛耳られない為にも。
 父にこれ以上愚かな過ちを起こさせない為にも!」
王女が決意を新たにした。
「さあ、王女様。次の競技が始まりますよ」
ジョーはそう言うとさり気なく王女から離れた。

最後の競技は、バズーカ砲を取り扱う競技だった。
これはさすがの王女も脱落するのではないか、とジョーは思った。
バズーカ砲は戦時中に使われた89ミリの口径のものだった。
これは重さもあるし、反動も大きい。
対戦車用なのだ。
女性の膂力では吹き飛ばされるのではないか、とジョーは考えた。
ジョーも背の高さの割には細い身体をしているが、筋肉をしっかり付けている。
その為、見掛けよりも力がある。
そして彼には何より瞬発力があり、耐久力にも優れている。
以前任務の中で、特別に作られた150ミリの特大バズーカ砲を撃っている。
このバズーカ砲は国連軍選抜射撃部隊の人間でも、誰も取り扱えなかったものであった。
ジョーにとってみれば、89ミリのバズーカ砲などおもちゃ同然と言えた。
このバズーカ砲で500メートル先にある巨大戦車を1発で粉々にする事がこの競技を通過する条件となっていた。
1発で粉々に粉砕しなければならない、と言う処がポイントで、つまりは頭を使ってどこを攻撃したら一番効率が良いかを考える必要があった。
射撃の選手でもバズーカ砲を取り扱った事のある者は殆どいないだろう。
この最後の競技で何人残るだろうか、とジョーは考えた。
出来るだけ少なくあってくれた方が彼はやりやすくなる。
王女は鉄獣にはウラン鉱のレーザービーム砲の射出口が5基装備されると言っていた。
ギャラクターが必要としているのは最低でも5人だろう。
だが、この競技によって振り落とされた後の人数は5人には満たないに違いない、とジョーは瞬時に計算した。

バズーカ砲に逆に吹き飛ばされる者が続出し、最後に残ったのは4人だった。
ジョーが驚いたのはその残った中に王女がいた事である。
(女だてらに…驚いたな。まるでジュンみてぇだ……)
とジュンが訊いたら怒り出しそうな事を思った。
(さて、問題はこれからだ……。奴らはどう出る?)
選手団の中に紛れてこちらを見ている健と目線が合った。
彼も油断のない眼で周囲を見回していた。
「残った4人の選手に、国王から勲章を手渡しましょう。4人は前に」
とアナウンスがあり、問題のアスリア国王が出て来た。
でっぷりとした恰幅の良い体格に大きな王冠を被り、これでもかと言うような贅沢な金糸で織られたマントのような式服を着ていた。
顔付きはジョーから見たらふてぶてしいように感じられた。
王家の誇り、と言った感じではなく、まさにふてぶてしいと言う表現がピッタリだった。
国王はジョーに声を掛けた。
「君の射撃の腕は大したものだ。私の部下に貰いたいものだな」
そう言って勲章を手ずからジョーの胸に付けた。
そうして他の3人にも勲章が付けられた。
王女の胸に勲章を付ける時、国王の手が一瞬止まった。
偽名で出場していたが、国王にはそれが自分の娘だと解ったのではないか、とジョーは考えを巡らせた。
4人の合格者全員に勲章が付けられた時だった。
その勲章から紫色の煙が各自の顔に向けて噴射されたのである。
(催眠ガスだ……)
ジョーは咄嗟に呼吸を止めて、やられた振りをし、苦しそうに地面へと倒れた。
健の眼が光った。
4台のジープに8人のギャラクターの隊員服が彼の眼に入った。
それぞれが4人の合格者を肩に抱えるとジープに乗せて、あっと言う間に会場から消え去った。
会場が騒然となった。
その時、既に健の姿は会場から掻き消えていた。




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