『国際潜入捜査(5)』

健は風のような速さで会場を出ると、一番後ろのジープの後部にしがみ付いた。
ジープは屋根があるタイプで、水陸両用車となっていた。
健は気付かれないように上って行き、ルーフへと張り付いた。
健が乗った車にはジョーはいない。
ジョーはその1台先を走るジープの中だ。
(ジョーの事だ。催眠ガスにやられて寝た振りをしているだけだとは思うが……)
健は不安だった。
ジープはぐんぐんと競技場を離れて行き、山間部へと迫っていた。
どうやらこの水陸両用ジープはその中の湖へと潜って行くらしい。
バードスタイルになってはいないが、その間呼吸を止めている事は可能だろう。
長時間の水中走行にならない事を期待するしかなかった。
健やジョーは15分は呼吸を止めている事が出来るように訓練をしている。
5分も掛からずに敵の基地に到着した。
健はヒラリとジープから降りて、物陰から様子を視察した。
拉致された4人はまだ眠っている。
ギャラクターの隊員に1人1人肩に担ぎ上げられた。
ジョーはやはり息を止めていてガスにはやられていなかった。
チラリと一瞬健に目線を送り、気を失っている振りを続けた。

4人が放り込まれたのは地下牢だった。
「女が1人居るがまあ仕方がねぇ。一緒に放り込んでおけ」
ギャラクターの隊員はそうして後ろ手に縛りつけた4人を地下牢の中に放り出し、出て行った。
表に1人見張りがいる。
ジョーは王女ににじり寄って、含み声で声を掛けた。
「王女様、王女様、しっかりして下さい!」
王女は「うーん」と言った切りでまだ目覚めない。
ジョーは自分を拘束するロープを解く事にした。
上手く力を緩めたりする事でロープ位は簡単に解けるように訓練されている。
2〜3分で解く事に成功した。
自由になったジョーは王女の肩を揺らした。
勿論見張りの眼には気を配っている。
「王女様!」
ジョーが肩を揺らすと、薄っすらと王女の意識が戻った。
「お怪我はありませんか?」
「大丈夫よ」
「ロープを解きましょう」
「いいえ、このまま様子を見ましょう。これから私達をどうするつもりなのか…」
「解りました」
ジョーは緩めたロープを再び後方で両手に嵌めて、床に転がった。
1時間程経って、外から別の隊員がやって来て、見張りの男とボソボソと話していた。
針が落ちる音でも聞き取れるように鍛えられているジョーには「カッツェ様」と言う単語がしっかりと聞こえていた。
そして、見張りの男がガチャガチャと音を立て、牢の鍵を開け、男達が4人乱暴に入って来た。
それぞれの射撃選手を1人ずつ引き摺るようにして大広間まで連れ出した。

そこに待っていたのは、国王とそして、あのベルク・カッツェだった。
「優秀なる射撃選手の諸君。射撃大会での激闘、ご苦労だったな」
あの癇に障る声が上から響いて来た。
ジョーは今目覚めた振りをして、「俺達をどうする気だ?」と訊いた。
「君があのパーフェクトで通過した男だね。我々にとっては期待の星と言う訳だな」
(けっ!何が『期待の星』だ!)
反吐を吐きたい思いで、ジョーは凄みのある眼でカッツェを睨んだ。
「ふうむ…。こいつはなかなか骨がありそうだ。
 尊敬の眼で私を見るように少し痛めつけてやれ!」
カッツェの命令で銃を持った隊員達が近づいて来て、銃把でジョーの首筋を殴ろうとした。
反射的にそれを避けた。
「ほう、敏捷性も大したものだ。少し大人しくさせろ」
カッツェが紫のマントを翻して命令した。
隊員が2名後方からジョーの左右の腕を掴んで無理矢理に立たせた。
前からライフルを持った隊員がその銃床でジョーの腹部をしこたま打った。
これはさすがに堪えた。
受身を取る事が出来なかったからである。
「ぐ…うっ……」
ジョーは血反吐を吐き、力尽きたように床に崩れ落ちた。
王女が心配をしたが、唇から血を滴らせながらもそっと王女の顔を盗み見てニヤリと笑い、やられた事が演技である事を伝えた。
しかし、痛手が無いと言えば嘘になる。
残りの2人の人質がその様子を見て怯えた。

何時の間にかカッツェの横には国王が立っていた。
王女を除き、国外の選手だった。
王女が立ち上がった。
ジョーが止めようとしたが遅かった。
「お父様!私です。もうこんな事はやめて眼を覚まして下さい!」
「ええいっ!こいつが『お転婆王女』か?!」
カッツェがヒールの高い脚で王女の腹部を蹴った。
「王女様!」
ジョーが駆け寄り、後方に庇った。
「カッツェめ!」
攻撃を仕掛ける。
「もう様子を見る必要なんてない。3人は早く逃げるんだ!」
カッツェの肩にジョーの長い脚が伸びた。
重いキックに思わず吹っ飛ばされるカッツェ。
それを見たギャラクターの隊員達が一気にジョーの前に立ちはだかった。
「逃がす訳には行かぬ。君達には新しい鉄獣メカの射手となって貰わなければならないからな」
「ついに本音を言ったか、カッツェ」
「カッツェ様と言え!」
ジョーに向かって銃が発射されたが、ジョーは「みんな伏せろ!」と言っておいて、自分は高く跳躍し、ギャラクターの隊員にそのままキックを喰らわせた。
引き続き大腿の隠しポケットからエアガンを取り出し、敵の手を射抜いて行く。
さすがに羽根手裏剣は『科学忍者隊G−2号』の武器としてギャラクターにも知られているだろう。
エアガンなら、余程詳細に見なければ解るまい、と判断したのだ。
ブレスレットがなく、変身が出来ない以上、仕方がなかった。
乱闘が始まった処へ、健も乱入して来た。
「誰だ、この若造達は?!こんな者の侵入を許すとは馬鹿者どもめ!
 まさかガッチャマンまで連れて来てはいないだろうな!」
カッツェが1歩引いた。
健が加わった事で戦力が倍増した。
簡単には見切れないような速さで、敵がバタバタと倒れて行く。
変身しなくてもこれだけの強さを持つ2人であった。
健もブーメランを出さずに素手で戦っていた。
健が来たので、ジョーもエアガンを仕舞った。
「カッツェ!国王を唆して、ウラン鉱を入手するのが貴様の目的だな!?」
健が叫んだ。
「悪いが建造中のメカは俺が時限爆弾を仕掛けて来た。
 後5分もすればメカだけが爆発する分量をな。
 お前達の野望は費えるのだ!」
「いい加減に国王も王女の言うように眼を覚ましたらどうなんだ?」
ジョーが健の相変わらずの手際の良さに感心しながらも凄んで見せた。
「もう、この射撃選手達は無用だろう?手放した方が得策だぜ?
 こんな事をしたらこの選手達の母国からも避難囂々だろうよ」
2人はまだギャラクターの兵士と闘いながら話を進める余裕があった。
残兵はもう後僅かだった。
2人だけでわらわらと現われる100人以上のギャラクターを変身せずに倒したのだ。
「貴様達は何者だ?」
黄色い声でカッツェが訊いた。
「ISOの特殊工作員、とだけ言っておこう」
健が答えて、そのジャンプ力で国王のすぐ横へと立ち、その首に横から腕を回した。
「国王。眼を覚まして下さい。
 この男は世界征服を貴方と一緒にやり遂げる気など全くないのです。
 貴方は利用されているのです」
「うるさい!」
国王がこの場で初めて喋った。
その眼はもう普通では無かった。
薬物か何かでやられているのだろう。
既に洗脳が済んでいる事をその眼が物語っていた。
「お父様……」
「ジョー、洗脳されているぞ。病院に運んで何とかしなければ」
「ああ……」
そう会話をしている間にも国王の細胞が破壊されつつあるようだった。
少しずつ肌の色が死んだように変わって行く。
「こうなったら、この国諸共吹き飛んでしまう原子力爆弾を発射するぞ。
 ふはははははは……!」
「国王が言う事は本当だぞ。のんびりしている時ではない。
 私は逃げさせて貰うよ」
カッツェがマントを翻して、脱出用カプセルに乗ってしまった。
「くそぅ。逃がしてしまったか……」
「お父様は狂ってしまった。ギャラクターのせいで!」
王女が顔を覆った。
「健、原子力爆弾のスイッチを探そう。押されたら大変な事になるぞ」
「父を射殺して下さい。早く!貴方の腕なら出来る筈でしょ?」
王女が茫然自失とした表情でジョーに命じた。




inserted by FC2 system