『国際潜入捜査(6)』

その時、民衆が王女を追って、武器を手に基地へと入って来た。
「父を射殺しなさい!」
と見知らぬ男に命じている王女を見て、皆顔を見合わせた。
その時、健は王女に向かって言った。
「駄目です!親と子が殺し合っては行けない!」
王女が決意を崩さないようにする為に答えずにいると、代わりにジョーが呟いた。
「殺すのは王女じゃねぇ。この俺だ。
 このまま原子力爆弾を落とさせて多くの犠牲者を出すか、洗脳の為の薬により脳細胞や全身の細胞が破壊されてもうすぐ死ぬしかないこの人を撃つのか…。
 二者択一をするしかないのなら、俺はやむを得ない決断だと思う…」
「それでいいのか?!それで王女が救われるのか?
 一生十字架を背負って生きて行く事になるんだぞ!」
「『だから』俺が手を下すんだ。
 健、お前は真っ白いマントを持つ大鷲の健だ。
 おめぇは真っ白なままでいろ。
 直接手を下す陰の役は俺が引き受ける。
 父親の射殺命令を下した王女の胸の内は俺には良く解るぜ。
 どんな親でも親は親だ。
 正義の為に死んだ父親を持つお前には解らねぇかもしれねぇ。
 だが、王女は国民を守る為にこの決断を下したんだ。
 俺はその気持ちに応えてやりてぇ!」
ジョーは辛い胸の内を明かした。
彼は自分の役割を知っているのだ。
この役目を果たすのは自分しかいないのだと……。
健には出来まい。
民衆にも出来る者はいないだろう。
ジョーは例えその事が原因でこの国家に拘束されるような事になっても止むを得ない事だ、とそこまで覚悟を決めていた。
「時間がありません!早く!」
王女の言葉に嘘がない事をジョーはハッキリと確認した。
だが、確認しておきたい事があった。
問題の原子力爆弾がどこにあるのかだ。
ジョーは国王にさっと近づき、銃口を腹部に当てながら訊いた。
「あんたを今楽にしてやる。だから、あんたが生まれたこの国を最後は守って逝け。
 原子力爆弾はどこにある?そして制御装置は!?」
国王が我に返ったように眼を見開いた。
「あ…あ…、原子力爆弾はホレバレー山の麓にある。
 スイッチは…これ、じゃ……」
自分の袂から原子力爆弾の爆破装置を取り出した。
「これと同じ爆破装置をベルク・カッツェが持っておる……。
 私がこれを押さずとも……自分が安全圏に出たらカッツェが押すだろう。
 さっきあんた達が…閉じ込められていた地下牢に秘密の出入口がある。
 そこから地下の洞窟へ行け。爆破停止装置がある。
 但しそれを押す事で…この基地も5分後に爆発する事になっておる。
 側溝に脱出口があるから、すぐにそこから出る、のだ……」
国王は眼を剥いた。
「お嬢さんに話す事はないのですか?」
ジョーが訊ねたがもう言葉を発する事が出来なかった。
ジョーは王女を見た。
王女が頷いた。
そして、ジョーは哀しい眼をしてトリガーを絞った、かと思ったが、国王の身体が勝手に弛緩したのを見て取って、健に預けた。
「連れ帰って、助かるかどうかは解らねぇ。だが南部博士に診せるだけでも診せてみようぜ、健」
「ああ……」
健は答えて肩に国王の身体を担いだ。

「皆さんはすぐに此処から避難して下さい。
 俺達が何としても爆破を喰い止めます!」
健が全員に向かって大声を発した。
逃げ出す者は無かった。
王女が逃げ出さないからである。
「早く!逃げて下さい!王女様が逃げなければ誰も逃げられないではありませんか?」
健がにじり寄った。
「いいえ。私の国の事ですから。皆さんは早くお逃げなさい!命令です!」
『命令です』の言葉が一際強くなった。
そこで王女を慕って此処まで来た人々はついに後退し始めた。
「とにかく急がなければ!」
健とジョーは頷き合った。
国王が意識を失う前に告げた場所へと急ぐ。
いつカッツェが爆破ボタンを押さぬとは限らないからである。
2人は風のように走った。
健は国王と言う荷物を背負っていたが、それでもジョーに遅れる事はなかった。
さすがはリーダーである。
その身体能力は特筆に価する。
もはや王女の事よりも爆発を防ぐ事が第一の任務であった。
地下牢へと走り込むと、2人は壁のあちこちを叩き始めた。
「此処だぜ、健!」
ジョーがそこだけ音が違う場所を探し当て、体当たりをすると壁がぐるりと回った。
忍者屋敷のような仕組みだ。
王女は辛うじて追い付いて来て、2人が回転扉から突入するのを見た。
彼女のその後を追い、ドアを押す。
中には洞窟が広がっていた。
後は爆破停止装置を一刻も早く探す事だ。
ジョーと健は既に先を行き、慎重に装置を探していた。
「ジョー!あれだっ!」
健が指差した先は洞窟の天井だった。
「よし、あのスイッチを押せばいいんだな?任せとけ!」
ジョーはエアガンを取り出し、ワイヤーを伸ばした。
ガラスが割れる音がして、爆破停止装置のスイッチを押す事に成功する。
「王女様。後5分で此処は爆発します!早くっ!」
ジョーが手で王女を煽るようして呼んだ時、王女は「私は此処に残ります」と呟いた。
「父の責任は私の責任。2人此処で死にます。父を下ろして下さい」
王女は膝まづいて十字を切った。
ジョーは走り寄って、王女の頬を張った。
王女が数メートル飛んだ。
「失礼な事をしてすみません。後で出る処に出ても結構です。
 でも、父親の責任でこうなったのなら、貴女がこの国を作り直すべきなんではありませんか?」
「王女様……」
健が優しく手を差し伸べた。
「ジョーの言う通りです。貴女は今死ぬべきではありません。
 国王だって回復すれば元のお父様に戻るかもしれないのですよ」
「………私は、父を更正させたかった。でもそれが叶わずこんな事になってしまったのです。
 私がこの国を混乱に陥れた張本人なのです!」
「だから、俺が手を汚そうとしたんだ。貴女が苦しむ位なら、と思って。
 それでも、貴女は此処で死にますか?どうしてもと言うのなら置いて行きますよ」
「ジョー!」
健が窘めたが、彼は一瞬にして理解した。
ジョーは王女を気絶させてでも連れ出すつもりでいる事に。
「さあ、一刻を争うんです!」
健が差し出したままだったその手を王女は漸く握って立ち上がった。
「解りました」

3人は出来る限りの速さで走り出した。
だがどうしても王女が遅れがちになる。
科学忍者隊の2人と同じように走れ、と言うのには無理があった。
「健!時間がねぇっ!」
基地が爆発するまで後30秒を切っていた。
ジョーは王女を抱き上げた。
「ジョー!国王が言っていたのは、この側溝だ!早くしろっ!」
爆発が始まった。
遠くから段々と爆発音が近づいて来る。
「もう間に合わねぇっ!」
ジョーは咄嗟に王女に覆い被さった。
同時に健は国王の身体を庇った。
こんな時にバードスタイルになれたら……。
一瞬だがそんな思いがジョーの脳裏を掠めた。
身体を守ってくれるマントは、今は無かった。
背中に激しい衝撃を受け、ジョーは意識を失った。




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