『チーム護衛(1)』

「博士、すみません。
 この間俺と健が入院している間に、竜が運転していてギャラクターに襲われたとか……」
久々に南部博士の護衛兼運転手の役割をしているジョーが言った。
「敵は倒せたが、何でも車は大破したと聞きましたが……」
「心配は要らん。この通り、私はどこも怪我をしてはいない。
 まあ、大切な書類が燃えてしまったが、それも基地にデータが残してあったので再生出来た」
「危険な目に遭わせてしまいました…」
ジョーが済まなそうに一瞬眼を伏せた。
「何を言う。君は生死の境を彷徨っていたのだぞ。その間の事まで気にする必要はない」
「そうですが、俺が負傷しなければ……」
「君が負傷したのは止むを得ない事情からだった。
 それより無事に任務に戻ってくれてホッとしている。
 君にもしもの事があったら、ご両親に申し訳が立たないからね」
「博士……」
博士は彼の事を、ジョーの両親からの大切な預かり物だと考えているのだ、と言う事がジョーにも伝わった。
「もう何ともありませんから、安心して乗っていて下さい。
 今日の行先はISOではなく、国際会議場ですね?」
「ああ、そうだ。では頼むぞ、ジョー」
博士もG−2号機の後部座席には安心して座れるようだ。
それに何よりもジョーの運転の時は、防弾ガラスに囲まれていないので、閉塞感から解放されるらしい。
国際会議場にも何度か行っているので、道筋は頭の中に入っている。
「では出しますよ」
ジョーは静かに車を出した。
もう完全に任務に復帰しているし、昨日もギャラクターと大立ち回りをしているが、別段異常もなく、十二分な活躍を見せた。
博士はそれを健から報告されている。
「君は本当に危なかったんだぞ。内臓も酷く痛めつけられていた。
 それがこんなに早く回復するとは、正直思ってもみなかったよ」
「俺は死に損なうように出来ているんですよ。
 回復が早いのは若さのせいか、ギャラクターへの復讐心のせいか……」
「ジョー……。復讐心はまだ捨てられんか?」
「10年もそれだけを糧にして生きて来た俺からそれを取ったらただの『抜け殻』ですよ。
 俺は博士が科学忍者隊にしてくれなくても、1人ででもギャラクターと言う組織と闘った事でしょう。
 その時は、もうとっくに死んでいたかもしれませんね。
 だから……博士には二重の意味で感謝していますよ。
 生命を救って下さった事、そして科学忍者隊として俺を育てて下さった事……」
「私は君から夢を奪ってしまった。
 普通の少年としてレーサーへの夢を邁進させるべきだったと最近はそう思い始めている。
 科学忍者隊は青年若しくはもっと経験を積んだ壮年で組むべきだったかもしれんな……」
「でも、博士。10代の敏捷さが欲しかったんでしょう?解っていますよ。
 博士は何も後悔なんてする必要はありません。
 俺達は孤児なんですから、死んでも誰も哀しみません」
「それは違う!」
博士の声が一段大きくなった。
「ジョー…それは違う。君には哀しむ仲間が居る。私も哀しむ。テレサだって哀しむだろう……」
ジョーはその言葉に一瞬眼を閉じた。
解っていた……。
手術の後、心配してくれた博士や仲間達の事は……。
意識不明の間にテレサ婆さんも見舞いに来たと後で聞いた。
「大丈夫です。博士。生命を無駄に捨てるような事はしません。
 ギャラクターを倒したら、その後は自分の人生の事を良く考える事にしますよ。
 それまでは…、奴らを倒す事に集中したいんです」
「君の気持ちは解る。私達科学者も後方から出来る限りの支援をして行くつもりだ」
「ええ、俺達科学忍者隊だけで敵が倒せるとは俺も思っていませんよ」
先の信号が赤になったので、ジョーはゆっくりとブレーキを踏んだ。
「言いましたっけ?博士。
 俺は行く行くはF1レーサーになって、あのお立ち台の上に立つ事が夢なんですよ」
「ジョー。君のテクニックなら必ずや出来るだろう。メカニックには最高のメンバーをつけて上げよう」
「いえ、メンバーも自分の費用で自分が集める。それが俺の夢です。
 それでなければ博士から完全に自立した事にはなりませんから」
「君は昔から人一倍自立心が高い男だったな……。
 そんな日が来る事を楽しみにしているよ」
南部が遠い眼をした。
何年か後の更に逞しく成長したジョーを想像しているのだろう。

「博士!」
その時、ジョーが叫んだ。
「狙って来ました!後方に2台、いや、3台……。
 シートベルトを出します!身を低く構えていて下さい!」
「解った!」
博士が言われた通り、頭を抱えて身を低くする。
この体勢は決して楽な物ではない。
「くそう!幅寄せして来やがる!」
ジョーは必死に対抗していたが、ふと、空に影を見てハッとした。
「博士、上を見て下さい!メカ鉄獣です!健達を呼んで下さい!」
「うむ……」
博士はすぐに通信機を取り出し、G−1号、G−3号、G−4号、G−5号を呼び出した。
幸い全員が基地のレストランに揃っていたようで、すぐに出動態勢が取れた。
「博士!そこのトンネルに入ったらすぐに変身しますので、降りて緊急避難用通路に身を隠していて下さい。
 それから、そのデータを俺に預けて下さい!
 奴らの狙いは博士の生命だけではなく、そのデータにもあると思います。
 でなければメカ鉄獣まで出撃させるなんて念が入り過ぎてます」
「解った!ジョー、無茶はするな。皆が到着するまでは慎重にな」
「ラジャー」
ジョーは南部博士からデータが入った特殊鞄を受け取ると、博士を拘束していたシートベルトを外すボタンを押した。
そして、トンネルに滑り込むと、博士の為にボタンを押し、ドアを開けた。
南部博士は転がり出るかのようにG−2号機を降り、ジョーが言ったように、緊急避難用の通路に潜り込んだ。
ジョーはすぐさま「バードGO!」とバードスタイルに変身し、Uターンしてトンネルから出た時にはG−2号機はストックカーから単座のフォーミュラカー状のマシンに変わっていた。
敵の車も当然乍ら普通車ではなかった。
素早く攻撃性のある改造車へと変化し、タイヤからはチェーンソーが飛び出した。
「そうは行くか!」
ジョーはその敵の車をジャンプ台にしてその先へと飛んだ。
着地するとコンドルマシーンの準備をした。
ガトリング砲の発射ボタンを優雅に押す。
ガガガガガっ!
狙い違わず敵の改造車のタイヤを撃ち抜いて行く。
南部は遠く離れたトンネルの避難通路の中から双眼鏡を取り出し、その様子を観察していた。
(どうやらジョーはもう大丈夫なようだな……)
こんな闘いの最中に不謹慎かとは思ったが、正直ホッとしていた。
そこへゴッドフェニックスの勇姿が飛び込んで来た。
『ジョー!健達が到着したぞ!』
南部からの通信を聞き、ジョーはデータの入った特殊鞄を小脇に抱えてG−2号機を乗り捨てると、瞬速で走り始め、ブレスレットで竜を呼び出した。
「竜!博士と俺はトップドームから乗り込むからGー2号メカはそっちで回収してくれ!」
『よっしゃあ!おらに任せとけ!』
ジョーは南部博士の元に走り寄ると、トンネルから駆け出し、博士の身体を支えながらゴッドフェニックスのトップドームへと跳躍した。
そして無人のG−2号機は竜に回収され、5台のメカが合体、科学忍者隊の戦士が全員揃った。
「よぉし、超バードミサイルをお見舞いしてやるぜ!」
勇躍ジョーは赤いボタンの前に立った。
「健、俺の復帰祝いに1発ドカンとやらせてくれ!」
健は苦笑いをした。
(そうやってお前はミサイル好きを装って、俺達の手を汚さないようにしているつもりなのか?)
南部博士と視線を交わし、健は頷いた。
「解った。ジョー、お前に任せる」
健は決意した。
メカ鉄獣は超バードミサイルが見事にど真ん中に命中して、その巨体を大爆発させ消え失せた。
その中では多くのギャラクターの隊士の生命もまた散って行くのだ。
ジョーは私怨だけでは片付けられない仲間達への複雑な気持ちをいつもこの1発に込めていたのである。

南部博士はジョーに送られて国際会議場へと到着した。
「30分の遅れですぞ。南部博士」
遅刻を咎める者があったが、彼が途中襲われた事、メカ鉄獣の出現についての説明があると押し黙った。
南部はこの国際会議へのギャラクターの関心が高い事を告げ、場合によってはこの会場に既にギャラクターが潜入している可能性がある事も考えられると言った。
「どうでしょう。此処は万が一の時の我々の護衛として科学忍者隊の入室を求めたい」
と博士が満場に告げた。
「どうですかな?皆さん。私は賛成します」
最初に声を挙げたのはアンダーソン長官だった。
この会議の最高責任者でもある長官がこう言った反応を示したのでは、他の出席者も首を縦に振らざるを得なかった。
こうして入室を認められた科学忍者隊が、国際会議場の隅々に油断無く散った。




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