『チーム護衛(3)』

ブラックバードは決して侮れなかった。
先程はジョーに不意打ちを喰らって、力を発揮出来なかったが、いざ戦闘体勢に入るとこれがなかなか強い。
健、ジョー、ジュンの3人はそれぞれ苦戦していた。
ジョーは仲間の戦況を読む余裕は残していたが、なかなか相手に致命的なダメージを与えられない。
ジュンは女の子のものとは思えない、確実で強い蹴りをビシッと華麗に決めて行くが、相手は飛ばされてもすぐに起き上がって来る強かさがあった。
(やはり普通の隊員と違って手強いわ……)
もう止むを得ない。
ヨーヨーで顎に打撃を与え、電気ショックを送る。
この会議場で爆発を起こす訳には行かなかったので、闘い方にも制約があった。
出来るものなら外へと闘いの場を持ち込みたかったが、外には一般人も居る。
此処で片をつけるしかない、と3人は思っていた。
電気ショックで動けなくなったブラックバードの腹にジュンの膝蹴りが決まった。
それでも、敵はまだ起き上がって来た。
ジュンは急所攻撃を仕掛けたが、見切られて、左腕を取られた。
だが、上手くスルリと抜けて、敵を投げ飛ばす。
敵は強かに頭を打った筈だが、何事も無かったかのように再び立ち上がった。
ジュンは身震いをした。

健は場所柄マキビシ爆弾を使う事が出来ないので、身体を使った戦闘とブーメランに頼る他なかった。
天井の照明にぶら下がったりしながら、奇襲作戦を考える。
頭より先に身体が動く。
とにかく彼らの動きは普通の人間には見切れない程早かった。
科学忍者隊・ブラックバード隊ともに実力が伯仲していた。
健は格闘技のさまざまな技を使い、華麗に攻めて行くが、敵も去るもの、動きを見切られたり逆に攻撃を喰らわされたりしている。
バードスーツのお陰でダメージは最低限に抑えられている。
健は的確にブーメランを繰り出しているので、相手にもダメージはある筈なのだが、なかなか潰れない。
しかし、互角以上の闘いはしているので、健にしろ、ジュンにしろ、いずれは根負けした方が崩れるだろう、と冷静に見ていたジョーは思った。
ジョーはと言えば、投擲武器が活躍してくれた。
周りの施設を壊す事もない。
エアガンよりも羽根手裏剣を中心に活用し、後はとにかく自身の肉体でぶつかって行った。
動きが早い。
シュッと消えたと思うと、もう別の場所から攻撃を仕掛けている。
彼は科学忍者隊の中で最も足が速い。
しかし、彼と対峙するブラックバードも精鋭だった。
先程ジョーに銃を突きつけられた者と同一人物とは思えない程の強さだ。
ジョーにふと閃きがあった。
ブレスレットに向かって叫ぶ。
「南部博士!カッツェとこいつらは陽動作戦をしたんだと思います!
 まだスパイはその中に居ます!会議を再開しては行けません!」
『何だと?』
南部博士は辺りをゆっくりと見回した。
そして、ある男に眼を留めた。
「……グランディス博士、その眼鏡はどうされました?
 それはデータ解析用ではありませんか?
 会議の映像や音声をどこかに転送するつもりですな?」
南部が向かい側の席にいる怪しい科学者を見咎めた。
即座に竜と甚平がその科学者の前へと跳躍した。
「まさか…。ギャラクターはあの優秀なグランディス博士まで殺したと言うのか?
 何と言う事だ……。恐ろしい事を……」
南部の呟きに、会場内もざわざわと揺れた。
グランディスと呼ばれた男はマスクを外し、テーブルを乗り越えて会議場の真ん中へと出た。
ギャラクターの隊長だったが、コスプレはしておらず、素顔のままだった。
だが、銃器は持っていたし、なかなかの実力派だった。
「甚平、気をつけろや」
「解ってるやいっ!」
「博士!どこかに全員避難して下さい」
「いや、外では健達がブラックバードと闘っている。
 この部屋の隅に固まっている以外に他あるまい」
博士は冷静に竜に答えた。
甚平はアメリカンクラッカーを仕掛けた。
敵が持っている銃に絡まったが、その銃はあっさりと投げ捨てられ、もう1丁の銃が出て来た。
「くそぅ、2丁拳銃だったんだ…」
竜が呟いて、その巨体で突進した。
そのまま肩からぶつかる。
科学者に化けていた隊長が竜に吹っ飛ばされた。
そこに甚平が小さい身体ながら鋭いキックを入れる。
なかなか伸びないその男の腹の上に、竜がドスンと音を立てて座り込み、左右の頬に何発もの張り手を喰らわせた。
竜の重みと張り手に耐え切れなかったのか、男は漸く気絶した。
「何だ、竜。おいらももう少し活躍したかったな……。
 ブラックバードとはやっぱり出来が違うな」
余裕の2人を見て、更に逃げ出そうとした男が居た。
「甚平!」
南部の鋭い声に、甚平はアメリカンクラッカーを投げ、両足をぐるぐる巻きにした。
逃げ出した男はどうっと音を立てて倒れた。
「まだスパイがいるって事かいのう?」
竜は辺りを見回した。
南部もアンダーソン長官も油断の無い眼で科学者達を見ている。
仲間を疑わなければならないのは、苦しい事だったが、このような事態では仕方がない。
アンダーソン長官は会議の延期を心に決めた。

表の通路ではまだ3対3の死闘が繰り広げられていた。
ジョーは羽根手裏剣でブラックバードの眼を突く作戦に出た。
少々荒々しいし残酷だとは思うが、仕方のない事だ。
勝ちを収めなければ自分の生命がない。
それが科学忍者隊だ。
敵に同情は出来ない。
ジョーは跳躍して敵に近寄り、足払いをした。
敵はさすがに倒れずによろめいただけで体勢を立て直した。
だが、その間に隙が出来た。
すかさず羽根手裏剣を繰り出した。
狙い違わず、敵のヘルメットの左眼部分に羽根手裏剣が突き刺さり、地響きのような悲鳴が上がった。
これで敵は戦意を喪失したかと思ったが、そうではなかった。
何と先に返しが付いた羽根手裏剣を自らの手で抜くと言う荒業をやって見せたこの男は、ジョーへの敵愾心をより一層強くした。
眼の部分が割れたヘルメットの中から血が噴き出し、ジョーは返り血をバイザーに浴びた。
一瞬視界が真っ赤になった。
その隙を見て、敵はジョーの腹部に向けて手甲についたギザギザな形をした超鋼カッターを出し、それを当てて来ようとした。
しかし、ジョーはそれを見切って跳躍した。
超鋼カッターは空(くう)を切った。
しかし、その間にも第二第三の攻撃が仕掛けられて来た。
敵は何かの操作をして同じ物を膝からにょきっと出した。
ジョーにそれで膝蹴りを喰らわすつもりに違いない。
これを喰らったらいくらバードスタイルでも、致命傷を負うに違いなかった。
(反対の眼もやるしかねぇか……)
ジョーは敵の攻撃を確実に避けながら、反撃に出るタイミングを計っていた。
片目になったブラックバードはガードがより固くなった。
なかなか羽根手裏剣で右眼を狙わせなかった。
(仕方がねぇ。肉を切らせて何とやらだ!)
ジョーはある程度の傷を受ける覚悟をして、意表をついて天井へと跳躍して天井を強く蹴って反転し、ブラックバードに唸りを上げて突撃した。
頭にエルボーを喰らわせて脳震盪を起こさせている間に、ジョーはエアガンを取り出し、敵の腹部に突き当てた。
衝撃弾を発射し、取り敢えず敵を眠らせると、ジョーは後ろ手にこの男をエアガンのワイヤーで縛りつけ、天井の排気口に吊るし上げた。
「暫くそこで眠ってな!」
そう呟くと、ジュンの応援に駆けつけた。
1度は傷を受ける覚悟もしたが、何とか無傷で済んだ。
ジョーはバイザーに付いた血糊を頭を振って振り払った。
バイザーは液体を簡単に払い除けられる作りになっていた。
でなければ水中などでの戦闘の後、外に出た時に視界が悪くなってしまう。
その辺りはきちんと考えられて設計されていた。
「ジュン!大丈夫か?」
ジョーが駆け寄るとジュンは蒼い顔をしていた。
「ちょっと…左腕を切られたわ。でも、大丈夫。掠り傷よ」
「俺に任せとけ!少し休んでな!自分で手当ては出来るな?
 俺が時間を作ってやるから早く血止めをしろ!」
「有難う、ジョー」
ジュンのバードスタイルは何故か腕と太腿が露出している。
その腕をかまいたちのような衝撃が襲い、切れたのだ。
傷は深くは無かったが、出血が続いていた。
ジュンはハンカチを取り出し、右手と唇を使ってそれをきつく縛った。




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