『ダイエットの勧め』

「あの時は健の奴、もう切羽詰った顔をしてやがったぜ。
 竜、ちったぁダイエットを考えたらどうだ?」
『スナックジュン』のカウンターにいつものメンバーが並んでいた。
真ん中に竜、その右手にジョー、左手には健がいた。
竜の眼の前には大盛りのカレーライスにナポリタン、更にチョコレートケーキまで並んでいる。
ケーキは三角形に切り取られた可愛いものではない。
ホールのままの状態でどーんと皿の上に置かれていた。
それを横目で見たジョーが呆れ果てた口調で言ったのだった。
先日、鉄獣メカ『イブクロン』の中に潜入した時、砂糖を煮詰めた大型の釜の中にもう少しで落ちそうになった竜を健とジョーがそれぞれ片手で自分の身体を支えながらも救い上げたのだが、その釜から脱出を計る時に、ジョーは健に竜を預けた。
ジョーはその時の事を言っている。
健は竜の体重を1人では支え切れなかった。
竜がグツグツと煮えたぎった釜の中に落ちる寸前、ジョーが彼の身体を両脚でキャッチしたのだった。
「おめぇ、80kgってさば読みし過ぎだろ?100kgはあるんじゃねぇのか?」
健とジョーの前にはどう見ても竜が食べている量の3分の1程度の食べ物しか置かれていなかった。
2人とも決して食欲がない訳ではない。
竜が大食いなだけなのだ。
「そうねぇ。この前、ジョーと2人でヨーヨーを使って貴方を引き上げた時も尋常じゃなく重かったわ」
ジュンもジョーに同意した。
「おいらも賛成!少しはダイエットした方がいいって!
 飛び降りた時にケツから落ちるのは竜ぐらいだもんな!」
甚平まで参加して来る。
「なぁ!兄貴!」
甚平が健に同意を求めると、
「そうだな、南部博士に特別ダイエットメニューを訓練プログラムに取り込んで貰うよう申告して置こう」
健は頷きながら答えた。
「おいおい、勘弁してくれよぉ〜!」
竜はブルブルと頭(かぶり)を振った。
「しかし、あの時のジョーは大したものだったな。
 この細い両脚だけで、100kgの重さを支えたんだからな。
 俺はあの時、竜が死んだと思ったよ…」
健が竜の身体越しにそれと対照的なジョーの細い身体を覗き込むようにしながら呟いた。
「だから100kgもねぇってばっ!」
「ジョーの脚が長くて良かったよな、竜!」
甚平が冷やかした。
「そうよ、ジョーは185cmもあるのに体重は60kgしかないのよ。
 良く100kgを脚力だけで持ち上げたわよね」
「だから、100kgじゃねぇって……」
竜は頭を掻いた。
「まあ、鍛え方が違うって事さ!」
ジョーがウィンクをした。
「きっとジョーの体脂肪率は1桁台だな」
甚平が呟くと、ジョーが言った。
「甚平、こいつの注文は半分だけ受けとけ!」
「え〜?それじゃあ儲かんないよ〜、ジョーの兄貴〜ぃ!」
「注文された物は請求しておけばいいだろ?……出さなきゃいいんだ」
「そりゃねぇわ!」
竜が一際大きな声を出してから苦笑いした。
健とジュンも、ジョーと竜と甚平のやり取りにくすくすと笑っている。
このまま出動もなく、平和な1日が過ぎて行きそうな予感をさせる、そんな夜だった……。
彼らにだって、そんな1日があっても良い筈だ。
本来ならば、笑いさざめき乍ら過ごすような年頃なのである。




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