『ジョーの覚悟』

ゴッドフェニックスはジョー不在のまま、地震の原因を探りに出動していた。
「ジョーの兄貴はどっか具合でも悪いのかな?
 博士があんなに厳しく出動を止めるのをおいら初めて見たよ」
甚平が俯きながら呟いた。
「博士は自分の身体の事はお前が一番知っている筈だ、って言ってたぞい。
 そういや、今思えばもう随分前からジョーの様子が変だった感じがするのう……」
竜が健の顔を見たが、健はキッと唇を結んだまま答えようとはしなかった。
ジュンはその健の後姿に何かを感じたが、今の彼には話し掛けられる隙がないように思えた。
何事かを必死で堪(こら)えている様子に見えた。
健は科学忍者隊の中でジョーの不調に逸早く気付いていた只1人の人間だった。
(ジョー、お前はやっぱり……)
思わず計器盤を叩きそうになったのを寸止めし、ふと右側にあるあの時ジョーが叩き割った計器をじっと見つめた。
もうその計器のガラスは元通りに直されていた。
(俺達の生命を預けたあの時、ジョーは異常な状態から正気に戻ろうとしてやったのか……?)
胸が締め付けられる思いがした。
立ち上がってそのガラスに触れてみる。
(わざと自分を傷つけて、その痛みで戻ろうと……?
 あの時、ジョーはそこまで調子が悪かったのか?
 今思えば、そうだったのかもしれない。
 だが、あいつが頑なに否定をしたから、俺も眼を瞑ってしまった……。
 今更悔やんでもしょうがないが、博士は一体ジョーの身体のどこに異常を見つけたのだろうか?
 どうやって……?ジョーに何が起こっていると言うんだ?)
健の想像は必ずしも当たっているとは限らなかったが、彼らは南部博士の元に1本の電話があった事を知らない。
(精密検査をする必要がある程、悪いのか?
 異常がなければ思い切り暴れて貰う、と博士は言ったが、ジョーは俺達にG−2号機を託した……)
そこまで思い至って健はハッとした。
(……どう言う事だ?後から来る気があるのなら、G−2号機は置いて行かせる筈だ!)
まさか…と思った。
いや、そんな筈はない。
(しかし、ジョーは『俺の代わりに』と言った。あいつは何かを覚悟している…!?)
健は必死で頭の中に浮かんだ思いを打ち消そうとした。
そうすればする程、不吉な予感が頭の中から消えようとはしない。
その時、南部博士からの通信が入った。
「えっ?ジョーが!?」
健は自分の予感が的中した事を悟った。
検査を拒否して、たった1人で飛び出してしまうとは……。
博士は、ジョーは自分の不調を大分前から知っていたらしい、と言った。
(俺だって気付いていた筈だ!何故それを見過ごしてしまったのだ?)
握り締めた拳が震えた。
「ジョーの身体はそんなに悪いんですか?」
ジュンの問いに博士は答えなかった。
無言で俯いただけだった。
それが充分過ぎる程の答えだった。
ジョーの病気は生命を脅(おびや)かす処まで来ているのだ!
健は唇を噛み締めた。
苦い鉄の味がした。
博士は詳しく語らなかったので、ジョーの病気の事は詳しくは解らなかったが、ジョーが死を覚悟している事だけは、科学忍者隊の全員に重く伝わって来た。
「俺はリーダー失格だ……」
健は思わず呟いた。
気付いていたのに。
その時ならまだ救えたかもしれないのに。
助からないとしても、せめて苦しまず穏やかに過ごす事は出来たかもしれないのに……!
健は自身を責める言葉を、心の叫びを静かに仲間達に告げた。
「でも、ジョーはそれを望まなかったのよ……」
ジュンが眼を閉じて静かに言った。
「ジョーはきっと覚悟していたのだわ。私達にまで身体の不調を隠し通して……」
彼女の瞳から美しい涙がポロリと流れ落ちた。
「任務から外されるのが嫌だったのね……」
「ジョーの兄貴…。何でジョーばかりそんなに苦しい思いをしなければならないんだよぉっ。
 兄貴、教えてくれよっ!」
甚平は憚らずに泣き喚いた。
「どうしてなんだよ……?ジョーの兄貴……」
操縦席で竜も洟を啜っている。
だが、ジョーを探す前に彼らにはなすべき任務があった。
今、地球を襲っている群発地震とギャラクターとの関連性を探る事だ。
健はリーダーとしてそれを指揮しなければならなかった。
「竜、潜行だ」
友としてジョーの悲運を哀しんでいる暇はなかったのだ。
此処は私情を捨てなければならない。
大鷲の健はそう決意をして、とにかく任務遂行を急ごうとした。
ジョーの事は心配だが、一刻も早く任務を完遂しなければ、地球も危ない。
早く片をつけてジョーを探すのが、今の自分達のベストな選択だった。
そして、彼らがナマズーラと格闘している間に、ジョーはクロスカラコルムで死闘を演じ始めていたのだ。
南部博士と科学忍者隊は、ナマズーラを囮としたギャラクターの『バイブレート作戦』にまんまと引っ掛かってしまったのである。
次にジョーと再会する時には、彼がもう虫の息の状態になっているとは、まだ誰も予想だにしていなかった。
必ずまた元気な姿で逢えると信じていた。
まさかジョーがベルク・カッツェが不用意に漏らした言葉からギャラクターの本部に辿り着いていようとは思ってもいなかった。

ジョーもこのクロスカラコルムが本部だと知っていたら、最初から健にそれを告げていたと思われる。
その代わり、何としても自分も連れて行け、と食い下がり、意地でも付いて来たに違いない。
しかし、それならG−2号機を仲間達に託す事はしなかったかもしれない。
自分が居なければゴッドフェニックスがその威力を発揮出来ない状態にしておく事で、彼を闘いに参加させざるを得ないようにする為だ。
だが、彼はクロスカラコルムはギャラクターの基地の1つだと思っていたので、ゴッドフェニックスの機能を使えるようにする為にG−2号機を自分の代わりとして預け、単身で此処にやって来た。
何やら地球に大きな危機が及ぶ作戦を実行しているらしいこの基地の壊滅を手土産に、そして地球を救う事と引き換えに、華々しく最期の生命の花を散らしてやろうと考えていたからだ。
しかし、この土地に来て総裁Xの地上絵を見た事で、彼はこの場所がかなり大規模な基地である事を確信した。
すぐさまブレスレットで健に連絡を取ろうとしたが、空電となって連絡が付かなかった。
その間に彼は敵に周囲を取り囲まれていた。
眩暈も頭痛も酷く、ジョーの体調は最悪だったが、少しでも多くの敵を地獄への道連れにしてやろう、と心から思った。
彼の最後の闘いが、まさに今始まろうとしていた。
生命の刻限が迫っている中、彼はついに変身を解かれ、生身で凄まじい程の死闘を全身で演じ、ついに銃弾に倒れて捕虜となった。
此処からが科学忍者隊とギャラクターとの最後の決戦の始まりだった。
まだ序章に過ぎなかった…。




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