『ボージャン島(前編)』

甚平がジョーにせがんでサーキットに連れて行って貰っている時に事件は起こった。
『科学忍者隊、全員速やかに合体を済ませ、X−486地点にて待機せよ!』
南部博士の号令が掛かったのだ。
「G−2号、ラジャー!」
「G−4号、ラジャー!あ〜あ、折角来たのに残念だなぁ…」
後半は通信が切れてから小声で呟いた甚平だったが、ジョーはその頭を軽くゴツンと叩いて、「また連れて来てやるよ」と言ってやった。
ジョーはG−4号を停めてある地点で甚平を下ろした。
「竜!俺と甚平はユートランド郊外のサーキットだ。近くの森に出るから拾ってくれ」
ブレスレットに伝えると『解った!待っとれ』と竜の明快な返答があった。
全員が合流し、X−486地点へと急いだ。
指定の地点まで残り100kmの地点で、健が南部博士に通信を入れた。
「博士、ゴッドフェニックスはX−486地点の手前500kmの地点を通過中。
 X−486地点と言えばボージャン島の上空ですが、今回の指令は何ですか?」
南部博士がスクリーンに登場した。
『うむ。ギャラクターのメカ鉄獣がボージャン島に出現した』
中央のスクリーンにその模様が映し出される。
ボージャン島は島とは言ってもかなり大きく、風光明媚な観光地とも知られているが、地下資源が豊かな為、非常に栄えていた。
テレビの旅番組でも良く紹介されているので、科学忍者隊の5人もその様子を知っていた。
四方を海に囲まれているだけに漁業や貿易も盛んだ。
海水浴やモータースポーツを楽しむ観光客や、島の中心部にあるカジノを目当てにやってくる旅行者も多い。
『この通り、島の中心部が壊滅状態に追いやられている。
 観光客も集まっている場所だから、被害は甚大だ。
 恐らくギャラクターの狙いはこの島の地下に眠る地下資源だろう。
 諸君にはギャラクターの野望を何としても喰い止めて貰いたい』
「ラジャー!」
5人は声を揃えて答えた。
『諸君の健闘を祈る』
そう言い残して博士はスクリーンから姿を消した。
現地は今、夜を迎えていた。
カジノには相当な人が集まっていたに違いないが、街からはある筈のネオンや建物の灯りが殆ど消えていた。
映像から見て取れるのは炎による灯りだった。
「このメカ鉄獣はフクロウのような姿をしている。
 ギャラクターのメカはどう言う訳か元になった物の弱点を継承している事が多いな」
健が腕を組んで呟いた。
「フクロウは夜行性だからな。朝まで時間が稼げればもしかして…」
と言い掛けたジョーの眼がキラリと光った。
「映像を見た限り、あの小さな眼からビーム砲で攻撃を仕掛けているな。
 竜。今の画面録画してあるだろ?最初からもう1度見せてくれ」
彼は何かに気付いたのか、竜にそう告げた。
「ラジャー」
南部博士から送られて来た映像が再生される。
「止めろ!拡大してくれ」
ジョーが言った瞬間のシーンが拡大してスクリーンに表示された。
レーザー砲を発射したその瞬間が捉えられていた。
「健、見ろ!眼の中に人影がある。あのビーム砲は人間の手で制御しているんだ」
「なる程。だから、左右の眼が別々の方向に照準を合わせ、それぞれ攻撃を仕掛ける事が出来ると言う訳だな」
ジョーが全てを語る必要は無かった。
健は敏い男だ。
「健!ボージャン島の上空に到着するぞい」
竜が告げた。
「よし、一旦停止して様子を見るぞ。
 赤外線スクリーンに切り替えて現在の状況を映し出してくれ」
スクリーンの中には、あちこちに火の手と煙が上がっているのが確認出来た。
「ギャラクターめ、ひでぇ事をしやがるな!」
甚平が立ち上がって怒りを露わにした。
「奴を島から引き離さない事には、島に被害が及ぶ事になるぞ。
 竜、ゴッドフェニックスでメカ鉄獣の気を引くんだ」
健がリーダーらしい指示を出した。
相変わらず冷静だ。
「よし、おらに任せとけ!」
竜はまずは速力を上げて鉄獣に近づき、旋回しながら素早く離れた。
誘っているのだ。
案の定、鉄獣は島を攻撃する事よりも、ゴッドフェニックスに気を取られた。
「竜!全速上昇!」
「ラジャー」
竜が操縦桿を引いた。
「よし、離れるだけ離れたらバードミサイルをお見舞いしてやるぜ!」
ジョーがレーダー席から健と竜の間に立って来た。
「狙うなら眼だな。あそこが攻撃の拠点だからな」
「奴の眼はフクロウを模して小さいぞ!上手く狙えよ、ジョー」
健がジョーの肩を叩いた。
「任せとけ!」
ジョーはタイミングを計った。
だが、メカ鉄獣の方から先手を打って来た。
「左90度旋回!」
「ラジャー!」
健の指示で敵襲を避けた。
「今の攻撃は何だ?眼からのビーム砲の他にも何か武器があるぜ」
竜の座席にしがみ付いていたジョーが呟いた。
「攻撃を仕掛けて来る時に羽根が羽ばたいたわ。
 あれで風を起こして、衝撃波のような物を送って来たんじゃないかしら?」
ジュンが言った。
「また来るぞいっ!」
竜はこれも旋回して辛うじて直撃を避けたが、衝撃波の余波で計器が狂い始めた。
「計器がおかしくなったわ!」
「くそぅ。バードミサイルも使えなくなったぜ!」
ジョーが悔しげに唇を噛んだ。
「敵のメカ内に侵入するか、火の鳥で一気にやるか、どちらかしかあるまい」
「健、計器の異常で、火の鳥も駄目かもしれねぇぜ。
 俺がG−2号機からガトリング砲で敵のどてっぱらに穴を空けてやる。
 そこから侵入しようぜ。カッツェが乗り込んでいるかもしれねぇしな」
「そうだな。ジョー、そっちで竜に指示を出してくれ!」
「ラジャー」
ジョーはコックピットを飛び出した。

「竜、ノーズコーンを開けてくれ!」
スタンバイが済んで、ジョーは竜に声を掛けた。
「俺が角度を指示する。言う通りにやってくれ」
『解った!おらの腕を信じてくれ』
「ああ、任せたぜ!」
ジョーはターゲットスコープの準備をした。
「よし、竜!上昇して右30度の角度で距離500メートルを保ってくれ!」
『ラジャー!』
竜が指定の場所でゴッドフェニックスを停止させた。
『ジョー、指定通りだ。後は任せたぞ』
健の声が聞こえた。
健、ジュン、甚平の3人は既にトップドームの上にいた。
ドームはまだ開いていない。
「竜!風速と風向きのデータをくれ!」
ジョーが竜にデータを求めた。
『東北東から風速5メートルだ。丁度向かい側から吹いとる!』
竜からはすぐに応答があった。
「解った!」
ジョーは射撃に集中した。
コンドルマシンの発射ボタンを慎重に押す。
ガトリング砲が連射され、フクロウメカの腹部に穴が空いた。
「向かい風なら、威力を少し強くすればいいだけの事だ。この仕事は楽だったな…」
ジョーが呟いた。
『よし、ジョー!突っ込むぞ!竜、接近しろ!トップドームを開けてくれ』
ブレスレットから健の声が聞こえた。
ゴッドフェニックスが最接近した時にトップドームから3人が、ノーズコーンからジョーが、それぞれガトリング砲が空けた腹の穴へと跳躍した。




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