『ボージャン島(中編)』

夜のせいもあり、敵のメカに乗り移る時、甚平が目測を誤って落ちそうになった。
ジョーが軽く拾ってやる。
「ああ〜死ぬかと思った!有難う、ジョー」
「甚平、自分の生命は自分で守れよ」
短く注意をすると、もうジョーは走り出していた。
「健!俺はビーム砲の発射装置を破壊する!」
「頼んだ。ジュンと甚平は動力室の爆破、俺は司令室を探す」
「ラジャー!」
全員が健の指示に答える。
「健、終わり次第追い掛けるぜ」
「よし、みんな気をつけろ!」
健の声で別れた。
メカの形状からして、階段が多かった。
内装は何階建てかのビルのような形になっていた。
わらわらとギャラクターの隊士が銃を持って行く手を阻んで来る。
だが、彼らは科学忍者隊の敵ではなかった。
ベルク・カッツェが隊士の質の低下を嘆いているように、どこか及び腰の処がある。
自分達が形勢有利な時には大きく出るが、少しでも崩されると弱い。
科学忍者隊は武器を使う事もなく、バサバサと白兵戦の中を切り開いて行った。
ジョーはメカの頭部に急ぐべく、羽根手裏剣を縦横無尽に使いこなし、最短スピードで階段を駆け上がり、辿り着こうとした。
エレベーターも何処かに存在すると思われたが、それを探しているよりは走り抜けた方が早い筈だ。
彼が通り過ぎた後には、喉を貫かれた多くの隊員が倒れていた。
鮮やかな手腕だった。
羽根手裏剣は1度に複数投げられる為、1投で何人をも倒す事が出来る。
勿論、適当に狙っている訳ではなく、1本1本の指のちょっとした角度でそれぞれ狙いをつけているのだ。
それは職人技とも言えるテクニックだろう。
羽根手裏剣は彼専用の武器ではないが、好んで使うのは彼だけだった。
子供の頃から手先が器用でダーツが上手い子で、他に類を見ない羽根手裏剣の腕前も1人で森の中や訓練室を使って黙々と自由自在に使いこなせるように努力して身に付けたものだ。
ジョーはそうやって敵中を切り開き、驚く程のスピードで目的地である、敵メカの頭部へと飛び込んだ。
(さすがに此処は守りが堅いな……)
ジョーは口に出さずに呟いた。
既に羽根手裏剣は唇に、エアガンは右手の手中に在った。
今までとはレベルが違う精鋭の隊員が10人程揃えられていて、警戒していた。
(とにかくゴッドフェニックスへの攻撃を止めさせねぇと……)
ジョーは天井に向けて跳躍し、そこを蹴って敵兵に意表を突いた攻撃を仕掛けた。
飛び降り様、重いパンチを繰り出し、その攻撃が終わらない内にもう次の攻撃目標を定めている。
エアガンで敵兵の右肩を狙い、それと同時に羽根手裏剣を繰り出して手の甲を貫き、完全に銃を撃てなくした。
次の瞬間には既にジャンプして別の隊員の腹に蹴りを入れ、羽根手裏剣が3本空(くう)を切った。
さすがに砲台に付いている2人の隊員も焦り始めた。
だが、カッツェの命令でどんな事があってもその場を放棄するなと言われていた。
必死でしがみ付き、大きな背もたれのある座席を盾に小さくなりながらゴッドフェニックスへの攻撃を続けていたが、動揺しているせいか、攻撃が乱れ始めた。
その事はゴッドフェニックスに残っている竜にも感じられたに違いない。
4人が乗っている以上、バードミサイルを撃ち込む訳には行かなかったが、竜は旋回して敵を煽った。
砲台担当隊員も段々と狙いが付けにくくなっていた。
ジョーは彼らがゴッドフェニックスと遊んでいる間に、10人の警護の者を全て倒していた。
そして、砲台の2人を手刀で気絶させてまず砲台から引き離す。
そして、2つの砲台に時限爆弾を仕掛けた。
「竜!砲台の隊員は全て片付けた。3分後にはレーザー砲もドカーンだ」
『ラジャー!後はあのおかしな衝撃波の攻撃だけじゃわい』
「島から出来るだけ離れて引き付けてくれ。俺は健と合流する」
『解っとるわい!』
竜の返事を待たずに、ジョーは走り始めた。
彼の故郷の島とは規模が余りにも違い過ぎるが、島と言うとやはり思い入れがある。
島民の生活を脅(おびや)かすギャラクターが彼には絶対に許せなかった。

フクロウメカはかなりの大きさだった。
健は心臓部とも言える司令室に行っている筈だ。
早く応援に行かねば、とジョーの気は逸った。
まだ新手の敵がいる。
中には気絶していただけで、また復活して来た者もいるだろう。
それを屈強な身体で走り抜けて行きながら、ジョーは次から次へと攻撃を繰り出した。
敵は彼の通り過ぎた後に累々と斃れて行く。
「健!無事か?」
『ああ…』
まさに闘いの最中に居るらしい物音の中から健の返信があった。
どうやらこの広いメカの中、司令室を見つけたようだ。
ジュンと甚平はどうしたのだろうか?
まだそれらしき爆発は起こっていないし、連絡もない。
ジョーはそれを気にし乍らも、ブレスレットに向かって、
「こっちは万事上手く行った。今そっちに向かっている」
そう言っている間に頭部で爆発が起こった。
3分経ったのだろう。
『ジョー、俺よりもジュンと甚平の応援を頼む!連絡が取れない』
「何だって!?動力室だったな?どっちに向かった?」
『突入してから下に向かった筈だ』
「解った。そっちは任せろ!気をつけろよ、健」
『ああ、お前もな。2人は捕らえられている可能性もある』
健の冷静な声が返って来た。
ジョーは敵を倒しながら、階段を更に駆け下り始めた。
司令室には更に強靭な敵が守りを固めているに違いない。
健は今その場所で孤軍奮闘しているのだ。
ジュンと甚平を助け、早く駆け付けなければ…。
健に限っては大丈夫だとは思うが、ピンチに追い込まれないと言う補償はない。
ジョーは羽根手裏剣を飛ばして見事に眼の前の敵を一掃し、1人の隊員の胸倉を掴んだ。
「動力室はどこだ!?」
その男は喉元を羽根手裏剣で貫かれていた。
「さ…最下階の中心部だ…」
それだけ喋ってくれれば上等だ、とジョーは思った。
男を打ち捨てておき、下の階へと向かった。
巨大なメカだとは思っていたが、ビルで言えば15階程度の高さはあった。
ジョーは5階の辺りから上に上がって最上階を爆破し、今、最下階に向かっているのだ。
だが、この程度の移動で息が切れるような事はない。
軽々と階段を下って行ったが、途中途中で敵との格闘を演じなければならなかった。
それでも何とか15階分の階段を降り切った。
何故かシーンとしている。
ジョーは逆に訝しがった。
(臭いな…。何かある…。2人とも無事でいろよ!)
慎重に通路を進んで行くと、広い六角形の形をした部屋に出た。
だが、そこにジュンと甚平が倒れているのを発見して、ジョーは一旦身を引いた。
そのまま飛び込んでは、自分も同じ目に遭う、と言う事を考える冷静さがあった。
彼は部屋の中に羽根手裏剣を飛ばした。
それに反応して動いた物がある。
それが例の衝撃波と同じ物を作り出し、発射していた。
羽根手裏剣は粉々に砕け散った。
フクロウメカ本体の物よりは小さいが、これをまともに浴びた2人は気を失っても当然だった。
生きているのかすら、疑問だった。
ジョーは衝撃波が1箇所から発射されているのではないと言う事を見切っていた。
部屋は六角形をなしていたが、その理由が解った。
それぞれの角に6基の衝撃波発生装置が設置されていたのだ。
それを鑑みた上でまずこちら側から狙える3基をエアガンで狙った。
狙い違わず、一瞬の内に正確に3回トリガーを引き、3基の発生装置が小さく爆発した。
その衝撃でジュンと甚平が目覚めた。
「動くな!伏せていろっ!」
ジョーは2人に強く言い捨てて、自分は真ん中に倒れていた2人を飛び越し、部屋の反対側に跳躍した。
危険だが、これしか手はない。
素早く残りの3基を撃ち砕いた。
「恐らくこれで大丈夫だろうぜ…。だが、まだ他にもあるかもしれねぇ。2人とも注意しろよ」
「ジョー、有難う」
ジュンが立ち上がった。
甚平も鼻を掻きながら起き上がって来た。
「とにかく健が孤軍奮闘している。俺は健の援護に行く。
 後はおめぇ達に任せるが、大丈夫か?」
「大丈夫よ」
「よし、頼んだぜ!」
ジョーはまた階段を上がらなければならなかった。
「健!大丈夫か?ジュンと甚平は救出した。2人は今任務に向かっている。
 すぐに応援に行くから待っていろ!」
『ああ、心強いぜ…』
健は息切れもしていなかったが、周囲にはかなりの敵がまだ居るようだった。
ジョーは彼の電波を辿って先を急いだ。




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