『ボージャン島(後編)』

(健、持ち堪えてくれ!)
ジョーは風のように階段を駆け上がりながら、強く念じていた。
その高さまで駆け上がるのに、1分と掛からなかった。
早速敵兵の残りが彼を襲って来た。
これだけのメカを動かす為には、相当な数の隊員を乗せているに違いない。
後から後から沸いて出る、と言った感じだった。
階段で遭遇しなかったのは時間の節約には有難かった。
恐らくは彼が倒した者の他には階段には誰も侵入して来なかったのであろう。
(よし、此処からが正念場だ!)
「うぉぉぉぉっ!」
さあ来い、とばかりにジョーは気合を発して走り始めた。
ドカっ、バキっと言う擬音と悲鳴だけがその場に響き渡った。
あっと言う間に視界が拓けた。
先程キャッチした健の発信地点はもう近い筈だ。
ジョーはそれらしき大きな扉を見つけた。
微かに物音が聞こえている。
エアガンを先兵として全身でドアに体当たりをして、文字通り部屋の中に転がり込んだ。
部屋の中は小学校の体育館程の広さ。
この中で健1人で此処まで持ち堪えたとは、さすがのジョーも感心した。
「健!援護に来たぜ!」
「待っていた!」
健が跳躍して来て、ジョーと背中合わせになった。
「百の味方がやって来たようだぜ、ジョー」
「ああ、そりゃあ良かった」
その時、遥か下の方から突き上げて来るような爆発音が起こった。
「ジュンと甚平がやったな…」
健が呟いた。
「俺達も早い処、此処を片付けて脱出しねぇとな!」
「ああ!」
「健、カッツェは?」
背中合わせのままで寄って来る敵を次々と片付ける2人は、余裕が出来たので話を続けた。
「いや、まだ見掛けない。このメカには乗っていないのかもしれないな…」
「そうか…。中枢装置の目星は着いたか?」
「多分…あれだ……」
健が眼で示したのは天井だった。
天井一面に大掛かりなコンピューターが仕込まれていた。
「こりゃあ…脱出してバードミサイルで一気に仕留めた方がいいんじゃねぇのか?」
「そうだな。お前が来てくれたんで脱出し易くなったぜ。
 動力室も停止した事だし、そろそろ潮時かな?」
「健、走れるか?」
「当たり前だ!お前だって散々敵を蹴散らした挙句、階段を2往復した筈じゃないか?」
健がニヤリと笑って見せた。
「そうだな…。お互いに運動量はもう充分って、処だな…」
ジョーもニッと笑って、
「よし、そろそろ行くとするか?一…」
「二の…」
「三!」
三は2人で同時に叫んで、周りの者を蹴散らし、息を合わせて瞬速で走り始めた。
時折邪魔をする者が現われたが、科学忍者隊のツートップの敵ではない。
「ジュン!甚平!聞こえるか?俺達は脱出する。2人とも早くゴッドフェニックスに戻るんだ!」
健がブレスレットに鋭く指示を出し、2人の「ラジャー!」と言う声が返って来た。
やがて、最初に突入したジョーが空けた穴に4人は再び集結し、連絡を受けた竜がゴッドフェニックスで4人を拾いに来た。
4人は同時にトップドームへと跳躍し、コックピットに無事に生還した。

「よし、超バードミサイルをぶち込んでやるぜ!」
ジョーが勇躍として赤いボタンの前に進んだ。
健も止める事はなかった。
「ジョー、苦労した分、思う存分やってやれ」
珍しく嗾(けしか)ける程だった。
「このボージャン島はお前の故郷のようにはさせやしない!」
健が力強く言ったので、ジョーは驚いた。
(こいつ…そんな事を考えていやがったのか…)
だからバードミサイルを撃つと言ったジョーを止めなかったのだ。
一瞬、瞼に熱いものを感じたが、それを振り切って、狙いを付けた。
ジュン達が動力室を爆破したので、狙いは付け易い。
どこを撃てば良いのかは、先程内部からとくと見て来た。
あの司令室の天井にある大型コンピューターを破壊すれば良いのだ。
「竜、全速で出来るだけ近づいてくれ。俺の合図で旋回して爆発を避けるんだ」
「解った!」
竜はジョーの指示通りにフクロウメカに向かってゴッドフェニックスを進めた。
動力部を破壊してあるだけに、逃げられない。
気をつけなければならないのは、例の衝撃波だけだ。
しかし、それも使えるとは限らない。
ジョーが全速で、と言ったのには衝撃波を出来るだけ喰らわないようにすると言う配慮からだった。
彼は充分に引き付けてから超バードミサイルの発射ボタンを押した。
1発で充分だった。
「竜!」
「よっしゃ!」
ゴッドフェニックスは宙返りをするかのように旋回して、爆発を逃れた。
大爆発が起こり、海の上に残骸が散って行った。
「海が汚染されなければいいがな……。この島は漁業が盛んだ……」
ジョーの呟きは科学忍者隊全員の思いでもあった。

丁度夜が明け始め、大型スクリーンには光を放ちながら美しい太陽が昇り始めていた。
「綺麗ねぇ〜」
ジュンが見惚れてうっとりとした声を出す。
ジョーは言葉もなく、太陽が昇って行く様子を見守っていた。
俺達は島の生活を守れたのだろうか?
ギャラクターは一掃出来たが、島の痛手は大きい……。
ふと胸が痛んだ。
「諸君、ご苦労。良くやってくれた」
サブスクリーンに南部博士が現われた。
「被害は最小限に喰い止められた。君達の活躍のお陰だ。
 今日1日休暇を上げよう。海岸沿いのホテルを取っておいたから、海で遊んで来るがいい。
 明日の朝にはチェックアウトして速やかに帰還するように。
 G−5号は海底に置かせて貰うように手配済みだ」
博士にしては珍しい計らいだった。
島育ちのジョーや海育ちの竜にとっては、嬉しい話だった。
勿論、健やジュン、甚平にとっても。
彼らは素顔に戻れば普通の若者に他ならない。
「ホテルのデータはそちらに送っておこう。では」
博士の姿がスクリーンから消えた。
「博士、いいとこあるじゃん!」
甚平が弾んだ声で言った。
被害を受けたのは島の中心部だったので、海岸沿いは風光明媚なその姿をそのまま残していた。
「ジョー、たまにはこんな休暇も悪くないな」
健が肩を叩いた。
「ふぁ〜あ…」
甚平が間抜けな欠伸をした。
そうだ、此処は朝だが、ユートランドは今頃夜だ。
時差がある。
眠くなるのは当たり前だった。
「とにかくホテルに行って腹拵えをして、少し眠ろう。海に行くのはそれからでも構うまい」
健が甚平の姿を見て、自分も誘われたように欠伸をした。
リーダーのこの姿は緊張が解けた証拠だった。
竜が吊られて欠伸をした。
宵っ張りのジョーとジュンだけはそうでもなかったが、心地好い疲れがあるのは事実だった。
南部博士から送られて来たホテルのデータによると、もうチェックイン出来ると言う。
「こんなに早くから客を受け入れるホテルなんて珍しいな。まあ、いいか……」
ジョーが1人ごちたが、誰も気に留める者はいない。
ホテルでご馳走を食べ、とにかく寝る事だけに頭が行っている。
ジョーはジュンと顔を見合わせて笑った。
「メカ分身して、竜はゴッドフェニックスを海中に置いて来い。
 ジョーは俺と竜を乗せてってくれ」
「ああ」
ジョーは頷いた。
「俺達は海でも見ながら待ってるぜ、竜。早く行って来い」
自分達だけ先にホテルに入ると言う事はしない。
彼らの仲間意識は絶対だった。
その日ぐらいはゆっくりと過ごして貰いたいものである。




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