『試射室(2)』

国立競技場並みの大きさの建物の内部に入ると、本当にがらんどうの状態だった。
外観は四角かったが、中にはドーム状の屋根があり、彼らが入った出入口に向かって右側に標的となるべく巨大な鉄塊があった。
直径にして30メートルはある。
これだけの物を破壊出来ると想定された武器なのだ。
ギャラクターのメカ鉄獣を対象に考えられた為、巨大かつ頑丈な標的が必要だった。
形は球状で非常に狙いにくい。
だが、動いている訳ではない。
ジョーにとっては簡単な獲物だった。
どこを狙えば効果的か、と言った事を考えるのではなく、新たに開発されたハンディーバズーカ砲を試して感想を述べれば良いだけだ。
自分の主観を拝して、客観的に伝える必要があった。
彼はコミュニケーションは余り得意であるとは言えなかったが、南部博士がジョーの意図する処を上手く伝えてくれるに違いない。
それは幼い頃から傍に居てくれた博士だからこそ出来る仕事であると言えた。
実物のハンディーバズーカ砲が運ばれて来た。
小さくて軽量化したとは言っても、やはり威力のあるバズーカ砲だ。
直径は50ミリ、長さは80センチ、とかなり短縮されたが、重さはかなりの物で30kgはあった。
だがこのような物は、先日の任務でジョーが撃った特大バズーカ砲と比べればおもちゃのような物だった。
ジョーは軽々と肩に担いでみた。
「ジョー、持ってみた感触はどうかね?」
「軽いですね。これでバズーカ砲だとは到底思えない。
 でも、国連軍射撃部隊の精鋭でも、持って走り回るのはキツイでしょう」
「つまりは固定して使え、と、そう言う事かね?」
博士はレニックに気を遣いながら訊いた。
「台座に固定する必要はないでしょう。彼らなら、座って膝を付いて体勢を整えれば……。
 後は撃った時の反動にどこまで耐えられるか…、それだけですね」
ジョーはレニックをチラッと見た。
「この試し撃ちは俺じゃなくても良かったんじゃないですか?
 俺で試してから部下に持たせますか?」
ジョーは挑戦的に訊いたが、南部が諫めようとした。
「南部君、まあいい……。君の言う通りだよ。
 私の部下ではまさかの事が起きるかもしれない。
 その点、君ならば安心して頼めると思ったのだ。
 因みに私は1発だけ試してみたが、数メートル後方に弾き飛ばされ、狙いは外れた。
 訓練すれば使いこなせるだろうが、時は一刻を争う。
 この武器の欠点を早く見つけたいのだ。欠点があれば再開発を依頼せねばならない。
 そして、その間に部下を調練する……」
「解りました。ではやらせて貰います」
ジョーはレニックの本意を聞いて、納得した上でこの役目を請け負いたかったのだ。
改めてハンディーバズーカ砲の感触を確かめる。
「担ぎ心地は決して悪くありません。
 重さの事を考えに入れても、普段から調練されている軍人なら、2人交代で使う位の事は出来るでしょう。
 個人差はありますが、同じ体勢でじっと構えているのは15分から30分が限界と言った処かと…」
まずは肩に担いだ時に感じた感想を伝える。
レニックは頷いて聞いている。
ジョーが言っている事は正しく伝わっているようだ。
バードスタイルではないのでイヤープロテクターを使用した。
ジョーだけではなく、南部博士やレニック中佐、此処の職員も着用する。
まずは1発目を試そうと言う事になった。
彼の横には3門のハンディーバズーカ砲が置かれていた。
尻ポケットにあったドライビンググローブを付けると示された位置にそれを担いで膝を立てて座った。
膝を付かず、尻が宙に浮いた状態だった。
この体勢でバズーカ砲を撃とうとは、さすがに名手だけの事はある、とレニックは密かに感心していた。
「まずは膝を付かない体勢でやってみます。タイミングは俺に任せて下さい」
ジョーが呟くように言うと、南部が頷いた。
精神を落ち着かせ、息をゆっくりと吐いた。
ついにバズーカ砲を発射する。
抑えたとは言え、さすがに反動が強かった。
ジョーは尻餅を付くような失態は犯さなかったが、少し身体がぶれた。
しかし、狙いは正確だったし、身体がぶれたのは発射した後だったので、球体の鉄塊は粉々に砕け散った。
「発射する時の反動に耐えられるかどうかですね。
 それとすぐに砲身が熱くなるのが決定的な欠点と言えます。
 次に砲弾を込めて発射するまでに砲身を冷やさなければならない。
 つまり連発には向いていないと言う事ですね」
その時、ジョーはふとドーム型の天井を見た。
「どうしたのだね?」
レニックが訊いて来たが、「シッ!」と言って気配を探った。
「南部博士!他の人達と控え室に避難して下さい!」
ジョーは博士にだけ聞こえるように言うと、いきなり超速で走り出し、建物のトイレのある場所に消えた。
即座に戻って来た時には、バードスタイルになっていた。
その途端に天井から敵兵が降って来た。
「くそう…。いつから居やがった!?」
ジョーは唇を噛み締める。
「ギャラクターめ、この新鋭武器を奪って開発するつもりだな?」
(しかし、何故気付かなかった…。俺とした事が!)
ジョーはハッとした。
(まさか職員の中にスパイが?!)
彼は応戦に加わろうと銃を取り出していたレニックに向かって叫んだ。
「レニック中佐!博士を頼みます!」
「1人で大丈夫か?」
「仲間を呼びます。此処は任せて下さい。
 それより職員の中にスパイがいる可能性があります!」
とにかく控え室に避難させた博士が心配だった。
レニックが駆け出したのを見ると、ジョーは跳躍して敵に重い蹴りを入れた。
「健!こちらG−2号!ISOの兵器を狙ってギャラクターに襲われている。
 博士はレニック中佐に任せたが、心配だ!すぐに来てくれ!」
闘いの最中、ジョーはブレスレットに向かって叫んだ。
「解った!今、全員揃っている。直ちにそちらに向かう」
健の頼もしい返事が返って来た。
その会話をしている間にも、ジョーは羽根手裏剣やエアガンでの応酬を続けていた。
緊迫感は健達にも伝わったに違いない。
すぐに応援がやって来るだろう。
「ハハハハハハ…」
聞き慣れた癇に障る笑い声が聞こえた。
「コンドルのジョー君。今回ばかりは私が紛れ込んでいた事に気付かなかったようだね」
南部の頭部に向けて銃を突きつけたベルク・カッツェが控え室から出て来て、その前でレニックが立ち往生していた。
「君達が暴れたら南部の頭が吹っ飛ぶぞ。
 どうする?降参するかね?コンドルのジョー君!」
「一々気にいらねぇ奴だな……」
ジョーは舌打ちをして、エアガンを投げ出し、両手を挙げた。
「ほぉ。良い子だ。そこの軍人!お前も同じようにしろ!」
レニックも仕方がなく、銃を投げ捨てた。
しかし、ジョーは知っていた。レニックの腰にもう1丁の拳銃がある事を。
そして、彼には羽根手裏剣がある。
それがある限り、この場を打開する策はある筈だ。
「俺を殺った処で、もう科学忍者隊の応援は呼んだぜ。
 どちらにせよ、おめぇはこの作戦に失敗し、ハンディーバズーカ砲も盗み出す事は出来ねぇさ」
ジョーはレニックとの距離を計った。
レニックの方が南部博士の近くにいる。
レニックが腰に手を回そうとしているのが解った。
ジョーはいきなり跳躍して、羽根手裏剣を飛ばして、敵兵3人の喉笛を貫いてカッツェの眼を奪った。
その隙を利用して、そのまま飛び降りレニックの腰の銃を自分の手中にする。
「カッツェ!そこまでだ!」
次の瞬間には彼はカッツェの米神にレニックの拳銃を突き付けていた。
南部の監禁が疎かになった処で、先程投げ出した自分の銃を拾ったレニックが南部を引き離し、反対側からカッツェの喉元に銃を当てた。
「残念だったな…。これは国連軍の武器だ。ギャラクターなどには渡さん!」
「中佐!後ろだ!」
ジョーが注意した時、レニックは後方に忍んでいた敵兵に首に銃把を叩き付けられ、悶絶して倒れた。
「博士!俺の後ろに!健達が来るまで離れないで下さい」
南部博士を後ろに庇いながら闘うには、ジョーは壁を背にするしかなかった。
カッツェを倒せるチャンスだったのだが、仕方がない。
敵に新兵器を持ち出されたり博士の生命を脅(おびや)かされるよりは、今の彼が為すべき事はハッキリしている。
カッツェを蹴り飛ばしておいて、ジョーは途中床に転がってエアガンを拾いながら南部博士を広い試射室の壁際に押しやり、敵襲から自分の背中で守った。
守る者があると言う事は、その分油断がより一層なくなるし、強くもなる。
だが、身を挺して守らなければならないのでその分闘いにくいと言う両面があった。
「新兵器は遠慮なく貰って行くぞ」
カッツェの哄笑が聞こえたが、次の瞬間ジョーのエアガンの三日月型のキットがカッツェの手を振り払っていた。
カッツェは右手を左手で抑えてよろめいた。
かなりの激痛が走っている筈だ。
これで自分で30kgの兵器を持ち上げる事は出来ない筈だ。
続けて羽根手裏剣が飛んで行く。
カッツェはそれを避ける為に兵器から離れなければならなかった。
勿論、ジョーはその事を計算して攻撃していた。
そして、彼の周囲に敵兵が集まった。




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