『試射室(3)』

レニックは意識を失っていたが、見た処外傷はなさそうだった。
取り敢えず南部博士とハンディーバズーカ砲を守り抜かなければならない。
四方八方が敵の海だ。
ジョーはどうやって打開しようかと考えを巡らせた。
健達はゴッドフェニックスでやって来るだろうが、G−2号機が此処にあるので、スピードはいつもより遅い筈だ。
ジョーは彼らが駆けつけるまで1人で持ち堪えなければならない。
だが、こちらには相打ちの心配がなかった。
ジョーは思う存分暴れる事にした。
「たぁぁぁっ!」
「むっ!」
「とうっ!」
跳躍してはボディーブローを噛まし、エアガンで敵の手首を射抜き、側転をしながら器用に羽根手裏剣を繰り出すと言う離れ業を彼はやって除けた
それを見ていた南部も思わず一分の無駄もないジョーの動きに舌を巻いた程だった。
科学忍者隊の斬り込み隊長とも言える働きをしなければならないサブリーダーの面目躍如たる働き振りだった。
風のような動きで八面六臂の活躍をして、絶対に敵には博士に手を触れさせるような真似はされなかった。
それでいて、バズーカ砲に近づこうとする者も確実に見切って、羽根手裏剣やエアガンを縦横無尽に使って牽制して行く。
1人で2人分の働きをジョーは確実にこなしていた。
その動きたるや、様式美を見ているかのようで、まるで演舞でも演じて見せているかのように、華麗な動きだった。
彼が動く度にバタバタと見事に敵が倒されて行く。
ジョーの長い足から繰り出されるキックが見事に敵の腹に当たると、敵兵は「ぐぅ…」と唸って気を失った。
相当に重いキックである。
暫くは起きては来られまい。
パンチも同様だった。
彼の一撃は鉛よりも重い。
相手は鉄の玉でも喰らったかのような打撃を受ける。
彼のパンチを受けても大丈夫なのは健ぐらいかもしれない。
そして羽根手裏剣は鎖鎌よりも確実に敵の動きを停めて行く。
銃を持つ者があればその手を貫き、手強い敵には喉笛に向かって容赦なく飛んで行く。
生か死か…。
そう言った世界に長く生きて来た者だけが得る事の出来る体技が彼の頭の天辺から爪先に至るまで染み付いているのだ。
ジョーはトイレの片隅に掃除用のモップがあった事を思い出した。
南部を背中に守りながら、少しずつ移動して行く。
モップを手に取ると、中に残っていた水に思い切り浸し、モップを振り払ってそれを床にぶちまけた。
敵兵が面白いように滑って転んで行く。
まるで悪戯小僧の時代に戻ったような気分がして、ジョーはニヤリと笑った。
「博士!申し訳ないですが、トイレの個室に隠れていて下さい。
 俺は出入口を固めますから」
南部博士には似つかわしくない場所だとさすがのジョーも思ったが、この際仕方がなかった。
「頼んだぞ、ジョー。あのバズーカ砲を決して悪用させるな」
「ラジャー!」
ジョーはトイレの出入口前で仁王立ちになった。
エアガンのキットをバーナーに変える。
最大出力にして、バズーカ砲に近づく者を焼いた。
人体が焦げる嫌な臭いが充満した。
悲鳴を上げて敵兵が逃げ惑う。
「その新兵器に近づく者は全て俺が焼き尽くしてやるから覚悟しやがれ!」
ジョーは啖呵を切りながら、自分の周りで隙あらば襲い掛かろうとする敵兵を叩き続けた。
南部博士とバズーカ砲の両方を守らなければならないのは非常に神経を使った。
いっその事、バズーカ砲を自分の手元に引き寄せてしまえばいい、とジョーは考えた。
エアガンのワイヤーを飛ばし、まずは1本を脇に抱える。
その間にも戦闘は続いており、足での攻撃が中心となったが、飛んだり蹴ったりの大活劇が繰り広げられた。
羽根手裏剣も華麗に舞った。
同時に何本も飛ばす事が出来、1本1本が狙い違わずに当たって行くのだから、彼の腕は本当に侮れない。
カッツェはマスクの一部を焦がした状態で、まだ右手の痛みに苦しんでいたが、ついに退却を決意した。
勿論部下の生命は見捨てて行く。
紫のマントがパッと翻った。
「カッツェ!待て!」
ジョーは羽根手裏剣でその動きを牽制する。
そしてワイヤーで2本目のバズーカ砲を捉えた。
彼の脇には2本で60kgのバズーカ砲が抱えられている。
それは自分の体重と同じだった。
残る1本は先程砲弾を撃ったので砲弾は入っていなかったが、これも回収されてはまずい。
ジョーは小脇に抱えるバズーカ砲の重さにも関わらず、軽々と跳躍して、3本目の回収に掛かった。
慌てる敵兵にすぐにバーナーを向けて脅しを掛ける。
ジョーはこうして易々とハンディーバズーカ砲を全て自分の左腕だけで抱えた。
自分の体重を遥かに超えていた。
さすがにこれでは身動きに支障があった。
ジョーは「ふぅっ…」と溜息をつき、そのバズーカ砲をトイレの中にそっと転がした。
博士もバズーカ砲もトイレの中だ。
後はこの場所さえ死守すれば良かった。
「うぉぉぉぉぉぉぉうっ!」
雄たけびを上げてジョーは敵兵の中に自ら飛び込んで行った。
敵を切り拓くと言った感じだった。
彼が通った道には綺麗に敵兵が薙ぎ倒されていた。
ある者はマスクが切れ、ある者は背中にカマイタチのような傷を受けている。
またある者は喉笛を羽根手裏剣で掻き切られていた。
一瞬の内に複数の敵を1度に倒す。
これが科学忍者隊として訓練されたコマンダー『コンドルのジョー』だった。
敵の見切り方に非常に優れているのは、彼の動体視力が人並み外れているからに違いない。
レーサーとして活躍が出来ているのもそのお陰なのだろう。
持って生まれた才能であるとも言えた。
そして彼のジャンプ力も素晴らしい。
身体のバネが強いのだ。
この国際競技場並みの建物の天井まで跳躍して、天井に足を付き、反転してその反発力を利用するなど彼には決して難しい事では無かった。
敵の中にコンドルが突進するかのように突っ込んで行ったジョーは、敵兵をまた何十人も倒して、南部博士とバズーカ砲を守るべく位置に付いた。

その時、ゴッドフェニックスの轟音が響いて来た。
健とジュン、甚平がトップドームから降りて来て、この巨大な試射室に雪崩れ込んだ。
「おめぇら、遅いぜ!早くカッツェを!」
ジョーが何度も足止めをしたので、カッツェはまだ此処から脱出出来ずにいた。
健がカッツェの前にヒラリと舞い降り、ジュンと甚平がジョーに加担した。
「博士とバズーカ砲はトイレの中だ。此処を守り切ってくれ!」
ジョーが叫んだ。
「ラジャー!ジョーはどうするの?」
「勿論、カッツェのお相手さ!健だけに任せておく訳には行かねぇ!」
そう言い残すと、ジョーも健と同様にベルク・カッツェの眼の前に跳躍して、まるで新体操でも見ているかのような綺麗なフォームで着地した。
科学忍者隊のツートップがカッツェの前に並んだ。
「おのれ、憎っくき科学忍者隊め!またしても我々ギャラクターの邪魔をしおってからに!
 こんな小僧共にしてやられるとは何とも忌々しい事だ!」
カッツェの右手の甲はどうやら先程のジョーの攻撃で骨折したらしい。
左手の中に口から超小型爆弾を吐き出したカッツェはそれを2人に向けて投げ付けた。
「逃がすものか!」
2人は天井に向かってジャンプして爆発から逃れた。
天井から走り去って行くカッツェを見つけ、ジョーは其処へ飛んだ。
まるでカッツェの行く手を阻むかのように走り去るカッツェの眼の前に舞い降りたのだ。
その後ろには健が迫っていた。
カッツェは科学忍者隊に挟み撃ちされる状態に陥っていた。
その時、レニックが意識を取り戻し、即座に銃を構えた。
さすがに軍人だ。
身のこなしが早い。
ジョーは感心した。
国連軍の選抜射撃部隊の指揮を執るだけの事はあった。
カッツェは3人に囲まれ、ついに立ち往生するのだった。




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