『大鷹山(2)』

ジョーは基地の中に入るなり、敵兵に周囲を囲まれていた。
だがこの位は問題なく切り抜けられる筈だ。
負傷をしないように、と言う事だけには注意を払う必要があった。
とにかく甚平に何が起こっているか解らないので、早く救助に行かなければならない。
怪我などを負っていては支障が出る。
此処はさっさと切り抜けて先を急ぐ必要があった。
バードスクランブルはまだ定期的に助けを呼んでいた。
マシンガンの銃口が火を噴いたが、ジョーはそれを恐れる事なく、敵兵を蹴散らして行った。
羽根手裏剣を多用し、出来るだけ無駄なく敵を倒して前に進めるように計算していた。
斜めに構えて腕を交差させ、加速を付けて顔よりも後ろから羽根手裏剣を繰り出す。
手首のスナップが効いて、ビュンとジョーの耳元を掠って羽根手裏剣が飛んで行った。
それは相変わらず的確に敵を襲う。
マシンガンが宙に浮き、無駄玉を発射して何人かの仲間を撃ち抜いた。
ジョーは構わずに次の攻撃に入る。
長い足で跳躍して蹴り込む彼のキックは格別の効果があり、1人をぶっ飛ばした事で、3人を巻き込んで同時に薙ぎ倒した。
次の瞬間には腰のエアガンの三日月型キットが唸り、1度に何人もの敵兵の顎を打ち砕いて行った。
キットが当たるタタタタタ…と言う音がした後、敵が折り重なるように倒れた。
その時にはジョーはもう何メートルも先に居る。
その素早さは獲物を狙うコンドルそのものだ。
『コンドルのジョー』とはまさに彼に相応しいコードネームだった。
彼はそこでも敵の鳩尾にパンチを繰り出し、拳をグリっと捻った。
効果的に敵の意識を攫う事が出来た。
どう、っと倒れた敵を軽々と飛び越えて、ジョーはバードスクランブルの目標に向かって突き進んだ。
手刀が、膝蹴りが、面白いように決まって行く。
ジョーは生き生きと闘っていた。
追って来る敵に羽根手裏剣を雨あられと降らせ、前から来る敵には身体毎ぶつかって行く。
ジョーに肩で体当たりされて突き飛ばされた男が通路の壁に頭を打って気絶した。
鳥のように翔び、風のように駆け抜けて行くジョー。
目標地点が近くまで迫っていた。
「この部屋だ!甚平、待っていろ!」
侵入を阻もうとする敵兵がまたぞろぞろと現われた。
ジョーはこんな時にこそ冷静になって、これらを一挙に一掃しに掛かった。
羽根手裏剣の束を3回投げると首や喉元を射抜かれた敵兵が次から次へとバタバタと倒れて行く。
それでも残った者が彼に向かってマシンガンを乱射して来たが、マントで防いでおいて、エアガンで反撃に出る。
それに驚いた敵に一瞬出来た隙を見逃す彼ではない。
すかさずマシンガンを奪い取ると、それを四方に向かって連射した。
こうして数十人で彼を囲んでいたギャラクターの残りの隊員はマシンガンの弾丸に斃れて行った。

鉄製の扉にはドアノブはなかった。
自動開閉ボタンもない。
ドアの横に掌紋認証システムが付いていた。
(多少時間が掛かるが仕方がねぇ…。
 中に何があるか解らない以上、爆弾は使えねぇ!)
ジョーは中の様子を窺って、全く物音が聞こえない事を確認した。
恐らくは防音システムが整っているのだろう。
バードスクランブルはまだ発信され続けている。
甚平は生きている筈だ。これがギャラクターの罠でない限り……。
ジョーはエアガンのバーナーを使って扉を丸く焼き切る事にした。
程なく健とジュンも到着した。
「甚平はこの中だな。だが、罠かもしれん。注意して掛かれ」
健の指示があった。
「解ってるって!ジュン、女の子の保護は頼んだぜ!」
「解ったわ。甚平、大丈夫かしら?」
ジュンは弟のようにして身を寄せ合って暮らして来た甚平を心から心配している。
ジョーは扉を人が通れる程の大きさに丸く焼き切って、それを足蹴にした。
ガラン!と派手な音がして、切り取られた部分が室内に落ち込み、そこに丸い穴が空いた。
穴から中が見える。
目隠しと猿轡をされ、後ろ手に縛られた甚平と人質の女の子がいた。
3人は鳥のように素早く中に飛び込んだ。
甚平が頻りに目配せをしている。
その視線の先を辿ったジョーは、
「時限爆弾だ!残り30秒しかねぇっ!」
と叫んだ。
ジョーが甚平をそのまま左手で抱え、健が女の子を抱いた。
残り時間が無さ過ぎた。
急ぎ部屋から脱出する。
通路に出てすぐに爆発が起きた。
3人は伏せてマントで身を守る。
甚平は変身する余裕がなかったので、ジョーが自分のマントで包み込んだ。
健も女の子を同様にして庇っていた。
何度か誘爆が起きたが、やがてその爆風も収まった。
3人は一瞬にして瓦礫に埋もれた。
だが、マントのお陰でやり過ごす事が出来た。
ジョーは甚平を抱き起こしてやり、猿轡と目隠し、そして手首の拘束を解いてやった。
「有難う!ジョーの兄貴……。
 バーナーで焼いているのが解った時、おいら心底感謝したよ」
「馬鹿野郎。心配掛けやがって!」
ジョーは甚平の額を軽く小突いた。
そして、髪をぐしゃぐしゃに撫でた。
それがジョーの甚平に対する愛情表現だった。
「メアリーちゃんはまだ目覚めないの?」
甚平が心配そうに小首を傾げた。
社長令嬢の名前はメアリーと言うらしい。
南部博士からの情報にはそこまで詳しい事は入っていなかった。
メアリーはまだ10歳に満たない甚平好みの可愛らしい女の子だった。
髪は丁寧な編み込みがされ、可愛らしいリボンが付けられており、母親から愛情豊かに育てられているのが感じられた。
着ている服もどことなく上品なモスグリーンのワンピースだった。
心配そうに覗き込む甚平に、ジュンが答える。
「ええ…。どうしたのかしら?」
「あの部屋で催眠ガスを嗅がされたんだ。
 おいらは息を止めていたけど、メアリーちゃんはまともに吸っちゃったからね」
「でも、その分怖い思いをしなくて済んだのよ。
 喜んで上げなくては行けないわね。
 それより甚平、本当に無事で良かったわ……」
ジュンが甚平を抱き締めた。
その姿は本当の姉のようだった。
「よし、竜を呼ぶぞ!」
健がブレスレットに向かって竜を呼び出し、基地に突っ込んで来るように指示をした。
これからが本格的な闘いだ。
この基地を完膚なきまでに叩き潰さなければならない。
やがて轟音とともにゴッドフェニックスが基地に体当たりして、その半身を現わした。
ジュンが一旦戻って、メアリーを抱きトップドームへと跳躍した。
そして、竜と共に再び飛び降りて来た。
甚平もバードスタイルに変身し、いよいよ科学忍者隊全員が揃った。
「ジュンと甚平は電力室、竜は機関室の爆破、ジョーは俺と一緒に司令室を探す。いいな?」
「ラジャー!」
健の指示で5人は敵兵を倒して道を切り開きながら、それぞれの方向に散った。




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