『大鷹山(3)』

科学忍者隊は3方に別れ、ジョーは健と一緒に敵の中枢部である司令室を探し始めた。
着かず離れずだが、手分けをしてそれぞれが油断のない眼でそれらしき部屋を見つけようとしていた。
「ジョー!」
健が大きな扉を見つけて眼で合図をした。
大型コンピューターのものと思われる音が規則的に響いていた。
ジョーはすぐにその場所へと跳躍した。
「ああ、此処だな…」
頷いて見せる。
「よし、突入するぞ」
「ああ、いつでもいいぜ」
2人は阿吽の呼吸で、ドアに体当たりをし、中へと転がり込んだ。
ギャラクターの隊服を着た隊員達が一様に驚いた。
カッツェの姿は此処にはない。
スクリーンの中から指示を出していた。
「実態も見せずに忍び寄る白い影!ガッチャマン!」
健が名乗りを上げる。
ジョーは名乗りもせずに戦闘を始めた。
(健、お前はそれでいい…。俺は名乗りなんかどうでもいいのさ)
ジョーは自分のバードスタイルの色合いが気に入っていた。
健はどこまでも白く、そして熱い赤を裏に秘めていればいい。
自分は影だと思っているから、ジョーは自分のバードスーツを彩るダークで地味な色合いが好きだった。
(こっちの方が忍び易いぜ…)
確かにそうだ。特に夜などは夜陰に溶け込みやすい。
健とジュンは白なので目立ち易いが、他の3人は比較的落ち着いた色合いだ。
特にジョーのバードスタイルは一番渋く、地味で落ち着いている。
だが一度(ひとたび)闘いを始めれば、決して地味ではない事は周知の通りだ。
その闘い振りは華麗としか言いようがない。
健はリーダーとして全員の動向を把握しておく必要がある為、実質的な斬り込み隊長の役割はジョーが担っている。
今日のように2トップがなだれ込む場合は別だが、5人で戦闘をする時には、健は闘いながらも全体を見なければならない。
だから、ジョーが1人で八面六臂の働きをして、健が全体を俯瞰出来るようにカバーする必要があった。
2人して戦闘の渦に飛び込む時は、健も安心してジョーに全てを任せられるので、自分も戦闘に専念する事が出来た。
そう言った意味では、彼らは科学忍者隊の黄金コンビと言えるのだ。
その事については南部博士を始め、他の3人も良く解っている。
だから、戦力を分散しても特に本気で闘わなければならない状態の時には、健がジョーと組むのを暗黙の了解としていた。
健は今日の闘いをそう見ていたからこそ、ジョーを相棒に選んだのだ。
時にはジョーに単独で動いて貰う事もある。
それはリーダーたる健の才覚次第だった。
健はジョーにだけは自分の背中を安心して任せられると信頼していた。
ジョーも同様だ。
この2人が組む時には、相手を『守る』必要がなかった。
背中合わせになって眼の前の敵を黙々と倒して行けば、自然と道が切り拓ける。
敵基地の中枢へと雪崩れ込んだ2人を待っていたのは、マシンガンを持った敵兵だったが、ずらりと周囲を囲まれても彼らは打開する策を知っている。
慌てる必要はなかった。
落ち着いて眼の前の敵を倒して行けばいい。
ただ淡々と闘うのみだ。
ある程度敵を一掃してからその後の策を講じればいい。
2人にとってその『作業』は大したレベルではなかった。
敵は集団で2人を襲って来た。
だが、落ち着いて対処して行く。
ジョーは羽根手裏剣で一気に眼の前を切り拓いた。
一体どれ位の本数を持っているのか、どうやって繰り出しているのか、魔法のように多くの羽根手裏剣が彼の右手から放たれ、それが狙い違わずに敵に喉元に喰らいついて行くのが不思議である。
微妙な指使いのテクニックと手首のスナップで調節しているに違いないが、その天性の勘は他の者の追随を許さないものがあった。
健やジュンも羽根手裏剣を使った場面はあったが、それぞれ1回ずつで殆ど使用していない。
持っている事には違いないのだが、好んで使うのはジョー1人だったのだ。
それだけ投擲武器に秀でているのが、ジョーの特徴であると言えた。
健のブーメランやジュンのヨーヨーとは全く違うタイプだ。
どちらかと言えばエアガンの方がそれに近いだろう。
ワイヤーなども使うからだ。
羽根手裏剣は出来る限り軽量な手裏剣が作れないか、と博士が研究して作られた物だった。
当初から全員に配布されたが、ジョーはそれを自由自在に使いこなせるように個人的に執拗な程の訓練に励んだ。
それは執念とも言えた。
ギャラクターへの憎しみが、全ての武器を彼の身体と同化させ、全身を武器とする事になったのだ。
その結果得たのが、今の彼の闘い方である。
ジョーは1度に何人もの敵を見切っている。
1人を倒した時には次の攻撃目標を決めているので、即座に攻撃に移る事が可能だった。
ある敵と肉弾戦を繰り広げ乍ら、僅かな隙を突いて別の敵に羽根手裏剣を投じる事もある。
動体視力に優れ、一瞬の判断力とそれに付いて行けるだけの敏捷さがなければ対応出来る事ではない。
ジョーと健の周りの敵は牛蒡を抜いたかのようにどんどんと減って行った。
『ええいっ!何をしておる!早くガッチャマンどもを片付けいっ!』
スクリーンの中からカッツェが怒鳴った。
鮫のような姿をした隊長が平身低頭した。
「はは。必ずやこの基地を守ってご覧に入れます」
隊長が部下に振り返った。
「X作戦だ!」
「ええっ!?」
部下達は一様に驚いた。
「この基地を守る為だ!やるのだ!わしが率先して見本を見せてやる」
隊長が自ら、2人の前へと近づいて来た。
「この大鷹山の基地は我々にとっては重要な拠点だ。
 科学忍者隊を1人残さず生きて此処から出す事は出来ん!」
見るとその左の二の腕には何かが巻かれていた。
今日のギャラクター隊員達には全て同じ物が巻かれていたのに、気付かぬ2人ではなかった。
だが、それが何か、までは戦闘中に考える事は出来なかった。
「人1人殺すには充分な爆弾だ。基地を破壊せずに我々の玉砕戦法でお前達を倒してやる!」
ウヒヒヒヒ…と下卑た笑いをした隊長の眼つきが変わっていた。
「こちらG−1号!全員、敵の左腕についている爆弾に気をつけろ!
 特攻作戦で来るぞ!」
健がブレスレットで他の3人に知らせた。
『ラジャー!』
3人の声が聞こえた。
「さて、どっちから料理してやるかな?
 やはりわしはガッチャマンをやろう。
 そこのお前、そっちの眼つきの悪い奴を殺れ!」
隊長の傍にいてたまたま指名されてしまった隊員は「うへ〜っ」と竦み上がった。
そこまで死を意識して闘っているギャラクターの末端隊員など居はしなかった。
「眼つきが悪くて悪かったな。好きでこうなったんじゃねえぜ。
 そいつ竦み上がってるじゃねぇか?そんなんでこの俺様を殺す事が出来るのか?」
ジョーはニヤリと笑って挑発し、素早くエアガンを抜くと、三日月型のキットをその隊員の左腕に伸ばした。
腕の爆弾は弾き飛ばされ、コンピューターに飛んで小さな爆発を起こした。
「おめぇ、生命拾いしたな。まあ、僅かに生命が延びただけかもしれねぇがよっ!」
ジョーはその隊員の顎に華麗な廻し蹴りを入れた。
首からグギッと言う骨が折れる音がして、隊員はコンピューターに叩き付けられてそのまま崩れ落ちた。




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