『大鷹山(4)/終章』

敵兵は全員が左腕に小型爆弾を取り付けていた。
数人で1人ずつ雁字搦めにして爆弾を爆発させると言うのが『X作戦』だったのだ。
それによって基地の被害を最小限に喰い止め、科学忍者隊のみを殺そうと言うのである。
しかし、科学忍者隊の5人はギャラクターの隊員達よりも敏捷性に優れている。
そう易々と捕まるものではなかった。
ジョーは健とともに、周囲の敵を追い払った。
既に腕の爆弾をコンピューターによって起動された隊員達は、自分達でそれを止める事は出来なかったし、爆弾を腕から外す事も出来なかった。
何とも残酷な作戦だった。
隊長がスイッチを切らない限り、少しの衝撃で爆発するようになっている。
2人にやられた隊員達は床に倒れたり、お互いにぶつかり合ったりしながら、爆発の犠牲になって行った。
「ベルク・カッツェめ。部下をこんな扱いにしやがって……。許せねぇっ!」
健と背中を合わせたジョーが呟いた。
「人を人とも思っていない。あいつはそう言う奴だ」
健も冷静に答えた。
「ジュンと甚平は2人だから大丈夫だろう。心配なのは竜だな」
健が言うと、
「いや、あいつも重い割には敏捷だし、自分の重さを武器に出来るからな。
 大丈夫だとは思うがね…。こっちが片付いたら応援に行ってやろう。
 ゴッドフェニックスの操縦士が居なくなっては困るだろ?」
ジョーも余裕で答えた。
ジョーは羽根手裏剣とエアガンを、健はブーメランを効果的に使って敵を蹴散らしていたが、突然上からネットが降って来た。
「健!散れっ!」
その気配に気付いたジョーは健を突き飛ばし、自分も跳躍したが、健を突き飛ばした僅かな時間が彼を追い詰める結果となった。
時既に遅く、ジョーは鎖のネットに捕まってしまった。
「今だ!やれっ!」
敵兵が自由が利かないジョーに圧し掛かって来る。
自分の言葉通りに隊長自らはネットを逃れた健を狙って、彼の方に突進した。
ジョーはネットの隙間を利用してエアガンで攻撃を繰り返し、健は敵兵の身体を利用して隊長を避けながら外からジョーに圧し掛かる隊員を蹴散らし、ブーメランでネットを切ろうとした。
そうして時間を引き延ばしている間にも敵兵の爆弾が爆発し始めた。
「健!俺に構わず逃げろっ!」
ジョーの叫びは健に聞こえたか否か?
健は後退せざるを得なかった。
「ジョーっ!」
爆発に巻き込まれない場所まで後退し、マントで身を守った。
爆風が途切れるのを待った。
10人程の隊員が吹き飛び、その中には隊長の姿もあった。
隊長は死んでも、まだ健も狙われている。
此処はジョーを連れて退却し、ゴッドフェニックスに戻るのが良策だと健は考えた。
ジョーは無事なのか?
健は硝煙の臭いが立ち込め、煙で視界が悪い中をジョーが居た筈の場所へと進んだ。
ジョーは鎖ネットの中でマントで身を守って倒れていた。
だが、バイザーが爆発のショックで割れて、ジョーの額に突き刺さっており、彼は顔を血だらけにして意識を失っていた。
「バイザーが?何と言う事だ……」
健はジョーを包んでいるネットをブーメランで切り、振り返り様そのブーメランを投げて、自分に迫っている敵をなぎ倒した。
「全員ゴッドフェニックスまで退却だ!」
健はブレスレットに指示をすると、ジョーを抱き上げて走り始めた。
両手が埋まっている為、敵の攻撃に対抗する事が出来ない。
「竜、応援に来てくれ。ジョーがやられた」
『ラジャー!』
1人での退却が難しい事に気付き、健はジョーを通路に下ろすと、1人で闘い始めた。
竜は1分で駆け付けた。
「ジョー、大丈夫か?」
「俺を庇っている間に、自分が逃げる時間を取れなかったんだ……。
 ジョーは俺を敵の爆弾から逃れさせようとしたんだろう。
 とにかく此処を一掃してすぐにゴッドフェニックスに戻るぞ!」
「よっしゃあ!おらに任せとけ!」
竜が四股を踏み、張り手を始めた。

やがてジョーは竜に軽々と抱き上げられ、基地に先端を喰い込ませていたゴッドフェニックスに戻った。
竜はすぐさまゴッドフェニックスを後退させ、そこにはぽっかりと穴が残った。
「ジョー、しっかりして!」
ジュンが呼び掛けるが応答がない。
「とにかくバードミサイルでこの基地を破壊し、急ぎ基地に戻ろう。
 甚平、メアリーちゃんを頼むぞ」
「ラジャー」
甚平は、メアリーに血塗れのジョーを見せないようにして、自分の座席に座らせ、シートベルトをした。
健はバードミサイルのボタンの前に立った。
ガラスのカバーが開いた。
「こんなに緑豊かな大鷹山を丸ごと基地に改造しやがって!ギャラクターめ、許せん!」
ジョーにボタンを押させてやりたかったが、意識は戻っていない。
健は思いっきり力を込めて発射ボタンを押した。
自分の手で大鷹山を破壊する事が何とも切なかったが、仕方がなかった。
ジョーが傷を負っていなければ、自分が手を汚す事を選んだだろう。

メアリーは三日月基地の職員が父親の元に送って行き、ジョーはすぐさま緊急手術を受ける事になった。
「破片は前頭部の右脳にまで達しているが、問題なく抜けるだろう。
 暫くは意識の混濁と左半身の不自由が続くだろうが、術後は高気圧酸素治療で回復を早める。
 額の傷もやがては消えて行くだろう。残る事はない」
南部が冷静だったので、健達はホッとした。
「至急君達のメットの改良もせねばならん。もっと爆発に強くするようにな…」
「今回のケースでは小型爆弾を身に付けた隊員達に抱きつかれる形で取り囲まれましたから、密接した事によりその効果が出易かったのではないかと思います」
健はジョーが負傷に至った理由を南部博士にも報告していた。
『リーダーを生き残らせなければならない』
と言うそのジョーの判断は誤ってはいない、と南部は健達に告げた。
その事について気に病んではならぬ、とも言った。
だが、当事者の健が気に病まずにいられる筈がない。
博士は生命には別状はないと言っているが、ジョーが脳に傷を受けたのは2度目だ。
今回は破片が簡単に抜けると言う事だったが、あの時の事を考えるとぞっとする。
あの時のジョーは生死の境に在ってまで無理をして出動して来た。
健は自分が注意していれば、ジョーが負傷する事は避けられたのだ、と自分を責めた。
博士はメットの改善に急いで取り掛からなければならない為、手術室の前から立ち去った。
その事がジョーの手術には何の心配も問題もないのだと言う事を如実に表わしていたのだが、健はわなわなと震えていた。
(俺がリーダーだから、生き残らなければならない?
 だからと言ってジョーを犠牲にしてまで生き残る必要がどこにある?
 死ぬ時は共に…と誓って来た科学忍者隊が、俺を生き残らせる為に犠牲になると言うのなら、俺はリーダーなんかもう懲り懲りだっ!)
健は廊下の壁に拳を叩き付けた。
「健……。あなた自分を責め過ぎよ。ジョーの判断は私も間違っていなかったと思う。
 だからと言ってあなたがそれを気に病む事はないのよ。
 私だって、甚平だって、竜だって……、いざとなったらジョーと同じ事をする覚悟があるのよ」
「ジュン……」
健は弾かれたように振り返った。
ジュンの左右にいる甚平も竜も黙って頷いた。

「健…。何て暗い顔をしてやがる?高気圧酸素治療は快適だぜ。
 万事上手く行ってる。博士の言う通り、回復が早いみてぇだ。身体も軽い。
 全身の状態が凄く良くなるぜ。おめぇも入ってみたらどうだ?
 カプセルの中は気圧が高いので、15分が限界だし、耳が痛くなるのが欠点だがな」
高気圧酸素治療の装置から出て来たジョーは、そこに健の姿を見つけて、そう声を掛けた。
「おめぇ、いつまで気にしてるんだ?調子がいい、って言ってるじゃねぇか。
 此処で1発やらかしてもいい位、俺はムズムズしている。
 いつまでもそんな顔をしていると、俺の重い鉄拳が飛ぶぜ」
ジョーは笑って見せた。
額の傷も薄くなり始めている。
これが高気圧酸素治療の効果なのか、と健もさすがに感心した。
「リーダーでいる事の重さに耐えられなくなったか?
 だが、おめぇは選ばれた人間だ。耐えて貰わなくちゃ困るんだよ!
 人にはそれぞれ役割と言うものがある。
 俺に与えられたのはサブリーダーと言う役割だ。俺が果たしたのは、その役割に過ぎん。
 おめぇが気に病む事なんか何もねぇだろ?
 俺達は科学忍者隊だ。私情を捨てろ。リーダーさんよ!」
ジョーが破顔一笑した。
「それでなくては、俺達はおめぇをリーダーとしてその席に据えておく事が出来なくなって、路頭に迷うだろうぜ」
健はジョーの言葉に俯いた。
「とにかく明日もそんな顔をして俺の前にのこのこと出て来やがったら、本気でぶっ飛ばす」
ジョーは言い置くと、先に治療室から出て行ってしまった。
彼なりの思い遣りだと健が気付くのには時間が掛からなかった。




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