『死神を恐れるな』

ジョーはトレーラーハウスの簡素なベッドの上で、頭を抱えて苦しんでいた。
激しい頭痛で眠りを妨げられたのだ。
この処、連日このような事が続いている。
もぐりの医者には診せたが、何も解らなかったばかりか、結局はギャラクターの手下だった為、ジョーはまだ自分の身体の本当の処を知らない。
南部博士にはとても相談出来ないし、正規の医者に行ったとしても、きっと病状を博士や忍者隊のみんなに知られて、忍者隊から外されてしまうに違いない。
隠し通す、と言う選択しかジョーには無かったのだ。
視界が揺らいでいる。
焦点が結ばない。
(こんな事では…任務に支障が出ちまう……)
ジョーは何とかベッドから降りようとしたが、そのまま床に落ちてしまった。
吐き気が襲って来る。
眩暈で身体はフラフラだ。
こんな時に呼び出しがあったらどうしようもない。
ジョーはとにかく市販の痛み止めと吐き気止めを飲もうと、力を込めて揺らりと立ち上がった。
コップ1杯の水で薬を飲んだ。
薬は段々と気休め程度にしか効かなくなって来ていた。
ジョーは規定の量よりもかなり多めの粒を口の中に押し込んだ。
何とか飲み込む事は出来たが、コップがジョーの手から滑り落ちて割れた。
(くそぅ…!)
ジョーはそのまま床に崩れ落ちた。
コップから流れた水が上半身裸で寝ていたジョーの左腕を濡らしていた。
逞しい胸が苦しげに上下していた。
額には汗が滲んでいる。
(俺はこのまま死ぬのか…?)
ふとそんな思いが頭を過(よ)ぎる。
(このままで死ねるものかよ!?)
ジョーは拳を掌に爪の跡が付く程に強く握り締めた。
掌に少し血が滲んだ。
ジョーはそろりと起き上がり、ジーンズの隠しポケットからナイフを取り出して逆手に持った。
それを躊躇する事なく、左の二の腕に突き立てる。
痛みによってこの苦しみを忘れようとしたのだ。
一時的な物だが、効果があった。
左腕からは血が流れている。
ジョーはナイフを抜くと、シャワーを浴びて血と汗を洗い流し、包帯で血止めをした。
多少の痛みなどどうでもいい。
この程度の傷なら任務にもそれ程支障はないだろう。
眩暈や頭痛で失態を犯すよりはずっとマシだ、とジョーは考えた。

それから暫くベッドで再び休み、数時間だが惰眠を貪った。
目覚めると大分頭痛や眩暈の症状が改善されていた。
ジョーは床を汚している自分の血や割れたコップの後片付けを黙々と行ない、それから遅い朝食の支度を始めるのだった。

サーキットでギャラクターに拉致されて脱出した際に、彼の病状が明らかとなり、ジョー自身と南部博士が彼の余命を知る処となったのは、その2日後の事であった。




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