『サーキットでの密会(後編)』

ジョーの『亡骸』をカッツェがナイフで傷つけようとした時、トミーが泣きながら訴えた。
「約束通りジョーを殺した。これ以上彼を傷つけないでやってくれ!
 早く妻と子供を返してくれ!」
「うるさいっ。お前はもう用なしだ!」
カッツェがナイフをトミーに向けた時、仮死状態から醒めたジョーが起き上がった。
彼はポケットの中にあるブレスレットからバードスクランブルを送っていた。
ジョーは起き上がりざま、カッツェの脚を払ったので、カッツェはどうっと床に倒れた。
「こやつ生きていやがったのか?」
「仮死状態になっていたまでさ。トミーとその家族を帰して貰おう。
 てめぇ達が欲しいのは俺の生命なんだろ?
 彼らを無事に放免してくれれば、俺の事は好きにしてくれていい」
「う〜ん、生きているのは好都合だったかもしれんな。
 どうだ。その腕っ節気に入ったぞ。
 両親と同じようにギャラクターで幹部まで上り詰めてみないかね?」
「ふん、生憎両親を俺の眼の前で殺したギャラクターと手を組むつもりなどないね」
ジョーはニヤリと笑った。
「てめぇらには恨みの感情以外何もねぇっ!」
力強く跳躍して、カッツェの脳天を膝で突いた。
カッツェもさすがに脳震盪を起こして倒れた。
「ジョー。トミーさんのご家族はこの通り助け出したわ。早く逃げて。
 後は私達に任せて!」
ジュンがトミーの妻子を連れ出していた。
トミーと同年と思われる妻と5歳ぐらいの男の子だ。
ジュンの他に健、甚平、竜も揃っていた。
「科学忍者隊、頼んだぜ!」
バードスタイルになる事を禁じられている以上、ジョーはその役目を引き受けざるを得なかった。
後ろ髪を引かれる思いで、トミーとその家族を連れて退却を始めた。
しかし、敵はそこにも現われた。
ジョーは羽根手裏剣で応戦しながら、トミー達を守りつつ、出入口へと向かった。
「お前、科学忍者隊とは知り合いなのか?」
逃げながらトミーが訊いた。
「言ったろ?俺は南部博士の養子だって。科学忍者隊を組織しているのは南部博士だ」
「お前も科学忍者隊じゃないかと思われていたようだが…違ったのか?」
「俺の両親はギャラクターだった。裏切りが原因で俺の眼の前で暗殺された。
 それを引き取って生命を救ってくれたのが南部博士だ。
 その辺の事情から誤解されたに過ぎない。
 成長過程で戦闘能力は鍛えられたが、科学忍者隊には遠く及ばねぇぜ」
ジョーはそう言ったが、トミーは生身でこれだけ闘うジョーを只者ではないと感じた。
「自分の生命を脅(おびや)かす者がいる。
 それだけは博士にずっと言われて来たから、自分で自分を守る術は身に付けたのさ」
トミーの思いを感じ取って、ジョーは説明した。
その間にも敵と肉弾戦を演じている。
舞うようなフォームで蹴りやパンチを決めて、敵を気絶させて行く。
羽根手裏剣では1度に何人をも敵を通路に倒れ込ませた。
エアガンも自由自在に使いこなした。
その速さはトミーには見切れなかった。
尋常な身体能力ではない、とトミーは気付いた。
これではサーキットで彼に敵う訳が無いと漸く理解した。
トミーは妻の手を引き、ジョーは男の子の身体を左腕で抱えていた。
それでも、子供は勿論、トミー夫妻にも掠り傷すら負わせず、ジョーは脱出に成功した。

外に出るとゴッドフェニックスが待っていた。
トミーに子供を抱かせ左腕で抱え、右腕でトミーの妻を抱えたジョーはその状態でトップドームにジャンプした。
ジョーのそのジャンプ力にも舌を巻くトミーだった。
ゴッドフェニックスの中には南部博士が待っていた。
「ジョー、無事だったかね?心配したぞ」
「すみません。科学忍者隊に助けられました」
ジョーは飽くまでも忍者隊とは無関係だと言う演出を続けた。
「トミーさんとやら。私とジョーの暗殺計画に貴方がたご家族を巻き込んでしまった事を詫びます」
南部が頭を下げた。
「いいえ、こうして無事に戻れたのは、ジョーと科学忍者隊の皆さんのお陰です」
トミーは手を振った。
妻子は無傷だった。
「博士。まだ仮死状態光線の影響でクラクラしますので、ちょっと別室で休ませて貰います」
そう言ってジョーはコックピットから姿を消した。
南部博士にはジョーの意図が解っている。
変身してまた戦場に赴く意思なのだと言う事を。
「ゆっくり横になりたまえ。その間に科学忍者隊が決着を着けるだろう」
と博士も答えた。
ジョーがまだ本当にクラクラしているのは博士にも解っていた。
様子を見ればすぐに解る。
だが、止めても聞かないだろうと言う事も良く解っている。

ジョーは「バードGO!」とG−2号に変身すると、闘いの渦の中に戻った。
すぐに健達と合流出来た。
「ジョー!トミー達は大丈夫なのか?」
健が早速声を掛けて来る。
「ああ、ゴッドフェニックスに博士と一緒にいる」
「そうか……」
「電力室に竜が忍んでいる。これから俺達で司令室に飛び込む」
「ようし、やってやろうぜ!」
「ジョーの兄貴。仮死光線の影響はもう大丈夫なの?」
「ちょっくらクラクラするが問題はねぇっ!」
「よし、行くぞ!」
「ジョー、無理はしないでね。私達に任せて休んでいれば良かったのに」
「そうは行かない処がジョーなのさ」
健が笑った。
司令室はそこから数十メートルの場所にあった。
「いいか、ジョーは無理をするな」
健の指示が飛んだ。
「ああ、心配すんな」
ジョーはそう答えたが、言葉通りになる事はないと、そこに居る全員がそう思っていた。
その時、地下の方から大きな揺れと爆発音が起こった。
『電力室を爆破した。これから合流するぞい』
竜の声がブレスレットから響いた。
「基地の規模が大きい。ゴッドフェニックスに戻ってバードミサイルで一網打尽にしよう」
健が指示を出し、全員は戦闘をしながら退却を始めた。
ジョーの羽根手裏剣は面白いように決まる。
まるで見えない糸に操られているかのように、彼の狙い通りの場所に当たるのだ。
エアガンでも1度に数人を倒す事が出来る。
彼は敵の動きを見切る事に秀でているので、視界の端での僅かな動きも見逃さない。
「左後方から手榴弾だ!伏せろっ!」
ジョーの言葉に全員が伏せてマントで身を守った。
彼の機転で全員が無傷で済んだ。
「よし引き続き脱出だ!」
健の号令の下、全員がゴッドフェニックスに向かう。
コックピットに戻った時、トミーは1人多い事に気付いたかもしれないが、何も言わなかった。
「博士。敵の基地は膨大過ぎます。超バードミサイルを撃ち込みます」
「うむ、止むを得んだろう」
博士も頷いた。
健は敢えてジョーを「G−2号」と呼んだ。
「G−2号、バードミサイルは任せたぞ」
「ああ、任せとけ!」
「G−5号、全速上昇、反転して敵基地に機首を向けろ」
健の指示が飛んだ。
ジョーはバードミサイルのボタンの前に立った。
「G−5号、そのまま出来るだけ近づいてくれ。俺が合図をしたら右に避けてくれ」
「ラジャー」
竜はジョーに答えた。
「出来るだけ引き付けてから発射するぞ」
ジョーの腕前なら距離があっても当てる事は可能だが、威力を考えてそうしたのだ。
確実に敵基地を奥深くまで破壊する為にはその位の距離が必要だった。
先程内部を見て来ただけにその事はすぐに判断出来た。
「ようし、行くぜ!」
ジョーは狙いを定めて、一番良いと思われるタイミングでスイッチを押した。
「G−5号!右方向に急速旋回!」
「よっしゃ!」
答える前にその準備をしていた竜はすぐに方向転換をして、大爆発から逃れる事に成功した。
トミー達はホッと一息ついた。
「あの……ジョーは?」
おずおずと訊ねる。
「G−2号、様子を見て来たまえ」
博士がジョーに告げた。
「ラジャー」
ジョーは別室に行き、変身を解くと頃合を見てコックピットに戻った。
「ジョー。もう大丈夫なのか?」
トミーが嬉しそうに寄って来る。
「ああ、もう衝撃から脱け出したみてぇだ。
 ギャラクターの誤解とは言え、俺のせいで家族まで巻き込んで悪かったな」
「私も詫びます。狙われたのはジョーだけではなく、この私もでした……」
「貴方が高名な南部博士ですね。どうか頭を上げて下さい」
「ジョーが妻子を、そして私を救ってくれました。
 決して恨んだりはしませんから、どうか気にしないで下さい」
「トミー……」
「ジョー、君の身体能力には驚いた。科学忍者隊と間違えられても無理はない。
 俺が君にレーサーとして全く敵わない理由も良く解ったよ……」
「まさか、辞めるつもりじゃねぇだろうな?」
「今度のレースで君と闘って、その結果如何かな?
 家族を養うのに、俺にはレースだけでは無理なんでね」
「俺は何も言わん。続けるにせよ、辞めるにせよ、頑張れよ」
ジョーが右手を差し出した。
2人は固い握手を交わした。
「さっきの蒼いマントの渋い人は?」
「ああ、あいつなら俺の代わりにあの部屋でサボってやがるぜ」
ジョーの言葉に全員が笑った。




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