『クロスカラコルムに臨む』

バードスタイルは飛翔能力や防御力を上げるものであると言う事は、ジョーの生身での活躍を見ても良く解る。
つまりは生身での戦闘力が物を言う事になるのだ。
ジョーが訓練を怠らないのはそこにあった。
ベルク・カッツェを倒し、ギャラクターを壊滅させると言う本懐を遂げる前に詰まらない事で生命を落としたくはなかった。
だが、他のメンバーの生命も彼にとっては自分の生命以上に大切な物だった。
嘗て仲間や南部博士を助けようとしたり、危険な任務を自ら進んで負い、傷を負ったり、生命の危機に晒された事は何度もあった。
彼は自分の事を甘い、と思う。
だが、仲間を、特にリーダーを死地に赴かせては行けない、と言う気持ちがどこかにあった。
勿論健がそれを良しとしない事は知っている。
何故なら彼は自ら死地へと赴こうとするタイプだからだ。
そうやって何度も冷や冷やさせられて来た。
だが、涼しい顔をして生還して来るのが科学忍者隊のリーダー、大鷲の健だ。
それに比べて自分は何だ、とジョーは考えてしまう。
任務上の負傷は彼が一番多かった。
名誉の負傷とは呼べない。
無茶をして受けた傷もあるし、止むを得なかった場合もある。
しかし、病院生活が多いのには懲り懲りしていた。

一番長かったのは、仔犬を助けて脳に傷を負った時か、それともBC島で無数の銃弾を受けた時か……。
BC島の時は心にも深い傷を負ったので、身体の回復よりも心の回復の方に時間が掛かった。
未だに回復したとは言い難い。
見掛け上は回復しているが、心には暗黒を背負ってしまった。
自分の生まれに負い目を持ち、友の生命もこの手で奪い、ギャラクターは未だに壊滅させられていない。
この状況の中、最近奇妙な症状が彼を襲うようになっていた。
刺すような頭痛と吐き気、そして激しい眩暈。
これは仔犬を助けた時の怪我が原因なのだろうか?
8歳の時に両親を暗殺されて負傷して以来、彼は数多くの怪我を負って来た為、何が病気の原因なのか、もう判然としない。
いや、病院に行ってきちんと検査を受ければ原因は判別するかもしれない。
だからと言って対処法が見つかるとは限らない。
もう手遅れだと言う自覚がジョーにはあった。
これからは仲間を守る余裕はないかもしれない。
彼は『焦って』ギャラクターを壊滅させなければならない状況に追い込まれている。
ギャラクターの子として生まれ、ギャラクターに両親を殺され、自分自身も重態に陥った。
あの時南部博士に抱き上げられた温かい感触は今でもリアルに覚えている。
今回ばかりはその手に縋れない。
科学忍者隊の任を解かれる事は、自分にとっては死以上の恐怖だったからだ。
例え死が友との縁を永遠に断つ事になろうとも、彼は後悔はしない。
病院のベッドの上でただ朽ちて行くのは、死地に赴くよりはずっと安楽だろうが、ジョーはその道を選ばない。
それは彼にとって屈辱でしかないのだ。
いつの傷が原因となっていようが、もうどうでも良かった。
自分の生命の火が消え掛かっているのであれば、この生命、無駄にはしない。
最後に蝋燭の火がパッと光るように、自分の生命を最後に華々しく燃やして燃え尽きたい。
それが自分の生きた証となるだろう。
ギャラクターと言う悪の秘密結社に大きな打撃を与えて…、いや、出来るものなら一網打尽にして、自分の生命を華々しく散らしたい。
最近のジョーはその事しか考えていなかった。
ギャラクターとの決戦の日が近づいている事は解っていたし、自身の生命の限界が近い事も解っていた。
しかし、彼はまだ2〜3ヶ月は大丈夫だろう、と思っていた。

ギャラクターの大掛かりな基地の場所を、ベルク・カッツェの口から不用意に漏れた言葉で知った時、ほぼ同時に自分の残りの生命がごく僅かしかない事も知る事となった。
彼に残された道は1つしかなかった。
その場所が敵の本部である事は知らなかったので、任務から外された後、彼は単身でその場所に乗り込む事となった。
その場所が本部だと知った時の驚き。
彼の運命だったと言えるだろう。
最後に用意された彼の大舞台だった。
この場所で最後の生命の炎を燃やせるのなら本望だ。
ジョーは自分の最後の運の良さに心から神に感謝した。
健達に連絡が付かなかった事は残念だったが、此処でこの生命を燃やし切ってやる。
弱り切り衰えていた身体能力がその気力と気迫によって凌駕され、不思議な力が漲った。
やれるだけの事はやる。
それが科学忍者隊G−2号・コンドルのジョーの生き様だ。
ギャラクターにその事を嫌と言う程見せ付けて最後の花を散らしてやるつもりだった。
博士や健達は突然居なくなった自分を心配するだろう。
済まないと言う気持ちはあったが、それ以上に闘志が勝っていた。
自分が死しても屍を拾う者は無いだろう。
それでも構わなかった。
最後の別れも告げずに別れてしまった事、ただそれだけが一点の曇りとなって心に広がっていた。
孤独な一生を終えようとしている彼だったが、仲間達と過ごした時間は、厳しい闘いの中にあったとは言え、まさに青春だった。
まだ10代の若い生命を散らそうとしている今、フラッシュバックのように仲間達の笑顔が浮かんで消えた。
彼らはジョーにとっては名実共に掛け替えのない仲間だった。
解り合えたかどうかは解らないが、心を割って話せたと思っている。
その彼らから自分を奪い取る行動に出る事に最早感傷はなかった。
ただ、『生きる』為に死地に赴き、死ぬ。
彼は自分の『生』を意味のある物とする為、これからの1分1秒に全身全霊を込めるのだ。
どんな苦しみが待っていようとも彼は恐れてはいなかった。
ただ野垂れ死ぬよりも有効にこの生命を使ってやろうと言う決意は固かった。
ふと自分の代わりにと仲間に預けて来たG−2号機の事を思う。
ちゃんと別れを告げられなかった事に少し未練があったが、それは仲間に対しても同じ事だった。
いつか解ってくれる日が来るだろう。
体力が残っている内に出来る限りの事を成し遂げなければならない。
変身を解かれて生身となったジョーは無心になって、跳躍した。




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