『映画鑑賞』

流行りの大きな映画館からジョーと連れ立って出て来た甚平は口を尖らせていた。
鳴り物入りの映画を鑑賞した筈だったのだが……。
「ちぇっ、つまんなかったな。CGを使ってて凄くかっこいいって前評判だったけど、ジョーの兄貴の羽根手裏剣の方がずっと迫力があるよ」
「だから言ったじゃねぇか。忍者が忍者映画を観てどうする、ってよ!」
ジョーは仏頂面で返した。
彼にとっても面白いものではなかったのだ。
「だってさあ、お店に来たお客さんがかっこいいって力説してて凄く興奮してたからさ。
 主演男優はまあまあイカしてたけど、ジョーや兄貴の方がずっとイカしてるよな。
 おいら達はCGやワイヤーアクションじゃないし!臨場感が全然違うよ」
「当たりめぇだ!本気で闘ってるのと訳が違う」
ジョーは苦笑いするしかなかった。
「まあ、おめぇが自分の小遣いで映画のチケットを買ったのは偉ぇと思うが、何で俺が付き合わされたんだ?」
「決まってるじゃん!兄貴がオケラだからだよ」
「映画のチケットを買う金もねぇとはつくづく可哀想なリーダー様だな…」
ジョーは呆れ顔で呟いた。
「今日はデーモン5のコンサートがあってお姉ちゃんが出掛けるから店も休みなんだ!」
甚平はジョーに何かをねだろうとしていた。
ジョーはそれが何か解っていたが、ちょっとはぐらかしてみたくなり、違う事を言ってみた。
「デーモン5ねぇ。どこがいいんだか解らねぇな。煩いだけだしよ。
 女のヴォーカルがギャーギャー意味不明な事を喚いているのも耳障りなだけだ」
「ジョーの兄貴はそれでもコンサートの時、耳栓をしてなかったじゃないか」
「レースで爆音には慣れてるからな」
「あ、そっかぁ!」
甚平は納得した様子だった。
「で?おめぇの狙いは何だ?またトレーラーに泊まりてぇのか?」
ジョーの勘は当たっていたようだ。
甚平は人差し指を突き合わせて下を向き、もじもじした。
「まさか、1人寝が怖いって言うんじゃねぇだろうな?」
映画館の駐車場にあった自動販売機でジュースを買って、甚平に渡しながらからかうようにその顔を覗き込む。
ジョーは自分の分には缶コーヒーを購入した。
プシュッと爽やかな音を立て、2人はプルトップを開けた。
「そんな訳はないよ。お姉ちゃんとは部屋が別だもん」
「そうか…。ジュンもお年頃だからな」
「おいらなんか男扱いしてくれないけどな」
「そりゃあ、当然だろう?まだ身体だって子供じゃねぇか?」
「いくつ位になったら、ジョーの兄貴みたいに渋くなれるのかな?」
「自然に大人になるさ。焦る事はねぇ。今は子供の時代を楽しんでいろ。
 とは言っても、任務があるからそうは行かねぇな…」
甚平は何の屈託も無い様子でジュースを飲み干した。
「ジョーの兄貴、ご馳走様!」
「ジュース位じゃあ、奢った内には入らねぇぜ」
「兄貴だったら大変だぜ」
甚平にそんな事を言われる健を思い、ジョーはついコーヒーを噴いて笑い出した。
「ガッチャマンも甚平にあっちゃ形無しだな」
「ジョーがそんなに笑うなんて珍しいな…」
甚平は嬉しそうにそんなジョーを眺めていた。
「お…俺だって笑いを堪えられねぇ時はあるぜ」
ジョーはクックッと肩を震わせてまだ笑い続けていた。

甚平と居ると、ジョーも癒されるのを感じていた。
科学忍者隊の弟的な存在である甚平は皆から愛されていた。
小さい頃から訓練を課せられて、良く耐えて来たものだ、とジョーは思う。
彼が親と離れたのは8歳の時だが、甚平は3歳の時には既に孤児となっていて、ジュンと出逢ったのである。
そんな境遇を嘆く事も殆どせず、健気に闘い続ける甚平には、ジョーも一目置いている。
この幼さでなかなかの機転を見せ、決して年上組にも勝るとも劣らない活躍をするのである。
甚平の健気さが、科学忍者隊の心を掴んでいるのだ。
ジョーが可愛がるのも当然だと言えた。
余り表立って言葉には出さないが、甚平をトレーラーに泊めたり、何かと構ってやる様子を皆が知っている。
甚平も健を兄貴と慕っているが、その場面場面に応じてジョーを頼ったり、上手い事兄貴分を区分けしているように見えた。
彼がジョーを頼るのは、比較的日常生活での事が主だった。
素顔に戻った健は当然ではあるが、酷くオケラ扱いされており、ジョーよりも生活能力が無いとメンバーから見做されていたのだ。
「ようし、今日は旨いレストランに連れてってやるか?」
ジョーは急にそんな気になった。
先程までは何を作ってやろうか、と考えていたのだが、『スナックジュン』の料理人兼ウェイターである甚平には、たまには人が作った物を食べさせてやりたかった。
ジョーが作ったのでは、甚平は手伝いを買って出るに違いない。
それに甚平よりもマシな物が作れる筈もなかった。
ジョーの気遣いは見掛けに寄らず深い処にまで及んでいた。
「いいよ、ジョー。おいら、泊めて貰うんだから、何か作るよ」
「折角の休みなんだから、そんな日ぐれぇは料理をするのはやめろ」
力強く言い切って、甚平を押し切ったジョーだが、まだ夕食にするには中途半端な時間だった。
「夕食までサーキットにでも行くか?」
「うん!」
甚平の声が弾み、その瞳が輝いた。
やはり『男の子』にとっては、レーサーは憧れの職業の1つだった。

だが、その時ブレスレットが鳴った。
「ちぇっ、呼び出しだぜ、甚平。……………こちらG−2号。G−4号も一緒です」
『こちら南部。ケーエム市にギャラクターのメカ鉄獣が出現した。
 石油コンビナートを破壊中だ。
 諸君は大至急ゴッドフェニックスに合体して急行してくれたまえ!』
「ラジャー!」
2人は同時に答えた。
「仕方がねぇな。またの機会だ。な、甚平。
 サーキットもレストランも逃げやしねぇさ。俺は約束を守るぜ」
「うん、解ってるよ、ジョー…。おいらはいいけど、お姉ちゃんが嘆き哀しみそうだなぁ…」
「帰ったら愁嘆場かもしれねぇな?」
ジョーはニヤリとした。
それに付き合う甚平が気の毒で仕方がなかった。




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