『狙われたジョー(2)』

ジョーは夜半、トレーラーハウスに帰宅した。
奴らが来るとしたら寝入り端だろう。
彼はシャワー中に襲って来る事はないだろうと思っていたが、念の為にすぐに服を着られる準備をした上で、シャワーを浴び、日常を装いながら、適度な時間に照明を落とした。
Tシャツのままベッドに横たわったが、彼は眠ってはいない。
全身全霊を傾けて、ギャラクターの気配を感じ取ろうとしていた。
さすがに健達の気配は全く感じない。
気配を殺す訓練は共に受けて来た。
実はトレーラーの間近に潜んでいる筈だった。
此処数日の敵の動きを肌で感じ取っているジョーには、今日がまさに敵襲の日だと言う強い予感があった。
敵の気配を感じたら、トレーラーハウスから飛び出し、ある程度暴れてから捕まってやろうと計画していた。
気配があったのは、横になって小1時間した頃だった。
ブレスレットを持っていないので、健達との連絡は取れないが、恐らくは彼らも気づいている事だろう。
既に彼らはバードスタイルになって待機している筈だった。
さわさわと風が動いた。
ついにお出でなすったか…。
ジョーは声を出さずに呟いた。
徐ろにベッドから立ち上がると、彼はトレーラーハウスのドアをバンっ!と開けた。
「こんな夜更けに何用だ?」
敵に狙ってくれ、とばかりにジョーがそこにいる事に、ギャラクターの隊員は気づかない。
功を焦っていたからだ。
バッタ隊長はこの男を拉致して来たら勲章をくれると言った。
全員の意識が鼓舞されていた。
上手いやり方だった。
(カッツェは少し部下の使い方を見習った方がいい…)
ジョーはそう思った。
敵が照明弾を撃ち、辺りが明るくなった。
健達は慌てて姿を木々の間に忍ばせた。
ジョーは今、恰好の標的だった。
敵の銃弾が彼の左肩を貫いた。
ジョーは肉を斬らせて骨を断つ、と言った精神でいたので、傷を受ける事は厭わなかったが、少々予想よりも重傷を負ってしまった。
だらりと下げた指先から血がボタボタと落ちているのを、健達は見た。
「ぐぅ…」
ジョーは唸ると少し揺らいだ。
だが、それを踏み止まり、肉弾戦を始めた。
少しは抵抗してやらなければ気に入らない。
しかし、彼は丸腰だった。
羽根手裏剣はあったが、迂闊には使えない。
エアガンは健に預けていた。
健は出て行きたがる甚平と竜を抑えなければならなかった。
「様子を見るんだ。ジョーは捕まる為に囮になった。
 それを無駄にするな。敵基地を見つけるチャンスだ。
 そして、ジョーを狙う奴らを諦めさせなければならない」
ジュンも同様に諭した。
「そうよ、今飛び出したらジョーの計画が水泡と帰すわ。傷は心配だけれど…。
 弾丸は貫通したみたいだけど、見るからに出血が酷そうよ……」
「不幸中の幸いなのは、あの様子だと骨は砕かれていないようだ。
 それに右腕が残っている以上、ジョーは闘える」
健は冷静を装っていたが、本当はそうではなかった。
自分自身が真っ先に飛び出したい気持ちを意志の力で強く抑えなければならなかった。
ジョーは激しく闘っている。
出血で意識が薄れて来ているだろうに、その闘い振りはいつもと大差ないのはさすがだった。
身体を回転させて長い足で敵を纏めて3人弾き飛ばした。
そのまま、跳躍して、敵の背中に強烈な肘鉄を入れている。
しかし、ジョーはそろそろ潮時か、と計算していた。
意識が混濁して来たように装って、彼は膝を付いた。
その瞬間に敵に周りを囲まれた。
彼の計算通りだったが、傷が重かった事だけは、予定外だった。
人質にするのなら致命傷は与えないだろう、と予測していたが、長時間手当てを受けられなければ、ジョーは失血死するだろう。
健にはジョーが演技で意識を失ったのが解ったが、他の3人は本当に意識を失ったのかとうろたえた。
「あれはジョーの演技だ。まだ心配は要らない。
 ただ、早く止血が出来ればいいんだが……」
「心配なのは失血によるショック死って訳ね」
ジュンが不安そうに一瞬眼を伏せたが、今はそれ処ではなかった。
ジョーは腰のベルトに発信機をセットしていた。
健達は各自のメカでそれを追って来る手筈となっていた。

ジョーは連れ去られている途中で本当に意識を失った。
敵のバッタ隊長はジョーに止血処置を行なってくれた。
人質に死なれては困ると言った判断によるものだろう。
決して彼の生命を助ける為ではない。
止血処置をしたからと言って、まだ完全に出血は止まっていないし、その痛みは絶大なものがあった。
痛みに耐えるのは、ジョーの得意とする処だが、さすがにズキズキと波のように痛み続けるその事だけでも、意識が引いて行った。
出血量も多かったので、既にかなりの血液が体外に流れ出てしまっていた。
意識は引いては戻していたが、ジョーは意識を失った振りを続けた。
「さすがの暴れん坊も銃弾をぶち込まれては、青菜に塩だな」
ベルク・カッツェの声が聞こえた。頗る上機嫌だ。
「さあて、南部と科学忍者隊に連絡を取るとするか…。
 どんな顔をするか楽しみだ。こいつの映像を撮っておけ。
 出来るだけ痛々しくな……」
カッツェの口元に憎々しい程の笑みが零れた。
ジョーは身体を無理矢理に引き立てられた。
激しい出血がはっきりと見て取れる位置に身体を動かされ、映像を撮られた。
ジョーは映像に移るように、意識を失ったように演技を続けたまま右手の人差し指を微かに動かして床を叩き、自分が無事である事をモールス信号で伝えていた。




inserted by FC2 system