『コンドルの苦悩』

俺の親父とお袋はギャラクターの大幹部だったと言う。
しかし、脱走を図った為に裏切り者として殺された。
俺の両親はどうしてギャラクターの組織に入ったのか?
そして2人の馴れ初めも、俺が生まれた経緯も俺は知らない。
俺が生まれる前に脱走していて、ギャラクターに発見されたのか、それとも俺はギャラクターの基地の中で生まれ育ち、両親は脱走してすぐに見つかって殺されたのか…?
脱走してすぐに、と言う事なら、あんな場所には居なかったのではないかと、今となれば思う。
ギャラクターの基地が置かれているBC島のビーチで2人は寛いでいた。
俺はその近くの砂浜で1人で遊んでいた。
あの時の状況を思えば、親父とお袋はギャラクターを脱走してから結ばれて俺を生み育てたのではないだろうか?
それなら、BC島に俺の幼馴染達が沢山残っている事も理解出来る。
両親は別の基地から脱走し、BC島にギャラクターの基地が建造されている事を知らずに終(つい)の棲家と決めたのかもしれない。
俺が両親の墓参りに行ったのは、俺の身体を脈々と流れているギャラクターの血との決別の思いからだった。
俺はギャラクターを憎み、飽くまでも科学忍者隊として闘い続ける為に、自分の過去を清算するつもりだった。
しかし、島はギャラクターに占拠されており、俺は追われる身となった。
今は神父となったアランが匿ってくれたが、まさか俺が以前倒したデブルスター2号がアランの婚約者だったとはな…。
それもサーキットで競争すると約束していたあの娘(こ)だったとは、何と言う不幸な偶然だったのだ!

俺はギャラクターの無数の銃弾に倒れ、今は病室のベッドで輸血を受けている。
アラン…。
不可抗力とは言え、俺はこの手で奴を撃って死なせてしまった。
俺の手は血で汚れているんだ。
正義の名の下に、何人の生命を奪って来た?
ギャラクターが憎いのは変わらないが、あいつらにも家族はいるだろう……。
ああ…、何だってこんな事を考えちまうんだ。
まるで健のようじゃねぇか。
これはアランを撃ってしまった心の負い目って奴か…?
俺はどこまでも数奇な運命を持って生きて行くしかないようだな…。

ジョーはこの後、自分を襲う恐ろしい病魔の事すら、まるで知っているかのように考えを巡らせていた。
(もういい…。どうせ俺のこの手は血に塗(まみ)れている。
 最期の瞬間までギャラクターを叩き潰す事の為だけに生きて、この生命を燃やし尽くしてやる!)
ジョーは自分の右手を見つめ、そして強く握り締めた。
その手は微かに震えていた。
「ジョー……」
いつの間に入って来ていたのか、健がジョーの震える手を取った。
気配すら感じないとは…と、ジョーは自分の愚かさを呪った。
「目覚めたのか?」
健は静かに言った。
「ああ……。もう心配するなって」
ジョーは自嘲気味に笑って見せた。
(無理をするな、ジョー……。お前はまだ苦しんでいる。
 俺達に少しでもお前の痛みを癒す事は出来ないのか?
 いっその事、甘えてくれたらどんなにかいいのに…。だが、お前は絶対に甘えを見せたりしない)
健は黙って、ジョーの手を握り締めた。
「俺達はいつだって一緒だ。1人で行くなんて水臭いぜ」
それだけ言うとジョーの手をそっと離し、健は立ち上がった。
「とにかくゆっくり寝る事だ。猛禽類のコンドルにも羽を休める時間は必要なんだぜ」
入って来た時と同様に気配を殺してそっと出て行く健だった。
その背中を見送りながら、ジョーは唇を噛み締めた。
涙がひと筋だけ流れ落ちた。
様々な思いが複雑に交錯した涙だった……。




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