『狙われたジョー(3)』

案の定、カッツェは南部の元にジョーの映像を送って来て、人質に取った事を告げた。
その映像の中には、止血処置をしてあるジョーの傷口にカッツェがブーツの踵をグリグリと押し付けて更に流血させると言うシーンがあり、その痛々しさに南部は思わず眼を逸らした。
そんな痛みの中でも、ジョーは意識を失った振りをして、『自分は大丈夫だ。作戦の遂行を続けてくれ』と途切れ途切れにモールス信号を送っていた。
ジョーの事だから、映像で何かを伝えているに違いない、と判断した南部が映像を拡大してそのサインを見つけたのだ。
『そんな訳でジョーはまだ意識を保っている。気を失った振りをしているだけだ』
とゴッドフェニックスのスクリーンの中の南部は告げた。
「ジョーの発信地点はチチハハ湖の湖底です。
 基地は間違いなく、湖底に存在しているに違いありません」
健が答えた。
『敵が私達を呼び出しているのは、XY−359地点にある古い空港だ。
 1時間後に来いと言っている』
「博士、此処は俺達が基地を叩き壊してカッツェの目的も亡き物にしてやります。
 ジョーの出血が酷いので、早く手当てをしてやりたい」
『ジョーはもうその基地にはいないかもしれない。
 発信機は気づかれて捨てられた可能性がある。
 その基地に踏み込んでも自爆装置が作動しているのがオチだろう』
「つまり、ジョーは既にXY−359地点に連れ出されている、と言う事ですか?」
『それは解らん。基地内に放置されている事も考えられる。
 ジョーにブレスレットを渡していない以上、ジョーからは我々に向けて連絡の取りようがない』
「博士、それでは、我々はやはり基地に潜入してジョーを探すしか手はありません!
 ジョーが残っている可能性があるのなら……」
健がそこまで言い差した時、竜が「健!あれを見ろ!」とメインスクリーンを指差した。
夜明けの湖の湖面に赤い色が大きく広がって行った。
その中から見慣れた男が顔を出した。
「ジョーだわ!自力で脱出して来たのよ!」
ジュンの声が弾んだ。
「博士、ジョーが自力で基地から脱出して来ました。今すぐ拾います」
『そうか、それは良かった!』
南部博士もほっとした様子を見せた。
「甚平、G−4号機でジョーを拾ってくれ。
 ジュン、毛布とタオルを用意してくれ」
「ラジャー!」
健が早速指示を出した。

ジョーはコックピットに入って来るなり健に告げた。
「あの基地は間もなく自爆装置が起動する。
 カッツェは俺に変装して、XY−359地点に行くつもりだ」
「そう言う事か…。カッツェめ……」
健は拳を握り締め、スクリーンの中の南部博士に言った。
「博士、聞いての通りです」
健がそう言っている間にジュンと甚平がびしょ濡れになったジョーの身体を拭き、傷口の止血をやり直し、彼を毛布で包んだ。
ギャラクターのバッタ隊長の止血が利いて、ジョーは辛うじて意識を保っていた。
だが、カッツェに傷口を痛め付けられた事で、更なる出血が始まっていた。
「酷いわ。カッツェのやる事は…。絶対に許せない……」
ジュンが珍しく怒りを露わにした。
「みんなすまねぇな…。最初は1人でやろうとした事だったが、結局はおめぇらや博士を巻き込んぢまった……」
『ジョー、早く治療をしてやりたい処だが、科学忍者隊と私はこれからXY−359地点に行かねばならない』
「解っています。俺も行きますよ。幸い健がブレスレットを持っていますからね」
『それはならん。君は重傷なのだぞ』
南部の表情が険しくなった。
「ですが、科学忍者隊は5人です。
 俺が行かなければ、残りの1人はどこにいる?と騒ぎになるでしょう。
 俺の正体が疑われる事になります。
 俺はあの基地で死んだと思われているのですから、今はG−2号が出て行った方が良いでしょう」
『大丈夫かね?ジョー。顔色が相当悪いぞ。
 その身体で変身の高周波に耐えられるかね?』
南部の言葉は、此処にいる全ての者の気持ちを代弁していた。
「何のこれしき。健!」
ジョーは健にブレスレットを催促した。
健は一瞬渡す事を躊躇ったが、スクリーンの中の南部が『渡してやれ』と言ったので、無言でそれをジョーに渡した。
ジョーはそれを受け取るとふらつく身体を押して立ち上がった。
「バードゴー!」
虹色に包まれる彼の身体。
一瞬その虹色の中でその身体が揺らいだように見えたが、何とか変身には耐えた。
「俺は行きますよ」
バイザーの下のジョーの瞳は、その決意が強い事を感じさせた。
「解った……。竜、機首を南東に向けろ。XY−359地点に急ぐぞ」
『では、私もそちらに向かう』
博士の声をジョーが遮った。
「博士は律儀過ぎます。俺達で何とかしますから、基地にいて下さい」
「ジョーの言う通りです。博士まで危険な目に遭わせる訳には行きません。
 ジョーが狙われた理由については気にする事はありません。
 おかしな言い方ですが、寧ろジョーで良かったとは思いませんか?
 これがISOの職員だったら……」
健が皆まで言わずとも、博士は勿論の事、科学忍者隊の全員に彼の言いたい事は伝わった。
「博士。俺が1人で動こうとしたのは、その気持ちがあったからですよ」
ジョーは少し息苦しそうだったが、そう言った。
「これは幸いだと、そう思ったんです…。
 博士が行くべきではありません。
 健と言うリーダーもいます。此処は俺達に……」
ジョーの声が途切れた。
「ジョー、大丈夫か?」
健が脇から彼の身体を支えた。
「到着するまで座っていろ」
健はジョーを自席まで連れて行き、座らせた。
「すまねぇな。弾丸(たま)は貫通している。俺は大丈夫だぜ。
 俺に化けたカッツェの奴がどんな演技をするのか楽しみだな」
「肩で呼吸(いき)をしている癖に無理をするな。
 傷を受けてから7時間以上経っているのに、まだ止血以外の手当てをしていないんだ。
 お前は激しく動くな。俺達でカバーする。
 ……その為の仲間なんだぞ。いいな?ジョー!」
「解ったぜ…。おめぇはやっぱり科学忍者隊のリーダーだな。
 その人心掌握の力には恐れ入ったぜ」
ジョーは信頼の眼で健を見た。
「健!間もなくXY−359地点の空港だわい」
スクリーンに今はもう使われていない古い空港が見えて来た。
「指定の時間まで後どの位だ?」
「後10分!」
「よし、着陸だ。充分に気をつけろ」
人気のない空港を朝陽が照らし始めた。
「明るくなってからの時間を指定して来るとは、カッツェは余程自信があるに違いないぞ」
健が呟いて、全員に警戒するようにと告げた。

「ほう、科学忍者隊、お早いお着きだな。南部はどうした?」
空港の古い設備から、スピーカーでバッタ隊長の声がした。
まだ姿は見えない。
科学忍者隊は5人並んで、ゴッドフェニックスの前に立っていた。
「南部博士はゴッドフェニックスの中だ!
 まずは人質が無事かどうか見せて貰おう」
健が真っ直ぐな瞳で声がした方を睨んだ。
駆け引きは始まったばかりだった。




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