『狙われたジョー(4)』

「見たいか?弱り切った南部の養子の姿を!
 貴様らも顔見知りなんだろう?」
バッタ隊長が下卑た笑いを見せた。
「ほうれ!」
彼が放り出したのは、ジョーの姿に変装したカッツェだった。
本物のジョーのようにしか見えなかった。
「ほ〜。さすがはカッツェだ。ジョーの兄貴が此処にいなかったら勘違いするぜ」
甚平がポツリと呟いた。
肩に血糊をべったりと付け、彼の周囲にはあっと言う間に血溜まりが出来た。
「ケッ、演出し過ぎだろ?」
ジョーが気に入らねぇなとばかりに苦笑したが、此処は彼らも演技をしなければならない。
「何と言う事を!約束通り俺達がやって来た。人質を早く返して貰おう!」
健が叫んだ。
「た…助けてくれ……」
ジョーの声音を真似てはいるが、ジョーは口が裂けても『助けてくれ』などとは言わない。
科学忍者隊は笑いを堪えた。
「待て!彼は本物なのか?彼は決して『助けてくれ』なんて言う男ではないぞ!」
健が一歩前に出た。
敢えてジョーの名前は呼ばなかった。
科学忍者隊の『コンドルのジョー』の名は敵に知られている可能性があった。
その時、ジョーが跳躍して、一気にジョーに化けたカッツェの元へと飛び込んだ。
肩が激しく痛む。
気が遠くなりそうだった。
だが、自分の手でカッツェの仮面を外さなければ気が済まなかった。
それだけは他のメンバーに譲れない役目だった。
「貴様はベルク・カッツェだろう!?正体を見せやがれ!」
ジョーは仮面を剥ごうとした。
カッツェが暴れた為、左肩が悲鳴を上げる。
だが組んず解れつした結果、ジョーは見事に自分そっくりな仮面をカッツェから剥ぎ取った。
「上手く変装しやがったものだ。
 本物のあいつはどこへやった?言え!カッツェ!」
俺は此処にいるぜ、とは言えない。
それを口実にして、カッツェを痛め付けようとした。
「残念だが、基地と諸共に吹っ飛んだわ。
 南部がさぞかし嘆き哀しむだろうな。
 想像するだけで愉快だ。カカカカカカ…!」
相変わらず癇に障る声でカッツェは笑った。
「やはり偽者で俺達を釣る作戦だったんだな!
 汚い真似をしやがって!」
健が怒りに燃えて、ジョーからカッツェを引き離し、紫の仮面の顎をしこたま殴った。
手負いのジョーに負担を掛けたくないと言う気持ちも彼にはあった。
カッツェは健の鉄拳を諸に浴びて10メートルも弾き飛ばされた。
「カッツェ様!」
バッタ隊長達が慌てて、科学忍者隊の周囲を取り囲んだ。
「カッツェ。いつか言った筈だ。変装する時には言葉遣いに気をつけろとな」
健は顔を覆って倒れているカッツェに向かって仁王立ちになった。
「生憎あの男は肝が据わっていてな。
 助けてくれだなんて、死んでも言わねぇんだよ!」
ジョーが言い差した処へ、ギャラクターの隊員達の一斉攻撃が始まった。
「ジョー、貴方は無理をしないで」
ジュンがジョーの前に出た。
「心配するな。この程度の出血ぐれぇ、大、じょ……」
ジョーの身体がぐらりと揺れて、竜が慌てて後ろから支えた。
「ほら見ろ。出血が酷過ぎるんだわ」
「ジョーの兄貴、おいら達に任せておけって!」
甚平も言ったが、黙って見ていられるような玉ではない事は健が一番良く知っていた。
「ジョー、出来る限り身体を動かすな。投擲武器だけで対処しろ」
敵にジョーの負傷を知られてはならない。
健は擦れ違いざまにジョーにそう告げた。
「カッツェのあの自信から見て、この空港には何かの仕掛けがある。
 もしかしたらこの空港自体が基地になっているかもしれん」
健が闘いながらジョーに話し掛けた。
ジョーも羽根手裏剣を唇に咥えて、エアガンを手に健と背中合わせになり、
「この空港には何か違和感がある。ただの古い空港じゃねぇ。
 空港自体がメカ鉄獣をカモフラージュしているのかもしれねぇぜ!」
ジョーの鋭い勘に健は舌を巻いた。
「確かにそうかもしれないな…。
 それよりも、ジョー。お前の背中は火のように熱い。
 もしや発熱しているんじゃないのか?」
「……かもしれねぇが、今はそんな事を感じている余裕はねぇよ!」
ジョーはゆうらりと姿勢を直して、エアガンの引き金を絞った。
三日月型のキットが的確に敵の頭を直撃し、1度に10人もの敵を倒した。
その間にエアガンを動かない左脇に挟み、ジョーは羽根手裏剣を3本飛ばした。
これも確実に敵の喉を射抜いていた。
ただでは終わらない。
自分の身体が指1本でも使える限りは、最後まで諦めないで闘い続ける。
これがジョーの信条だ。
健の言う通り、発熱はあるだろう。
あれだけの出血をしているのだ。
当然の事だと彼も思った。
だが、ジョーには全く自身が発熱している事を感じられなかった。
闘いの中にある自分をただ実感しているだけだった。
この肉弾戦はやがて収束し、メカ鉄獣が出て来るに違いない。
それまでは自分の持てる力を目一杯使い切る事だ。
弱っていようが、やはり彼は飽くまでも生まれながらの『戦士』なのだ。
鍛え上げられたその身体能力を最大限に出し切る。
左肩を射抜かれていても、右手と両足は使えるのだ。
闘う事を諦める事など出来やしない。
ジョーは眼の前に迫った敵を身を低くして足払いした。
3人の敵がドドっと彼の前に倒れた。

その時だった。
ドドドドド……、と地響きが聞こえ始めた。
ギャラクターの隊員達は皆引き上げて行く。
「いよいよ、メカ鉄獣のお出ましか!」
ジョーがごちた。
「よし、ゴッドフェニックスに撤退だ!ジョー、俺の肩に掴まれ」
健が全員に指示を出し、ジョーに左肩を差し出すようにした。
ジョーは素直にそれに従った。
自力でジャンプ出来るだけの力は、もう残ってはいなかった。
コックピットに戻ると、ジョーはその場に倒れ込んでしまった。
3600フルメガヘルツの高周波を持続する事に耐えられなくなったのか、突如彼の身体はまた虹色に包まれて、生身に戻ってしまった。
「酷い出血だわ。あれ程止血をしたのに…」
ジュンが表情を曇らせた。
「今は、俺の事なんて構っている場合じゃねぇ!」
「ジョーの言う通りだ。全員配置に付け!」
ジョーの勘は当たっていた。
空港自体がメカ鉄獣をカモフラージュしていたのだ。
空港の設備が崩れて行き、これまでにない巨大なメカ鉄獣が出現した。
「健…。火の鳥をやれ」
ジョーの呟きに全員が驚いて彼を見た。




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