『殺し屋ロッチェ(後編)』

「さて、どう料理してやろうかな?坊や」
ロッチェは俄然やる気が出て来たようだった。
凄腕の殺し屋の血が甦り、負けん気が燃え盛って来たのだろう。
曲がっていた腰がシャンと伸びている。
先程の1発目とはかなり違う、重い1発がジョーを襲って来た。
ジョーは側転をして避けようとしたが、避け切れず咄嗟にマントでそれを防いだ。
銃弾はマントで跳ね返された。
「そのマントは余程丈夫に出来ているようだな。
 ヘルメットもそうだろう。だが、身体の部分はどうかな?
 今度は心臓を狙ってやるぞ、坊や。後3発だ」
ロッチェがニヤリと笑った。
甚平がまた前に出ようとしたが、健が止めた。
「大丈夫だ。ジョーはやられたりはしない。爺さんを撃とうとしないだけだ。
 ジョーはまだ1発もロッチェ爺さんに対して銃弾を発射していない」
冷静に分析している健の元に南部からの通信が入った。
『ロッチェの息子の件が解ったぞ』
「……何ですって!?」
南部との通信を終えた健は驚いてロッチェの方を見た。
南部博士の話によると、ロッチェ爺さんには孫娘と曾孫は居なかったのだ。
その話はカッツェの作り話だった。
ロッチェに見せた写真は合成写真であった。
彼が息子に逢いに行った後、数年後にその息子は不慮の事故で亡くなっていた。
実は父親が極悪犯だった為に、彼は結婚も出来ずに独身を通し、その為身寄りが無かったのだ。
ロッチェは長く獄中に在った為に息子のそう言った消息を知らなかったのである。
居場所だけは変わっていなかったので、逢いに行く事は出来たのだ。
しかし、息子が何も語らなかったのでそう言った事情があったとはロッチェの知る処ではなかった。
健はジョーとロッチェに向かって叫んだ。
「ロッチェさん!貴方はギャラクターに騙されています!
 貴方の息子さんは結婚しないまま去年不慮の事故で亡くなっています。
 つまり、貴方には孫娘も曾孫もいないのです!
 人質など最初から居なかったのです!」
「何だって!?」
ロッチェの顔色が変わった。
「だが…確かに息子と一緒の写真が……」
うろたえている。
「そんなもん幾らでも合成すれば作れるだろうぜ」
ジョーが低い声で唸るように言った。
胸の中で怒りが沸騰しそうだった。
その時、円盤型メカ鉄獣からカッツェが姿を現わした。
「くそう、もう1歩で追い詰められそうだったのに、南部の奴め調べ上げおったか!」
「カッツェ!」
健達が跳躍して一気に鉄獣メカへと走り寄った。
「許せねぇ…。人の心を踏み躙りやがって……」
ジョーが呟いた時、ロッチェが振り返って、カッツェに向かって拳銃を発射した。
真相を知って反旗を翻したのだ。
その弾丸はカッツェの不意を付いて、その頬を掠めた。
「この裏切り者め!」
カッツェがロッチェを襲わせるように部下に合図をした。
その時、ジョーのエアガンが唸り、ロッチェの背中を直撃する。
ジョーはロッチェの生命を守る為に衝撃弾を撃って黙らせたのである。
「ジュン、甚平、ロッチェ爺さんを頼んだぞ!」
健が言い残し、健、ジョー、竜の3人がカッツェに迫った。

肉弾戦が始まった。
敵兵はメカ鉄獣からわらわらと飛び出して来る。
中にどれだけの兵がいるかは解らない。
だが、科学忍者隊の敵ではなかった。
3人で八面六臂の活躍をして敵を蹴散らして行く。
健はブーメランを縦横無尽に使いこなし派手に敵を倒し、ジョーは羽根手裏剣とエアガンを同時に繰り出して行く。
竜は怪力に物を言わせ、武器を使わずに敵を投げ、踏み倒す。
それぞれの闘い方は個性的だった。
「カッツェを追い詰めるんだ!」
健が叫んだ。
カッツェはまさにメカ鉄獣の中に逃げ込もうとしていた。
「中に突入しようぜ、健!」
ジョーが追おうとしたが、既にメカ鉄獣は物凄い速さで動き始めていた。
これではマントを使って飛んでも間に合わない。
「くそう、相変わらず逃げ足が早い奴だ!」
ジョーが悔しがったが、とにかく全員がゴッドフェニックスに向かって走った。
その時、ジュンが機転を利かせてゴッドフェニックスを操縦し、3人の近くまでやって来たので、3人はそのままトップドームへとジャンプした。
コックピットに戻るとすぐさま竜が操縦席を替わった。
「ロッチェ爺さんはどうだ?」
ジョーが気掛かりな事を訊いた。
「大丈夫そうよ。脈も安定しているわ。痺れが取れたら意識も元に戻るでしょう」
ジュンの言葉はジョーを安心させるには充分だった。
見た処、ロッチェ爺さんは顔色も悪くない。
「ようし、超バードミサイルをぶち込んでやるぜ!」
健は止めなかった。
ジョーは勇躍赤いボタンの前に立った。

ロッチェ爺さんは彼が住んでいると言う街でゴッドフェニックスから下ろされた。
「爺さん、無茶をしちゃ駄目だぜ。後は穏やかな老後を過ごせよ」
ジョーが腰が曲がったロッチェ爺さんの肩を軽く叩いた。
「あんたの射撃の腕は大したもんだ。わしの跡継ぎになれるよ」
「殺し屋の跡継ぎなんて御免蒙るぜ」
「それもそうだ…。あんた達にはまだまだ明るい未来がある筈だ」
ロッチェが笑った。
「坊や。あんたには負けたよ。
 わしは坊やがギャラクターのマシンガンをその銃で奪い取った時に既に悟っていた。
 あんたには適わない、とね。
 この拳銃の最後の1発で自分を葬ろうと思っていたのだ」
「爺さん、その銃はもう要らんでしょう。俺が預かっておきますよ」
ジョーはそっとロッチェの手から拳銃を受け取った。
ロッチェも抵抗はしなかった。
「爺さん、元気で暮らせよ」
「あんた達も若い身空であんな奴らと闘っているとは見上げたものだ。
 きっと勝てるだろう。わしはこの後どの位生きるか解らんが、見守っておるぞ」
ロッチェ爺さんはそう言い残すと、後ろを向き、歩き出した。
後ろ姿のまま手を振ると、ふっと路地裏へと消えて行くのだった。




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