『トカゲ鉄獣(前編)』

そのメカ鉄獣は、ジョーがG−2号機を走らせていたサーキットの近くの街に突然現われた。
走っている最中に轟音と共に突風を受けたジョーは巧みにステアリングを切って停止し事なきを得たが、中には衝突事故を起こしている者もいた。
『G−2号、こちら南部だ』
「博士、メカ鉄獣の件なら、今俺はそのすぐ近くに居ますよ」
『解っている。健達も今からそちらに向かわせる。
 取り敢えず様子を探って、逐一報告を入れてくれたまえ。
 私が許可を出すまではくれぐれも1人で攻撃を仕掛けないように』
「ラジャー!」
通信が切れると、ジョーは一旦G−2号機の外に出た。
「怪我はないか?」
「大丈夫だ!」
その答えを確認してから彼は急発進してサーキットを飛び出し、バードスタイルに変身した。
メカ鉄獣は巨大なトカゲ状の怪物だった。
手足の爪が鋭く、街を這い回ってはビルを破壊して行く。
「博士!トカゲのようなメカ鉄獣が石油コンビナートに向かっています!」
『何?仕方がない。健達の到着を待たずに少しでも喰い止めてくれ』
「ラジャー」
ジョーは短く応えると、メカ鉄獣よりも先回りをしながら、広い場所を探した。
そうでなければ、街を破壊してしまう。
とにかく猛スピードで街中を駆け抜けた。
「む?」
広い川を渡る大きな鉄橋に出た。
此処なら攻撃するのに問題はないだろう。
橋の上で待ち伏せてガトリング砲の発射準備をした。
巨大だ。
G−2号など蟻のようなものだ。
これでは街が一瞬にして破壊されたのも頷ける。
「博士。メカ鉄獣を待ち伏せしています。
 間もなく攻撃を仕掛けますが、とにかく敵が巨大過ぎます。
 ガトリング砲でやれるかどうかは疑問ですね」
『今、近くの国連軍もそちらに向かっている。
 何とか時間稼ぎをしなければならない。
 間もなくゴッドフェニックスも到着する筈だ』
「解りました。攻撃に掛かります」
ジョーは息を整えた。
一番効果的なのは、敵の手足を奪ってしまう事だ。
這い回る事が出来なくなる筈だ。
それは姿が見えて来た国連軍の飛行機よりも、地上に居る自分の方が狙いやすい。
「一か八か…。4本の足全てを狙うのは難しいだろうが、まずは1本なら……」
ジョーは呟いて、ガトリング砲の発射スイッチに指を掛けた。
ターゲットスコープを用意して、敵の動きを見極めた。
ついにスイッチを押す。
ガトリング砲が連射され、見事に足を1本奪い取った。
トカゲの尻尾切りと言うが手足は再生出来ないだろう。
これがイモリだったら話は別だが…。
ギャラクターのメカ鉄獣は元になった生き物の特性をそのまま持ったものが多いので、今回もそうであれば、足は復活出来ない筈だった。
しかし、今回はそうではなかったようだ。
ガトリング砲により喪われた足が再びニョキっと生えて来たのだ。
「博士。トカゲの足を破壊しましたが、また生えて来ました。
 これではイタチゴッコですが、取り敢えず少しでも足止めする為、このまま攻撃を続けます」
『解った。充分に注意してくれ。ゴッドフェニックスはもう近くまで到達している。
 彼らが到着したら、攻撃を中止して合体するのだ』
「解りました」
ジョーはステアリングを切り、狙う位置を変えた。
その時、驚くべき事が起こった。
トカゲのメカ鉄獣が瞬間移動して、その太い手でG−2号機を握り締めたのだ。
「は…博士。敵は瞬間移動のような技を持っています。
 今、G−2号機が握り潰されようとしています」
『ゴッドフェニックスからミサイル攻撃をさせる。その間に逃げ出すのだ』
博士の言葉通り、ゴッドフェニックスがミサイル攻撃をして来た。
ジョーが合体していないので、バードミサイルは使えない。
トカゲ鉄獣はなかなかしぶとい。
コックピットの強化ガラスにヒビが入り、ついに割れた。
その割れたガラスがジョーのバイザーに直撃し、小さな破片がジョーの眼を傷つけた。
しかし、咄嗟に腕でかばったので、大きな破片は右腕に刺さり、眼は出血はしているものの視力を喪う程ではなかった。
血を洗い流せば大丈夫だろう。
右腕の傷の方が酷かった。
だが、このまま潰される訳には行かなかった。
ゴッドフェニックスは次々と攻撃を仕掛けている。
危険だが、敵のメカ鉄獣の手を狙って来ている。
場合によってはジョーまで巻き込む可能性があったが、彼を救い出す為には止むを得ないと健が判断したに違いない。
恐らくは彼自身がミサイルを撃っているのだろう。
ゴッドフェニックスがメカ鉄獣の眼の前で大きく旋回して、気を引いた。
次の瞬間メカ鉄獣の頭部に健が撃ったミサイルが直撃して、ジョーは漸く解放された。

「すまねぇな。世話を掛けちまったぜ」
ゴッドフェニックスのコックピットに入るなり、ジョーが言った。
眼からの出血で顔が凄惨な事になっていたが、心配する皆に「大丈夫だ。ちゃんと眼は見えている」とだけ答えた。
「いや、ジョーが随分時間を稼いでくれた。まだ石油コンビナートは無事だ」
健が言った。
ジュンが清潔なガーゼでジョーの眼を拭くと、瞼が切れていた。
そこに消毒液を含ませたガーゼをサージカルテープで貼る。
今はその程度の手当てしか出来なかったが、それでもジョーには充分だった。
その手当ての間に甚平が右腕の傷の心臓寄りの部分をタオルで縛って止血してくれていた。
破片は入ったままだが、下手に抜き出さない方が良いだろう。
「ジョーの兄貴、これじゃあエアガンも羽根手裏剣も使えないね」
「いや、いざとなれば左腕がある。俺は闘えるぜ。その為の訓練を重ねて来たからな。
 骨にヒビが入ったようだが、大した事はねぇ。心配すんな」
ジョーは甚平に力強い言葉を投げ掛けた。
「だが、今日は白兵戦にはならないかもしれん。
 出血はそれ程酷くないようだが、ジョーは体力を温存しておけ。
 下手に動いて破片が腕に更に突き刺さったらどう言う事になるか…。
 動脈を切断でもしたら大変な事になるぞ」
健が言った。
「バードミサイルか火の鳥か……。
 石油コンビナートを巻き込まないように闘わなければ」
腕を組んで考えている。
「健、奴は手足を切ってもまたすぐに生えて来るんだ。
 まるでトカゲではなく、イモリのようだな」
「イモリだってすぐには生えて来ないよ、ジョーの兄貴」
「そこはメカだからな、甚平…」
ジョーが甚平の頭に左手を乗せた。
止血をしてくれた事に対する礼のつもりなのだ。
「奴の身体は巨大過ぎる。どこかに必ず弱点はあるだろうぜ、健」
まるでゴッドフェニックスが赤子のように見える程の大きさの対比だ。
いや、赤子以下と言ってもいい。
「白兵戦になっても俺は構わねぇぜ。
 敵の足をもぎ取ってその瞬間に中に潜り込めねぇか?」
「ジョーは留守番だ」
「じゃあ、おらが代わりに」
竜が勇躍立ち上がろうとしたが、
「誰がゴッドフェニックスを操縦するんだ?」
と健に窘められた。
「バードミサイルで足をもぎ取って、俺とジュン、甚平の3人で乗り込もう」
「それは危険だ。俺も行く」
「駄目だ!」
健とジョーの押し問答が始まった。
「俺には左腕がある。充分に闘えると言った筈だ。
 こう言う事が起こる事を想定して、どれだけ訓練を積んで来たと思っているんだ?」
「健、確かにそうよ。
 ジョーは左腕1本あれば闘えるように1人で密かに訓練を積んでいるわ」
「左腕だけじゃねぇ。両足は無傷だ」
ジョーがニヤリと笑った。




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