『憂国の末(4)』

チャーター機は静かに離陸した。
ジョーは簡易レーダーを組んだ長い足の上に置き、更に窓から見える周囲にも気を配っていた。
暫くは安定したフライトだった。
夕方に出発したが、やがて夜の地域を経て、夜明けの区域を飛行した。
その時、レーダーに強い反応が現われた。
「博士!右後方から大型飛行物体が接近しています!
 案の定、この機を撃墜するつもりでしょう。
 全員安全ベルトを着用して下さい」
ジョーは非常脱出装置のリモコン装置を手に、格納庫のG−2号機へと走りながら、甚平に通信をした。
「甚平、聞こえるか?王子が乗った機体が大型飛行物体に追われている!
 そこからの距離は10kmだ。
 ゴッドフェニックスで近くまで来て、非常脱出装置で5人が脱出したらG−4号機で拾ってくれ!」
『ええっ?5人も?』
「だから、俺は反対したんだ。だが仕方がねぇ」
『解ったよ。今、ゴッドフェニックスでそっちに向かっているから。
 それより、ジョーの兄貴はどうするつもり?』
「G−2号機に乗っている。このまま撃墜されたら、多分海に不時着するだろう。
 竜に拾って貰うしかねぇ」
『ジョー、危険だぞい』
竜の声が聞こえた。
「だが、G−2号機は飛べない。仕方がねぇんだ。
 竜、俺の生命、おめぇに預けた」
『いんや、一方的に預けられてもよぉ』
『やるんだ、竜!』
健が竜に強く言っている。
「来なさったぜ!」
ジョーはそう言って通信を切り、南部を呼んだ。
「博士、非常脱出装置のボタンを押すタイミングは俺に任せて下さい。
 皆に落ち着くように指示して下さい。
 このままだと海上に落ちると思いますので、その前に甚平に拾わせます」
『それは解ったが、G−2号、君はどうするつもりだ?危険だぞ』
「危険は承知の上です。G−5号に拾って貰うより他ありません」
『G−2号機は多少の時間なら水上を走る事も出来るだろう。
 だがそれも僅か数秒で、水没するぞ!』
「とにかく何とかG−5号に拾って貰うしかありません。
 間もなくゴッドフェニックスがやって来ます」
敵機からのミサイル攻撃が来た。
まだゴッドフェニックスはやって来ない。
全速力は出しているものの、G−2号機を欠いた状態なので、スピードが出ないのだ。
(間に合ってくれ……)
と南部は祈った。
王子の生命は勿論、長官の生命も、そしてSPや自分の生命も無駄には出来ない。
そして、何よりもジョーが無事でなければならない。
その時、左側の羽根がミサイルにより破壊され、機体がバランスを崩した。
続いて、エンジンをやられた。
その時、ゴッドフェニックスから『到着した』と言う通信が入った。
(万事休す!甚平、頼んだぞ)
ジョーは非常脱出ボタンを押し、5人を機外へと放出した。
自身は格納庫の扉の遠隔スイッチを押し、そこからG−2号機毎飛び出した。
高度500メートルまで下がっていたとは言え、無謀な事だった。
甚平が魚網のようなものを出して、5人を拾ったのを見届けて、ジョーは海上へと真っ逆様に落下して行った。
『ジョー!』
ブレスレットから南部の声が響いた。
恐らくは名前で呼んでしまった事に気付いてはいまい。
加速がついている為、G−2号機はあっと言う間に海面に落ち、激しい衝撃を受けた。
コックピットの窓にヒビが入り、海水が入って来た。
そのまま海の底に沈むかと思った時、ゴッドフェニックスのオートクリッパーが伸びて来て、ジョーは九死に一生を得た。
衝撃を受けた時に左の肘をしこたま打って骨折したようだが、生命有っての物だねだ。
ゴッドフェニックスのコックピットまで両腕の力で上がるのは、肘を骨折した彼にはきついものだったが、何とか上り切った。
骨折をすると意識が遠のく事がある。
コックピットに入って来たジョーはふらついていた。
そこには王子を初めとして、全員無事に揃っていた。
ジョーはホッとして、一瞬身体をぐらりとさせたが、すぐに立ち直った。
「ジョ……G−2号、大丈夫か?」
健が敢えてコードナンバーで彼を呼んだ。
外部の人間がいるからである。
「海上に激突した時の衝撃で左肘を骨折したようだが、大した事はねぇ。
 G−5号、世話を掛けたな。G−4号も…ありがとよ、助かったぜ」
「いいって事よ。おいらのG−4号機は万能だぜ」
「おらの腕を見直したろ?」
2人が笑った。
「G−2号、肘を固定した方がいいわ」
ジュンが救急箱を用意した。
「G−3号、患部を冷やしてベルトで固定して上げなさい」
「ラジャー」
「とにかく今の飛行空母を追うぞ。G−5号、180度転回!」
健が指示を出した。
「ラジャー!」
「王子と長官がおられる。出来るだけ操縦は穏やかにやってくれ」
「解っとるが、ちと難しいのう…」
竜はぼやきながらも出来るだけ急転回をしないように気をつけた。
「G−2号、超バードミサイルをぶち込んでやれ。
 あの中にはカッツェはいない筈だ」
「ラジャー」
ジョーがバードミサイルの発射ボタンの前に立った。
肘は痛むが、彼は痛みには強い。
この程度なら耐えられる。
コックピットに来る為に、2本の棒に掴まって自力で上がって来た位だ。
「G−5号、射程距離に入ってくれ」
ジョーは竜に向けて言葉を発した。
「よっしゃ!」
竜が操縦桿を操作した。
再びミサイル攻撃が始まったが、彼は巧みな操縦で避けた。
王子と長官、南部博士は座席に着いてベルトを締めていたが、SPの2人は床に転がった。
「みんな、しっかり掴まってろよ!」
「エースにビート、怪我はないか?」
ジョーが振り向かずに訊いた。
2人共、大丈夫だと返して来た。
上手く受身を取ったようだ。
「発射のタイミングは俺に任せろ」
「解った」
健が答えた。
一瞬骨折により意識が混濁し掛けたが、ジョーは意志の力でそれを戻した。
タイミングを計って発射ボタンを押す。
どこを狙えば効果的なのかは、チャーター機に乗っていた時に既に見抜いていた。
バードミサイルは効果的に爆発を起こし、敵の飛行空母は明け方の空に砕け散って、海の藻屑と化した。

「G−1号、調査の結果はどうかね?」
南部が平静に戻って訊いた。
「エリアン国は既にギャラクターの手に落ちています。
 国民は無理矢理に隊員に組み込まれ、まるで昔の徴兵制度のように若い男性が連れ去られています」
「国民の人達は基地内で強引に訓練を受けさせられているよ」
甚平も言った。
「国王は常にベルク・カッツェと行動を共にしています。
 膨大な石炭をギャラクターに提供し、それを燃料としたメカ鉄獣を考案しているようです」
ジュンも続いた。
「国王は催眠術に掛けられているかもしれないなぁ。
 何だかおかしな眼をしておったわい」
竜が最後に告げた。
「ベルク・カッツェめ。何故今更この時代に石炭なんだ?」
ジョーが肘を骨折している事を忘れて、左掌を右拳で叩き、痛みに顔を顰(しか)めた。
「今の技術では石炭をガス化する事も可能だ。
 火の鳥を破る策を考えているのかもしれん」
「では、また火喰い竜のようなメカを?」
健が振り返った。
「どちらにせよ、こっちには部外者もいる。火の鳥にはなれねぇよ。
 G−1号、これは敵基地に乗り込んで白兵戦に持ち込むしか手がねぇだろう?
 おめぇ達、基地は突き止めているんだろ?」
「ああ。G−2号、行けるか?」
「当たりめぇだ!」
「よし、解った。……王子、お願いがあります。
 我々と一緒に行っては下さいませんか?」
健が遠慮がちな口調だが、強い眼で訊ねた。
「あなたのお父様、国王を救い出さなければなりません。
 それにはあなたの説得が必要です」
「解っている。同行しよう。そのつもりで帰って来たのだ」
王子は安全ベルトを外して立ち上がった。
SPの2人も同行しようとしたが、それは健がやんわりと断った。
「お2人は此処で待機していて下さい。
 G−5号は此処で留守番を頼む。連絡をしたら体当たりで突っ込んで来てくれ」
「ラジャー!」
健、ジョー、ジュン、甚平と、王子がトップドームへと出た。
ゴッドフェニックスは超低空飛行になり、王子の左側をジョーが、右側を健が支えて、跳躍した。
4人と王子は無事に地上へと舞い降りた。




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