『憂国の末(5)』

科学忍者隊の4人と王子は敵基地の前に降り立った。
巨大な洞窟がその入口になっている。
「王子は俺に着いて来て下さい」
健が告げた。
「いや、それは俺の役目だ」
ジョーが口を挟んだが、
「G−2号は負傷している。王子は俺が守る。いいな」
健の揺るがない強い瞳を見て、ジョーは頷くしかなかった。
「解った。俺は援護に回る」
ジョーはそう言って二の腕を固定していたベルトをあっさりと外し、他のメンバーを驚かせた。
「怪我をしている事をわざわざ敵に知らせてやる事はねぇ。弱点になる」
彼が不敵な笑みを見せたので、全員が安心した。
「いいか、G−3号、G−4号は国民の救助、俺とG−2号は国王とベルク・カッツェを探し、国民の避難が完了次第爆弾を仕掛けて脱出する」
健が今後の手筈を指示した。
「よし、行くぞ!」
「ラジャー!」
科学忍者隊は素早く二手に別れた。
「G−2号、痛みは大丈夫か?」
「何のこれしき。大した事ぁねぇよ。それより王子を頼んだぜ」
「ああ、解っている。王子、行きますよ」
「宜しく頼む。私は格闘経験がないので、足を引っ張る事になるかもしれない」
「王子、このG−1号・ガッチャマンは科学忍者隊のリーダーです。
 彼を信じていて下さい」
ジョーが口添えをした。
間もなく行く手を遮るギャラクターの隊員がぞろぞろとマシンガンを手に現われた。
健は王子を背に庇う。
「G−2号、王子を守るのが優先だ。離れるなよ」
「解ってるって!」
そう答えながら、ジョーは跳躍して、敵の鳩尾に長い足でキックを入れ、回転しながらエアガンの三日月型キットを発射した。
タタタタタタン!と小気味良い音がして、敵が一気に崩れ落ちた。
その間に健も、格闘を演じながら「バードラン!」と叫んでブーメランを巧みに操る。
ジョーは羽根手裏剣も出して、的確に敵兵を仕留めて行く。
王子は2人の鮮やかな手腕にただただ驚いていた。
『G−2号』だけではなく、『G−1号』もなかなか凄い。
この2人が同等の能力を有する事は、素人の王子にも良く解った。
他のメンバーもこれだけ闘えるのか、と思うと、王子は科学忍者隊の存在を心強く思った。
科学忍者隊の2トップに守られている王子は、大船に乗っているようなものだ。
3人は少しずつ敵を切り拓いて、前へ進んで行った。
健とジョーのコンビは相変わらず磐石だ。
ジョーは傷を負っているとは思えない程の活躍を見せた。
骨折したのが左の二の腕だったのは、不幸中の幸いだ。
足にでも負傷していたら、これ程までには働けないだろう。
ジョーは後方から来る敵に注意しながら、王子の背中を守っていた。

やがて通路が途絶え、大広間のような場所に出た。
「G−1号、気をつけろ!罠が張られているかもしれねぇ!」
ジョーがそう言った刹那、上方からビーム砲が降って来た。
ジョーがエアガンを、健がブーメランを同時に使用し、2基の発射装置を仕留めたが、まだ発射装置が1基残っていた。
「王子!危ないっ!」
健が王子を庇って床に倒れ、肩に被弾した。
マントがあったので、傷は受けていないが、ビーム砲には身体中が痺れる効果があったらしい。
「G−1号、しっかりしろっ!」
ジョーが残りの1基をエアガンで叩いてから、健を揺り起こす。
「大丈夫だ…。身体が痺れる光線だったらしい……。
 暫くすれば痺れは取れるだろう」
健は起き上がろうとしたが、身体に力が入らない。
これは大きな戦力ダウンだ。
「こちらG−2号。G−3号、そっちの様子はどうだ?」
『国連軍の応援で、国民の方の脱出が始まっているわ』
「そっちは国連軍に任せられそうか?」
『まだギャラクターの隊員を一掃出来ていないの。何かあったの?』
ブレスレットからは確かに戦闘中の打撃音がしている。
「いや、いい。そっちは頼んだぜ」
『ラジャー』
これで応援を頼む事は出来なくなった。
ジョーは健の身体を右腕だけで部屋の隅に引っ張った。
健を置いて行くより他なかった。
その決断を彼は一瞬でした。
「G−1号、俺は王子を連れて先に進む。痺れが取れたらすぐに追って来てくれ。
 敵兵のお出ましがないといいんだが……」
「済まない…。俺の心配は無用だ。すぐに行く」
「待ってるぜ」
ジョーは王子に目配せすると、その部屋を脱出して、別の通路へと足を進めた。

健が戦線を一時離脱して、ジョーは1人で王子を守りながら先へと進まなければならなくなった。
後から後から敵は現われる。
骨折による意識障害は今はそれ程酷くはなかった。
闘いの中に在ると言う緊張感がそう言った感覚を麻痺させているのだろう。
痛みを感じる事はあったが、彼は右腕と両足だけで充分過ぎる程の闘い振りを見せた。
長い足で敵兵の足払いをし、エアガンでその身体を吹き飛ばし、羽根手裏剣で敵の喉笛やマシンガンを貫いて行く。
その速さは王子には全く見切れなかった。
ジョーは着かず離れず王子の元にいるのだが、一瞬の内にパッと消え去り、また王子の元にスッと戻っている。
その素早さは信じられない程だった。
王子には人間業とは思えなかった。
だが、紛れもなく、科学忍者隊は『人間』なのだ。
王子はその事実にただただ驚愕するしかなかった。
「王子、行きますよ!走れますか?」
「あ、ああ…」
王子は正直な処、足が縺れて走れないような状況だったが、負傷している『G−2号』のお荷物にだけはなりたくなかった。
ぐっと腹に力を入れて走り出す。
「王子、もう少しの辛抱ですよ」
ジョーは余裕で走りながら王子を励ました。
そうしながらも、走るスピードを落とさないまま通路のカーブの影から狙っていた敵兵を羽根手裏剣で斃した。
敵を見切る能力には人並み外れたものがあった。
1人の敵を倒している間に次の攻撃目標を定めているジョーの動きには全く無駄がなかった。
潜んでいた5人の敵兵を倒すと、ジョーは走るのを止めた。
王子に向かって、唇の前に人差し指を立てて見せた。
音を立てるな、と動作で示して、ジョーは五感を研ぎ澄まし、聞き耳を立てた。
普段から針の落ちる音まで聞き分けられるように訓練している。
(近いな…)
ジョーは慎重に歩を進めた。
王子にはその場に留まるように合図をした。
1つの大きな扉が眼の前に現われた。
機械音がする中、ジョーはベルク・カッツェの癇に障る声を聞き分けていた。
「馬鹿者!科学忍者隊の小僧ども如きにまたしても苦戦しておるのか?
 早く王子を捕まえろ!」
ジョーが眼で王子を呼んだ。
「ベルク・カッツェはこの部屋にいますよ、王子。恐らくは国王も……」
彼は鋭い眼で王子の眼を射抜いた。
覚悟は出来ているか?とその眼は訊いている。
「私なら大丈夫だ。さあ、行こう」
王子が静かに答えた。
「こちらG−2号!G−1号、応答してくれ!」
『こちらG−1号!今、追っている』
「カッツェの司令室を発見したぞ。今から王子と共に突入する。
 この電波を追って来てくれ!」
プレスレットからは健が敵兵を追い払っている物音が聞こえていた。
『解った!G−3号、G−4号の方は国民を避難させ、爆弾の仕掛けに掛かっている。
 それ程時間は無いぞ!俺もすぐに行く!』
「ラジャー!」
ジョーは意を決したように王子の顔を見ると、そのドアに右肩から体当たりをして、転がり込んだ。
左腕が悲鳴を上げた。
「はははははは。飛んで火にいる夏の虫とはまさにこの事だ。
 科学忍者隊の餓鬼と王子が自分からやって来たか!」
カッツェの高笑いが鼻についた。
「くそっ!てめぇ、国王を催眠術に掛けたか?」
カッツェの横には死んだような眼をした国王が立っていた。
いざとなったら人質にされるに違いない。
ジョーは警戒した。
「科学忍者隊G−2号、コンドルのジョーよ。1人で来るとはいい度胸だな」
「ああ、貴様とは度胸の出来が違うぜ」
「何だとぅ?」
「聞こえなかったか?おめぇとは肝の据わり方が違うと言っているのさ!
 それに科学忍者隊はある時は5つ、ある時は1つ、だ。
 なあ、ガッチャマン!」
ジョーがニヤリと笑うと、その後を健が引き継いだ。
「実体を見せずに忍び寄る白い影。その名を科学忍者隊ガッチャマン!」
何時の間にやら追いついていたのだが、ジョーはそれに気付いたが他の者は誰も気付いてはいなかった。
健は一躍跳躍して来て、ジョーと背中合わせになった。
「ジョー、遅れてすまなかったな」
カッツェが彼を『コンドルのジョー』と呼んだので、健はジョーをコードナンバーで呼ぶのをやめたようだ。
「痺れは取れたか?」
「ああ、もう大丈夫だ」
「そいつは心強いぜ。見ろ、あの国王の死んだような眼を。
 完全に催眠術で操られている。何とかしてあの催眠を破らねぇと……」
「何かのショックを与えれば破れるかもしれんぞ。
 最悪は気絶させてでも博士の元に連れて行き、博士に診て貰う事にしよう」
「ああ……」
2人の間で方針が固まった。
折角王子に来て貰ったが、恐らくあの状態では説得は効かないだろう。
だが、王子は国王の元に走り出た。
ジョーがすかさず王子の後ろに跳躍した。




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