『血液蒸発大作戦』

「健、こりゃあ…ひでぇぜ……」
さすがのジョーもその惨状に言葉を濁した。
ギャラクターによる大量殺戮。
現地に降り立ったジョーはゴッドフェニックスに残っている健に惨状を報告している処だった。
ギャラクターの策略によって、人々は一瞬の内に血液を蒸発させられ、その肉体を萎ませてまるでミイラのような姿で息絶えていた。
健には直視出来まい、とジョーは思った。
他の4人をゴッドフェニックスに残して来たのは正解だったと言える。
(こんな恐ろしい物を直視するのは俺だけでいい……)
ジョーは仲間達の気持ちを慮ったのだった。
(俺達はいつまでギャラクターとイタチごっこをしていればいいんだ?
 このまま奴らに人類を皆殺しされちまうぞ!
 俺のような子供がまた増えるだけだ!……くそぅ!)
ジョーは横倒しになって転がっている車に思わず鉄拳を喰らわせた。
そのパンチで車が完全に裏返しになった。
その時、彼は妙な物を見た。
『ジョー!どうした?早くゴッドフェニックスに戻れ!』
ブレスレットから健の声が聞こえて来た。
「いや、待ってくれ!妙な物を発見した!採取して南部博士に調べて貰う必要があるぜ!」
『妙な物?』
「アメーバーのような動く物体だ。これには何か秘密があるに違ぇねぇ。
 人間の血液を一瞬にして蒸発させる何かが……」
『ジョー、危険だ。お前もやられるぞ!』
健の声からその必死さが伝わって来る。
「解ってらぁ!しかし、このままにしておく訳には行かねぇ!人々の生命が掛かってるんだ!
 おい、竜!保管ボックスを投下してくれ!」
『解ったぞい!』
竜の答えが返って来た。
ゴッドフェニックスが近くまで下降して来て、仰々しく頑丈に出来ている保管ボックスが下ろされて来た。
ジョーは保管ボックスを開けると、エアガンでその不気味な物体を絡め取る事を試みた。
ワイヤーを使い物体を掬い取ると、エアガンごとボックスに投げ込み、素早く蓋をし、鍵をロックした。
「よし、G−2号機を回収してくれ!」
ジョーはそう言いながら、ボックスを持って軽々とG−2号機に乗り込んだ。
『ほい来た!』
竜の明快な返事があった。

ゴッドフェニックスの前部にG−2号機が格納されると、ジョーは自分の腕力のみでコックピットまで上がって行かなければならない。
ボックスを両脚で器用に抱え、コックピットに向かって行く。
途中で視界がぼやけて来た。
(くそぅ!俺もやられ掛けたようだ…)
力尽きそうになった処で漸くコックピットに辿り着いた。
辛うじてボックスは落とさずに済んだ。
しかし、ジョーの力はそこで尽きた。
そのまま意識を失ってしまう。
「ジョー!!」
4人が口々に叫んだ。
「ジョーは直接はこの物体に触っていない筈だ…。それなのに此処まで弱ってしまうとは…」
健が唇を噛んだ。
「とにかくこのボックスは隔離した方が良さそうよ。二重にもっと大きなボックスに格納しましょう」
ジュンが提案し、すぐに準備を始めた。
その間に健はジョーの身体を抱き上げると彼の指定席であるレーダーの前の席に座らせ、シートベルトを締めた。
ジョーは完全に意識を失っている。
身体が熱い。
だらんと全身の力が抜けてしまっている。
見た処、外傷は見当たらないが、血色が異常に悪い。
「竜!最大出力で至急基地に戻ってくれ!」
健は竜に指示を出すと、南部博士に交信して、これまでの状況を説明した。
『解った。速やかにジョーを医師に診せるように手配しておく。
 私も謎の物体の解析に全力を尽くす。とにかく急いでくれたまえ』
「ラジャー!」

南部博士は彼のブレーンと共に、ボックスを隔離室に持ち込み、ガラス越しに解析を始めていた。
その間にジョーは医師の診断を受ける。
意識は未だに戻っていない。
血液検査によって異常な所見が見られる事が解った。
「白血球の数値が危険な状態まで異常に下がっています。
 彼の普段のメディカルチェックの結果から見ても、明らかに何らかの力が加えられた事で白血球が異常に減少したと考えられます。
 この事は既に南部博士には報告済みです」
「…で、ジョーの容態は?」
健が一番気に掛かる事を訊いた。
「白血球が異常に減少している事で様々な感染症に罹る危険性が非常に高いのが現状です。
 現在は40度を超える発熱があるに留まっていますが、それは彼の身体が鍛え上げられているからとしか言いようがありません。
 直接物体に触れていない事も幸いしたと言えるでしょう。
 暫くは無菌室に入って貰って治療をする事になります。
 治療法は確立していますので、安心して下さい」
.忍者隊の一同はホッと溜息をつく。
「白血球が異常に減る、と言うのは、何か南部博士の解析に役立ちそうだな?」
健が呟いた。
「そうね。ジョーが身を以ってそれを報(しら)せてくれているのだわ」
ジュンも同意した。
「ジョーの兄貴、大丈夫かなぁ?」
「大丈夫さ。ジョーは危険な任務を自ら買って出てくれたんだ。
 解決方法が見つかり次第俺達4人で片付けるんだ!みんな、いいな?」
健が決意を秘めた青い瞳で、ガラスの向こうで眠っているジョーを見つめた。

南部博士が謎の物体を壊滅させる方法を見つけるまでに15時間を要してしまった。
その間にも多数の犠牲者が出ていた。
科学忍者隊はそれを歯噛みして見ている他なかったのだ。
博士の分析の結果、謎の物体は酸性雨に弱い事が解った。
大至急ISOでは酸性雨を人工的に降らせる為の噴霧装置を開発した。
ゴッドフェニックスとレッドインパルス3機にそれを取り付け、国連軍もそれに加わって各地に酸性雨を降らせる事になり、各々が出動した。
『まずこの謎の物体は白血球から冒し始め、赤血球をも蒸発させてしまう不思議な力を持っていた。
 ジョーが初期症状で済んだのは、バードスーツを着ていた事と、身体が鍛えられていた為に一般の人々よりも抵抗力があったからなのだ。
 みんな良くやってくれた。すぐに帰還したまえ。ジョーも意識を取り戻した。もう大丈夫だ』
モニターの向こうの南部博士が、通信を切る前に微笑したのが見えた。
長い解析と作戦の履行による緊張から解放されたのと、ジョーが回復の気配を見せた事で、南部もホッと胸を撫で下ろしたのだろう。
「ジョーも無事で本当に良かったのう!」
竜が心からの笑顔を見せる。
「そうだな…。今回は危険な任務をジョー1人に任せる事になってしまった…」
健が呟くと、ブレスレットから聞き慣れた声が流れて来た。
『おめぇのせいじゃねぇ。俺が志願したんだぜ!』
それは思いの外元気なジョーの声だった。




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