『叱責』

「甘いぜ、健。おめぇは生ぬるいんだよ。
 真っ直ぐに生きて来たおめぇには難しい事かもしれねぇがよ。
 おめぇは人を信じ過ぎるんだ。
 疑って掛かる位じゃねぇと、自分の身に危険が及ぶって事を忘れるな。
 俺ぐらいに斜に構えて物事を見てみるがいい。
 おめぇにはその位で丁度いい」
ゴッドフェニックス内ではジョーが健に喰って掛かっていた。
任務の最中に健はその優しさから相手に情けを掛けてしくじる事がある。
ジョーはその事を言っていた。
一触触発のムードかと思いきや、そうでもない。
健は拳を握り締めてはいたが、黙って聞いていたからだ。
ジュンは正直な処ハラハラしていたが、ジョーの言う事にも一理あると思い、静観していた。
今日の任務でまたそう言った場面があり、ジョーの羽根手裏剣で救われた健だった。
勿論、ジョーに助けられるまでもなく、健は敵の攻撃を避けられただろうが、ピンチに陥っていた事は間違いがなかった。
敵は被害者面して科学忍者隊の前に現われたのだ。
ジョーは最初から臭いと思っていたが、健は友好的な眼で相手を見ていた。
その為に事件は起こった。
「敵は科学忍者隊を誘き出して俺達を罠に掛ける作戦だったんだぞ。
 こんな事に一々引っ掛かっていたら、俺達はいくつ生命があっても足りねぇぜ。
 おめぇはリーダーとして俺達を纏めている立場だ。
 少し冷静になれ、と言っている」
「まあまあ、ジョー。もうそこら辺りでいいだわさ。
 おら達は全員無事だったんだし」
ジュンではなく、竜が口を出した。
「何だと!?」
ジョーは竜の胸倉を掴み掛けたが、操縦中だったのを思い出して、寸での処で思い止(とど)まった。
「俺達の任務は結果オーライじゃねぇ。
 任務を果たして帰還し、南部博士に報告するまでが任務だ」
「何じゃ?お前さんだって、すぐに熱くなるってぇのに。
 何だか今日はジョーと健の立場が逆になってるぞい」
竜がブツブツと呟いた。
甚平は怯えてジュンにしがみ付いている。
年上2人組、2トップが遣り合っているのだ。
とは言え、がなり立てているのは片方だけなのだが……。
「みんな。今回の事は全くジョーの言う通りなんだ。
 俺には返す言葉もない。だから黙って聞いていた。
 ジョーでも正論を吐く事があるんだな、と少し驚いていた処だ」
健が漸く口を開いた。
「何だと!一言多いぜ」
ジョーはプンプンとまだ怒っている。
「ジョーの叱責はリーダーとして重く受け止めた。
 確かに俺は甘いかもしれない。
 ただ、どうしても人を信じたくなってしまうんだ」
「健…。ジョーだって本当はそうなのよ。それは解って上げましょう。
 こんなにきつい事を言っているけど、本当はあなたの身を思って言っているのよ」
ジュンが2人の間に入った。
「ジュン、余計な事は言わねぇでいい!」
ジョーが大声を出したが、ジュンはへこたれなかった。
「だってあなたは健の事を『仕方なく助けた』訳じゃないでしょ?」
「むっ……」
ジョーは言葉に詰まった。
あの時はこんな具合だった。

アイマール国でギャラクターによる大量虐殺事件が起きたとの南部博士の調査命令で彼らは出動した。
ゴッドフェニックスで降りると酷い状態だった。
健とジョー、ジュンと甚平、竜の2組に別れて調査を開始した。
健が生存者を発見したのは、それから30分程経った時の事だった。
「ジョー。生存者だ!」
僅かに「ううっ…」と唸って、右手を痙攣させている人物がいた。
ジョーも健の言葉に振り返ったが、彼は不審に思った。
虐殺されている人々は有毒ガスで遣られている。
マスクも何もないのに、この人物だけ何故無事だったのか?
ジョーは最初から罠ではないかと疑って掛かっていた。
だから用心した。
鋭い眼で辺りを俯瞰した。
人の気配を感じ取ろうとしたのである。
そして健の肩を叩いて、近づくのを止めようとしたが、健はそのままスタスタと近づき、「大丈夫ですか?」とその男を抱き起こしていた。
生き残りから手掛かりを得ようとしていたのだ。
その行為自体は良く解る。
だが、少しは警戒しろよ!とジョーは思い、歩いて近づく風を見せながら角度を変えて、その男を見ようとした。
まさにその時、男は手甲から刃を突き出し、健の喉を掻き切ろうとしていたのだ。
ジョーはすぐさま鋭く羽根手裏剣を2枚飛ばし、1枚はその手首を、もう1枚は敵の喉笛を貫いた。
もう少しジョーの反応が遅かったら、健は首を掻き切られていたに違いない。
辛うじて避けられたとしても、多少の傷は負っただろう。
その後、やはり気配を消していた敵兵がやおら現われ、白兵戦になった。
健がやられていたら、ジョーも1人でこの場を打破しなければならない処だった。
危機一髪の処を2人は切り抜けた。
その後有毒ガスを採取し、データを博士に送った処、ガスの中和剤が解り、レッドインパルスがそれを撒きに出動し、ゴッドフェニックスは原因となる有毒ガスを撒き散らしたメカ鉄獣をバードミサイルで撃破したのであった。

「ジョーに叱責されても仕方がない。俺が油断をしていた」
「解りゃあいいんだよ。俺の言いたい事はもう済んだ。
 いつもおめぇに説教されてばかりだが、たまには逆の立場ってのも気分がいいもんだな」
「何だよ、ジョーの兄貴、まさかそれで騒いでいた訳?」
「馬鹿!そんな事があるか!こんな重大な事を冗談で片付けるな」
ジョーは甚平の頭に軽く拳骨を落とした。
「甚平」
ジュンが窘めた。
「ジョーが言っていた事は確かに私達にとっては重要な事よ。
 健は私達のリーダーなんだから、そう簡単に生命を落として貰っては困るのよ。
 解るでしょ?」
「うん…。解るよ、お姉ちゃん」
「よっしゃ、もうすぐ海中に潜るぞいっ」
竜がのんびりとした声で周知し、何となくその場が和んだ。

ジョーは本気で怒っていたのだ。
だが、それは科学忍者隊のリーダーとしてもっと自覚をして欲しいと言う思いからで、健が納得してくれればいつまでもそれをねちねちと言うつもりは全くなかった。
南部博士に任務の報告を済ませると、ジョーはカラリとして、「健、コーヒーでも飲みに行こうぜ」と誘いを掛けた。
「ああ…、そうだな。でも、ジュンの店以外は付き合えない」
健は苦笑して答えた。
「オケラのリーダー様にはツケが効く場所じゃないと敷居も跨げねぇってか?」
ジョーは笑った。
「お前、『敷居』なんて言葉良く知っているな」
健は不思議に思う事がある。
ジョーは日本の言葉を良く知っている。
この10年足らずでことわざまで口走るようになったのだから恐れ入る。
「別におかしくねぇだろ、10年もいるんだからよ」
ジョーは小首を傾げて、「おい、行くのか行かねぇのか?」と言った。
「郊外に小洒落たカフェテラスが出来た。
 1度行ってみたいと思っていたから、付き合うんなら奢ってやる」
健はジョーに全くさっきの蟠(わだかま)りがない事を見て取った。
「ああ、行くとも!」
オケラのリーダーはニヤリと笑って、ジョーの後ろを着いて来るのだった。




inserted by FC2 system