『特殊電波(2)』

ゴッドフェニックスを経由してジョーが撮影した写真は南部博士の元へと送られた。
ジョーは更に情報を求めて偵察を続ける。
スピーカー型メカは、そのスピーカーと見える部分から特殊電波を出しているらしい。
今、ジョーのヘルメットは南部の措置により、その電波を感じないようになっているが、G−2号機の計器が盛んに針を揺らしている。
「竜!ゴッドフェニックスの精密機器がやられる可能性がある。もっと上昇するんだ!」
ジョーは竜に呼び掛けた。
「解ったが、ジョー、そっちも危ないんでねぇの?」
「ああ、もう遅いようだ……」
G−2号機は完全に制御不能となった。
南部を始めとした全員が精密機器への影響を考えなかったのだ。
全く迂闊だったとしか言いようがない。
G−2号機は意志とは関係なく、空中に浮かんだ。
「健!どうやら俺はG−2号機毎奴の体内に取り込まれそうだ!」
ジョーはブレスレットに向かって叫んだ。
『何!?脱出出来ないのか?』
「出来ねぇ。それにG−2号機だけ敵に取られる訳にも行かねぇ。
 俺はこのまま内部に取り込まれるしか手がねぇようだぜ」
ジョーは既に覚悟を決めていた。
「こうなったら敵の手の内に入ってやろうじゃねぇか。
 発想の転換だ。潜入する手間が省けたってものだぜ。
 どうにかして中から特殊電波を止めてみよう」
『解った。今、博士が電波の分析をしている。
 充分に気をつけろ。やられるんじゃないぞ!』
「おう、解ってるぜ!
 いいか、弱点があるとすれば、今俺が吸い込まれようとしているスピーカーの穴だ。
 こいつが開いている時は無防備な筈だ。
 いざと言う時は俺に構わず攻撃を仕掛けてくれ。
 超バードミサイルが使えねぇのは痛いがな……」
雑音が入り通信が途切れた。
ジョーはついにG−2号機毎、巨大なスピーカーの腹に空いた大きな穴に吸い込まれた。

気がつくと、ジョーはまだG−2号機のコックピットの中にいた。
多分短い時間だろうが意識を失っていたに違いない。
「うっ……」
ジョーはまた頭痛に頭を抱えた。
だが、今は頭痛に身を窶している時ではない筈だ。
G−2号機の周りをマシンガンを持ったギャラクターの隊員達がぐるりと囲んでいた。
ジョーはコックピットの計器を見た。
「しめた!こいつの中に入った事で計器が正常に戻ったぞ!」
ジョーはコンドルマシンのボタンを優雅に押した。
敵兵は一気に薙ぎ倒され、ジョーはコックピットを開けて外へと飛び出した。
特殊電波を出している装置を早く破壊せねばならない。
これ以上一般市民に無為な殺戮を繰り返させる訳には行かなかった。
大切な者の生命を互いに奪わせるような事は絶対にさせてはならない。
何の罪も無い人々の手を汚させると言う汚い手を使うギャラクターは絶対に赦せなかった。
「貴様ら。汚い手を使いやがって!
 特殊電波の発生装置はどこにある?」
ジョーは1人の隊員の胸倉を掴んで、張り倒した。
そうして、もう1度胸倉を掴み、左腕1本でその身体を高く持ち上げる。
ジョーの膂力はその体躯の細さからは予想も出来ない程強かった。
「もう1度張り倒されたいか?
 今度はその喉笛をこの羽根手裏剣が貫く事になるぜ」
眼の前にチラつかせた羽根手裏剣を、ジョーは別の方向に投げた。
彼を狙っていた隊員が「うっ」と唸って倒れた。
「この俺様を甘く見るな。
 どこから狙って来ても見破ってやる」
その言葉が終わらない内に、眼にも留まらぬスピードで右腰からエアガンを取り出し、自分の後方に居る敵を三日月型のキットで跳ね飛ばしていた。
頭痛と眩暈は時折彼を襲って来ていたが、それを相手に気取られる訳には行かなかった。
ジョーは平静を装って、普段と変わらぬ活躍振りを見せた。
「さあ、言え!死にてぇのか?」
声を凄ませる。
周りの隊員達もたじたじとなっている。
その時、スクリーンの中からベルク・カッツェが現われた。
『馬鹿もん!そんな小僧1人に何をしているのだ?
 貴様ら邪魔だ!どけ!』
カッツェが何かを操作したらしい。
突然上下左右から鉄枷が現われた。
ジョーは跳躍して1度は避けたが、眩暈で一瞬よろけた隙に左腕を取られてしまい、ついに四肢を捉えられてしまった。
「くそぅ……」
ジョーは悔しげに呻いた。
スクリーンの中のカッツェの像が上手く結ばなくなって来ている。
酷い眩暈に襲われたのだ。
『どうしたのかね?コンドルのジョー君。それでは手も足も出まい』
カッツェの嘲笑は痛む頭により響き渡った。
苦痛が更に増した。
『これから死に等しい苦しみを味わわせてやろう。
 どうやらその姿では特殊電波が効かないようだからな』
カッツェが指を鳴らして合図をすると、敵の隊員が壁にあるスイッチを操作した。
「ぐふっ!」
体内に強い電気ショックが流れた。
『ふふふ。これでは動けまい。
 電気鞭で充分に痛めつけてやれ。
 殺しても構わん』
カッツェは哄笑した。
相変わらず癇に障る声だ。
ジョーは何とかこの危機を脱する方法を考えていた。
手足を拘束している枷には長い鎖が付いている。
身体を揺らせば、ある程度近くにいる敵は倒せる筈だ。
電気ショックに巻き込む事も出来るだろう。
考えを巡らせながらも、来たるショックに向けて身構えていた。
身体がショックに備えているかいないかだけでも随分違うものだ。
だが、電気鞭の衝撃は半端なものではなかった。
ビシっ!と1回目の電気鞭が彼の身体を襲った。
鎖から流れる電気ショックの数倍の衝撃があった。
ジョーはその衝撃で血を吐き出す程だった。
カッツェもマントの防御力を解っているのか、ジョーの身体を前方から電気鞭が襲った。
呻き声を漏らさぬよう、ジョーは唇を噛んだ。
それがせめてもの彼の意地だった。
余りに強い電気ショックで頭痛も眩暈も忘れた。
ジョーは弾みを付けて何度も後方に宙返りをした。
彼の身体を拘束している鎖が絡まって、それぞれが電気ショックで干渉し始めた。
ジョーはそのタイミングを狙い、両腕両足を強く自身の身体の方へと引いた。
すると勢い良く鎖が弾け飛んだ。
鎖の破片がジョーに襲い掛かったが、マントで防ぎながら上手く着地した。
そうして、ジョーの身体は自由になった。
『おのれ、やりおったな、コンドルのジョーめ!』
カッツェがスクリーンから姿を消した。
恐らくはメカ鉄獣での一般市民への攻撃を強化するつもりだろう。
ジョーは先程の隊員をもう1度締め上げた。
エアガンを喉元に突きつけている。
「早く制御装置がある部屋に案内しろよ」
ジョーの声は凄みを増した。
電気ショックによる身体へのダメージは大きく、実は消耗もかなり激しく身体に力が入りにくかったが、ジョーはそのような事は億尾にも出さずに、その鋭い眼で先を急がせた。




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