『特殊電波(3)』

ジョーはエアガンの銃口を敵の喉元に当てたまま、先を急がせた。
用心深い彼は、敵の銃を既に奪っている。
周りから襲って来る者があれば、左手で羽根手裏剣を繰り出して阻止していた。
左手でも的確だった。
彼は闘いの最中に右腕が使えなくなる事を想定して、そう言った訓練を密かに積んでいた。
敵兵には仲間を救い出すチャンスを全く与えなかった。
それだけ周囲に気を張っているので、ジョーは疲れていた。
電気ショックのせいか一時的に頭痛や眩暈が収まっているが、身体は痺れ、とにかく鉛のように重い。
だが、それを相手に気取らせる事なく、ジョーは早足で敵兵を急かすようにしながら歩いた。
鍛え上げられている身体だからこそ出来る芸当だった。
敵兵はその間一言も喋らなかったが、ある部屋でそろりと腕を上げ、ドアを指差した。
ジョーは罠ではないか、と疑って掛かったので、その敵兵の後ろに身を隠し、先に部屋へと入らせた。
どうやら嘘ではなかったらしい。
そこはまさに司令室であり、特殊電波を操っている場所でもあった。
健には「俺に構わず攻撃してくれ」と言ったが、今の状態では近づく事も出来ないに違いない。
ジョーはとにかく装置を破壊する事にした。
「特殊電波を出している装置はどれだ?」
「あ…あそこだ……。中央にある赤いコントロールパネルだ」
隊員が指差した先には大型コンピューターがあった。
ジョーは銃把を敵兵の首筋に振り下ろして眠らせると、真っ直ぐにそのコンピューターへ向かって走った。
「健!こちらG−2号!」
ブレスレットで通信してみるが、やはり連絡は取れない。
メカで近づくと計器がやられる事は竜が話しているとは思うが…。
仲間達がピンチに陥っていないといいが…、と一抹の不安を抱えながら、ジョーは進んだ。
当然司令室にいたギャラクターの隊員達に取り囲まれた。
身体はまだ痺れている。
実はかなりの打撃を受けていた。
だが、気を抜く事は出来なかった。
ジョーは跳躍して闘いを開始した。
その肉体は全身が武器であるとも言える。
彼の長い手足から繰り出すパンチやキックは確実に敵の戦力を削いで行った。
羽根手裏剣が鋭く飛んで行く。
狙いは外さない。
敵兵が喉元を貫かれて倒れて行った。
中にはマシンガンを弾き飛ばされて怖気づいている者もいる。
ジョーはエアガンの三日月型キットで纏めて敵兵を気絶させた。
その直後には別の隊員の鳩尾に重いパンチが決まり、同時に後方の隊員に深々と蹴りが入っていた。
踵をグリグリと回して、それから更に強く蹴って敵兵の身体を弾き飛ばした。
かなりのダメージを与えた筈だから、暫くは起き上がっては来れないだろう。
その次には肩から体当たりを噛まし、敵を突き飛ばし、また別の隊員に羽根手裏剣での攻撃を仕掛けた。
そうして、ジョーは漸くメインコンピューターの前に到達した。
ブーツの踵からリモコン爆弾を取り出す。
それを赤いコントロールパネルに設置すると、高く高く跳躍し、更に反対側の踵から取り出した時限爆弾を天井にセットして華麗に着地し、ジョーは部屋の外に転がり出た。
そこで爆弾のスイッチを押し、マントで身を庇って伏せた。
何故その位置でスイッチを入れたのかと言うと、爆弾の効果を確認する必要があったからだ。
コントロールパネルは無事に破壊する事が出来た。
此処までの仕事をすれば、充分だ。
「こちらG−2号。健、聞こえるか?」
案の定、通信は通じた。
『ジョー、大丈夫か?』
「少々電気ショックで痛め付けられた。痺れて身体が動かねぇ。
 だが、コントロールパネルを破壊したから、もう人々を惑わす特殊電波は出ない筈だ…」
『ジョー。今、迎えに行く』
「俺に構うな。G−2号機の所まで戻れば自力で脱出出来る。
 もう1つ時限爆弾も仕掛けてあるから、5分後には爆発する。
 そうすれば、こいつの動きは完全に停まる筈だ。
 それまで絶対に中には入って来るな!」
『ジョー!』
「俺はコンドルのジョー様だぜ。絶対に戻ると言ったら戻る!」
ジョーはそこで通信を切った。
実際の処、リモコン爆弾を仕掛けて此処に倒れ込んだ時から身体に力が入らなくなっていた。
眩暈も復活して来た。
だが、そんな姿を健達には見せたくなかった。
ジョーは床を這った。
残された力で必死に這い蹲り、G−2号機へと向かった。
G−2号機は悠然と彼を待っている。
彼が戻って来る事を信じて、待っていた。
また今夜あの丘に連れて行ってくれる筈だ。
それを思うと、力が漲って来るような気がした。
ジョーは手足に力を込めて、立ち上がった。
よろよろするが、立つ事は出来た。
よろめいて壁にぶつかりながら、彼は前へ前へと進んで行った。
やがて進入口の付近に着いて、G−2号機の姿がゆうらりと見えて来た。
(待っていてくれたな…。今行くぜ…)
ジョーはそう心で呟いたが、急に眼の前が眩くなり、力尽きてパタリと倒れた。
その彼を抱き起こした者がいた。
「ジョー、しっかりしろ!」
健だった。
ジョーはすぐに意識を取り戻した。
「馬鹿野郎!来るなと言った筈だろう?」
「電気ショックで酷くダメージを受けているじゃないか?動けるか?」
「ふん。此処まで来たんだ。大丈夫さ」
健は単身乗り込んで来たらしい。
「良く入って来れたな」
「ああ、意図的に吸い込まれた」
「全く危険を顧みねぇ奴だ…」
ジョーは呆れたが、とにかく今は脱出が先だ。
力を振り絞って起き上がった。
「おめえ、どうやって逃げ出すつもりだ?
 吸収はされたが、簡単に排出はしてくれねぇぜ」
「間もなく竜がゴッドフェニックスで突っ込んで来る。
 俺はトップドームから行くから、お前はオートクリッパーで回収して貰え」
健の言葉が終わるか終わらないかの内に、ゴッドフェニックスが体当たりをして来て、その半身を見せた。
健はすかさず跳躍した。
ジョーもすぐさまG−2号機のコックピットへと乗り込んだ。

やがてメカ鉄獣はジョーが仕掛けた時限爆弾により誘爆を始め、動きを停めたが、完全に破壊するには至らなかった。
「くそぅ。俺が持っていた爆薬では量が少な過ぎたか……」
「とにかくメカが大き過ぎるのよ。ジョーの爆弾では無理だったかもね」
爆弾に詳しいジュンが言った。
「それより、ジョー。休んだ方がいいわ。とにかく席に着いて」
「大丈夫さ、あんな電気ショック位……」
と言った時、胸や腹に、足に、疼痛が走った。
電気鞭でやられた時の痛みが今になって出て来たのだ。
身体のその部分が熱を持って、ジンジンと痛み始めていた。
だが、彼は痛みに強い。
その程度では屈しなかったが、身体がふらついたのは激しく起きた眩暈のせいだった。
「ほら見ろ。やっぱり電気ショックのせいだよ」
甚平が言った。
この際誤解されておく方が得策だとジョーは考えた。
確かに電気ショックによる身体のダメージは大きかった。
「そうかも…しれねぇな……」
と答えて大人しくレーダー席の前に着いた。




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