『故郷は遠きに在りて思うもの』

ジョーは基地内のソファーで長い足を組み、新聞を大きく開いて読んでいた。
「ジョー、その新聞、どこの言葉で書いてあるんだい?おいらが見た事ない字が書いてあるぜ」
甚平が興味を示す。
ジョーが新聞を読んでいる姿など滅多に甚平は見た事がなかったのだ。
「これか?イタリア語だよ」
「そっかぁ。ジョーの兄貴にはイタリア人の血が入っているんだもんな」
「イタリア人の血の方が濃いのさ。俺には日本人の血は4分の1しか入ってねぇんだ。
 親父がイタリア人と日本人のハーフで、お袋はイタリア人だったからな」
「ふうん…。クウォーターって奴だね。なのに何でジョーは江戸っ子口調なんだろうな。
 南部博士に日本語を教えて貰ったのなら、もうちょっと行儀のいい言葉を話しそうなもんだけどな」
「こいつぅ…」
ジョーは甚平の額をピンと指で弾いた。
「南部博士は当時から多忙だったから、ジョーには専門の教師が付いた筈なんだが…」
健が話に入って来た。
生粋の日本人の健とは違い、当時のジョーは日本の言葉を学ぶのに苦労をしたに違いなかった。
「ジョーの奴、その教師の隙を突いて部屋から逃げ出してはサーキット場に出入りしていたからな」
「その頃から1人で抜け駆けするのが得意だったんかい?」
竜が呆れたような声を出す。
「子供の頃から身軽だったんだな、とか言っとけよ!」
ジョーは邪魔が入ったので、新聞を折り畳んだ。
「何か気になる記事でもあったのか?」
健が眉を顰(ひそ)める。
「いや。BC島が平和を取り戻しつつあるって記事だ。
 島の人々が立ち上がって、脱ギャラクターを計っている。昔のように花が咲き始めたとよ」
ジョーがボソっと答えたが、BC島の話題はそれ以上は続けて欲しくなさそうだった。
「良かったな…」
健はポンっとジョーの肩を軽く叩き、それ以上の事は言わなかった。
ジュン、竜、甚平も空気を読んでその話については話を続ける事を遠慮したようだ。
「それじゃあ、その江戸っ子言葉はサーキット場の仲間達から自然に吸収したのね」
ジュンが話題を元に戻した。
「かもな」
ジョーはぞんざいに答えた。
「ジョーには、悪い仲間もいたしな」
と健が付け加えた。
健は笑い話にしてしまおうとしたのだが、ジョーはそれを知ってか知らずか、新聞をソファーに投げ出すと、窓の方へと歩いた。
三日月基地の外は魚の群れが泳ぐ平和な海の風景だ。
しかし、ジョーが観ていたのは魚の群れではなく、故郷の花咲く景色に違いない。
健はふとそんな事を思った。
(お前がまた自由に出入り出来る故郷に戻ってくれるといいな。
 お前の存在を温かく迎え入れてくれる場所にする為にも俺達は全力でギャラクターを壊滅させなければならない…)
健は寂しげなジョーの背中を見ながら、そう決意を新たにするのであった。

ジョーにとっては距離的な問題以前に余りにも遠い故郷であったが、生まれ育った場所には違いない。
そこには友が居て、今でも彼を待っていてくれるに違いない。
アラン神父の事は彼の心に今も暗い影を落としてはいるが、いつかジョーが笑ってBC島に帰れる日が来る事を、科学忍者隊のメンバーはそれぞれに祈るのであった。




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