『その男、レニック(3)』

やがてレニックが意識を取り戻した。
暫し朦朧としていた様子だったが、すぐにハッキリとして来たのはさすがに軍人だ。
そして、それまでの状況をマカラン少佐に説明され、レニックは顔色を失った。
だがさすがに隊を束ねるだけの事はある。
彼は気丈さを見せて、すぐに冷静な表情に戻った。
自分がジョーの足を2箇所も撃ったとは信じられなかったが、その右手には新しい硝煙の臭いが沁み付いていた。
拳銃を発射した事は明らかだった。
「私にジョーを傷つけさせるとは、ギャラクターめ、許せん!」
レニックの身体から怒りの炎が迸った。
「そう気にするこたぁねぇ。俺は闘える…」
壁に寄り掛かって、出血の為に行きつ戻りつする意識を強い意志で引き戻したジョーがそう言った。
「これから科学忍者隊がやって来る。
 俺はその隙にカッツェが持っている電波発信器を破壊するつもりだ。
 そうすればあなた達はもう操られずに済むだろう。
 催眠を完全に解く術は後で南部博士に考えて貰えばいい。
 とにかく軍隊のメンバーで射撃選手達を守って無事に逃げ出して欲しい」
「君はどうする気だ?ジョー」
レニックがジョーの足を見下ろしながら言った。
止血はしてあるものの、傷口からは血が染み出ており、床を赤く濡らしていた。
「俺は様々な訓練を受けている。
 片足を痛めたからと言って闘えなくなる事はねぇ…」
ジョーは強気の発言をした。
「だが、あなたの助けが必要だ。レニック中佐」
「私は勿論君を助け出すつもりでいる。
 こんな眼に遭わせたのは私の迂闊さが原因だ」
「そう言う意味で言っているんじゃねぇ。
 カッツェに一泡吹かせてぇんだ。
 俺に協力して欲しい……」
ジョーは出血の為、息苦しくなり、一息ついた。
「カッツェを斃す。俺の援護を頼みてぇ。あなたなら頼める」
彼は変わった…。
レニックはそれを実感した。
何度か任務で逢ったりしている内に、多少はジョーの方から譲歩して来たのだ。
と、言うよりは打ち解けて来たのかもしれない。
それはジョーがレニックの実力を正確に理解したからだった。
実力があり、1度信頼出来ると感じた人間には、ジョーは心を開くのだ。
「幸い、あなたの部下が軍隊式の止血をしてくれた。
 最悪の事態は免れたようだぜ…」
ジョーは自分の長い足を見下ろした。
「俺は片足でも闘う事が出来る。
 それを実証して見せるから覚えておいてくれ」
貧血状態を引き起こしている筈のジョーが不敵にもニヤリと笑った。
「無理をしては行けない。闘うのは我々がする」
「いや、あなた方を救出するのが俺の任務だった。
 だが、この足ではそれは果たせない。
 その任務はあなたの部下に任せる。
 だから………」
「解った。君の援護は確かに引き受けた。
 今、部下に今後の指示をして来るから待っていたまえ」
レニックはそう言うと、その目線でマカラン少佐達を集めた。
「科学忍者隊が救助に来る。
 お前達は隙を見て、一般の射撃選手達と共に此処を脱出するのだ。
 その際、出来る限り敵の兵士の銃を奪い取る事。
 2人で1人か2人の選手を守る事になるだろう。
 せめて1人は銃器を持っていて欲しい」
「銃器は俺が掻き集めるから任せておけ…」
ジョーが呟くように言った。
「このエアガンで巻き上げてやる」
大腿部の隠しポケットからエアガンを取り出して三日月型のキットを少しだけ引っ張って見せた。
「15時まで後30分だ。心の準備をしておけ」
レニックが締め括った。
30分後、ベルク・カッツェが部下を引き連れて牢獄の前にやって来た。
「さて、訓練の時間だ。此処から出してやる」
ジョーはマカランの手を借りて立ち上がった。
カッツェは例の電波発信器を手にしていた。
まさにそのスイッチを押そうとした時、
「ベルク・カッツェ!」
とジョーが叫んでカッツェの気を引き、その手の中にある電波発信器をエアガンで撃ち抜いて粉々に粉砕した。
これでもう、国連軍選抜射撃部隊と射撃選手達はカッツェに操られる事はない。
カッツェが手を押さえて痛みを堪(こら)えている間に、ジョーは鉄格子の隙間からエアガンのワイヤーで隊員の手にあった鍵を奪い取り、それをマカランに投げる。
マカランが鍵を開けている間、ジョーはエアガンで敵兵を威嚇していた。
そして、敵の銃身の長いライフルを奪い取って、思いっ切りその弾丸を撃ち捲って周囲の敵を薙ぎ倒した。
ジョーは弾丸を撃ち切った後、そのライフルを松葉杖代わりに使って見事に闘い始めるのだった。
そして、倒した敵の銃器を片っ端からエアガンのワイヤーで巻き上げて最初の銃をレニックに放った。
後はレニックの援護を受けながら次々と銃をマカランに放って行った。
人数分とは行かなかったが、銃器は充分に集まった。
「ようし、これで準備は万端だ。そろそろ科学忍者隊が駆けつけるだろう」
ジョーがレニックにニヤリと笑って見せた。
レニックは仁王立ちになり、ジョーから渡されたライフルを掲げた。
「ベルク・カッツェとやら。貴様は絶対に許せん!
 この私に彼を撃たせるとは!
 生きて帰す訳には行かん!」
鬼のレニックとも呼ばれる彼の事をカッツェは知っていた。
「さすがは『鬼のレニック』。凄い殺気だな」
カッツェは嘲笑した。
「だが、生きては帰さん!殺れ!」
カッツェはマントを振り乱して、部下に指示を出した。
だが、レニックはなかなかやる男だった。
的確にギャラクターの隊員達を1発で仕留めて行く。
「鬼のレニック、か…。さすがだ。その面目躍如だぜ!
 だが、俺も負けてはいねぇ!」
ジョーはエアガンのワイヤーを伸ばして、三日月型のキットでカッツェのマスクを剥がそうとした。
マスクにキットが当たった確かな手応えがあった。
キットはその紫のマスクを切り裂いたが、カッツェは手でその顔を覆い、マントで隠すようにしながらその身を翻した。
ジョーには追うだけの力がない。
レニックがライフルでその背中を狙ったが、カッツェのマントも防御力に優れているらしく、その弾丸は跳ね返された。
「くそぅ!科学忍者隊はまだか?」
ジョーがそう忌々しげに呟いた時、健と竜の姿が現われた。
ジュンと甚平はメカ鉄獣と基地の爆破に走ったようだ。
「待ちくたびれたぜ、ガッチャマン!」
ジョーは嬉しそうに叫んだ。




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