『二元戦争(1)』

ジョーはトレーラーハウスの横でG−2号機の整備をしていた。
明日はレースだ。
いつも万全に整備をしているが、今夜は特にきちんと整備しておきたい。
丁寧にエンジンを整備し、洗車も終わった。
一汗掻いてこれから遅い夕食を摂ってシャワーを浴びようと思った時に、スクランブルが掛かった。
『こちら南部。科学忍者隊は至急合体を完了して、G−128地点にて待機せよ』
「ラジャー」
ジョーは明日のレースを断念せざるを得ないかもしれない、と覚悟をした。
悔しいが止むを得ない。
すぐさまG−2号機に乗り込んで出発した。
G−128地点は昼間だった。
ゴッドフェニックスに合体して、コックピットまで腕の力だけで上がって行くと、健が居なかった。
G−1号機は合体している。
垂直尾翼はあった。
一体どうした事か?
「健は何か特殊任務にでも就いたのか?
 良く見たらジュンもいねぇな」
ジョーは竜に呼び掛けた。
「うんだ。
 事前に南部博士からの指示があったらしく、2人はF−286地点で降下して行ったわい」
「F−286地点と言えば国際科学技術庁の地質学研究所か……」
ジョーが呟いた時、南部からの通信が入った。
『諸君。ISOの地質学研究所がギャラクターに襲われ、職員が皆殺しにされた。
 更に今君達がいるG−128地点の前方200kmの地点で、ギャラクターのメカ鉄獣が街を破壊している。
 健とジュンにはGメカを残して、地質学研究所に行って貰った。
 君達はメカ鉄獣を叩いて貰いたい』
「ラジャー!」
「地質学研究所が襲われた事と、街がメカ鉄獣に破壊されている事と何か関係があるんかいのう?」
「あの街、ゼットマーク市には確か地下の奥深くにウラン鉱脈があると聞いた事がある。
 そうですよね?博士」
ジョーがスクリーンを見た。
『ジョー、良く知っていたな。その通りだ。
 恐らくは地質学研究所からデータを盗み出して、あの街を攻撃しているに違いないのだ。
 狙いはウラン鉱脈に間違いない。
 とにかくすぐにメカ鉄獣を倒してくれたまえ。頼んだぞ』
南部がスクリーンから消えた。
「ようし。竜、とにかく接近だ。バードミサイルで仕留めてやる」
「ラジャー」
『こちらG−1号!こっちにはかなり手が掛かりそうだ。
 頼んだぜ、ジョー』
健からの通信が入った。
「ギャラクターの基地でもあるってぇのか?」
『その通りだ。ギャラクターはこの地質学研究所の地下に密かに秘密基地を建造していた』
「解った。こっちが片付いたら、必ず行く」
『ジョー。もしかしたらこの地下基地からゼットマーク市の地下にウラン鉱の運搬通路が作られている可能性もある』
「ああ、それは考えられるな。
 ギャラクターのやりそうな事だ。
 気をつけろよ、健」
『そっちもな』
通信が終わった。
ジョーは竜と甚平に告げた。
「これは二元戦争になるかもしれねぇ。覚悟して掛かれ」
「ラジャー」
「メカ鉄獣を早いとこ片付けて健達の応援に行きてぇ処だが、こっちも苦闘するかもしれねぇな。
 見ろ!あのメカ鉄獣を!」
ジョーが指差したスクリーンの中には、完全なる球体のメカ鉄獣がいた。
「装甲がとんでもなく硬そうだ。バードミサイルでは風穴1つ空けられねぇ。
 狙うとしたら出入り口だが……、どこにも出入り口がねぇな」
「そんな訳はなかろうて。
 奴らだって乗り組む場所がなければ、あいつを動かせねぇわい」
「そうだ。そこを狙ってガトリング砲を撃ち込み、中に潜入するしか手はあるまい。
 恐らくはバードミサイルは弾き飛ばされるぜ」
「ジョー。1人で行く気かいな?」
「いや、甚平。援護してくれ」
「ラジャー」
甚平が嬉々として返事をした。
2人は各自のメカに乗り込む為にコックピットから消えた。

「竜、俺と甚平から敵メカの画像を送る。博士にも転送してくれ」
『解った!』
ジョーはゴッドフェニックスからG−2号機を飛び出させた。
「甚平、しっかりやれ。気をつけろよ」
『おいらに任せとけって。ジョーの兄貴は飛べないんだからさ』
「調子に乗るな。落ち着いて行け」
『解ったよ……』
ジョーは甚平を牽制すると、自分は転がるメカ鉄獣の後ろから走った。
「出入り口発見。回っているから狙いにくいが俺に任せておけ。
 甚平、出入り口を破壊したら、飛び込むぞ!
 竜はすぐに脱出出来るように空で待機を頼むぞ」
『ちぇっ、つまんねぇ』
竜のぼやきが聞こえたが、いつもの事だ。
ジョーはそれを無視して、高台へとG−2号機を走らせ、とにかく回る球体の乗り込み口にガトリング砲を直撃させる事に集中した。
「竜、甚平、敵が俺に気付いて攻撃して来る可能性がある。
 それを援護してくれ」
『ラジャー』
『勿論、解ってるよ、ジョー』
竜と甚平の頼もしい答えが返って来た。
ジョーは敵の回転スピードを計算しながら、ガトリング砲のボタンを優雅に押した。
乗り込み口の扉が完全に破壊され、ガラーン!と大きな音を立てて、舗装された道路の上に落ちた。
「ようし、甚平、行くぜ」
ジョーはG−2号機を急発進させ高台からダイビングした。
まだ回っている敵の球体メカ鉄獣へと出来るだけ近づく事を試みる。
そしてG−2号機を走らせたまま、コックピットを開いた。
そのままジョーはタイミングを計ってブレーキを踏み、回転するメカ鉄獣の穴を目掛けて跳躍した。
甚平もそれに続いた。
2人が乗り込んだ事を確認してメカ鉄獣の気を引いていた竜は空高く離れて行った。

中に入り込むと、回転しているのは外側だけだと言う事が解った。
内側は平行を保たれている。
「これなら思ったよりも闘い易いな。
 行くぜ、甚平。お前は機関室を爆破しろ。
 ジュンがいねぇが大丈夫か?」
「あったりめぇだよ。おいらだって一人前の科学忍者隊だぜ」
甚平が気を悪くしたようにプンプンと怒った。
「まあ、そうカリカリするなって。
 おめぇが頼りになるって事はみんな先刻ご承知さ」
ジョーは甚平を宥めてから、表情を引き締め、
「いいか。くれぐれも気をつけろ。
 危ねぇ事があったら必ず俺に連絡しろ」
「ラジャー!」
2人はそこで別れた。
早速敵兵がそれぞれに襲い掛かって来た。
ジョーは司令室を狙うつもりだった。
球体メカは直径150mはあったが、ジョーにとってはその位の距離は数秒で走れる距離だった。
だが、敵兵がわらわらと出て来るので、前に進むのには思うに任せない。
左手に羽根手裏剣を、右手にエアガンを構えながら、ジョーは進んだ。
時には敵に肘鉄や膝蹴りを与え、長い足で足払いをしたり、重いキックを入れたりしながら、確実に投擲武器で敵を仕留めた。
エアガンのワイヤーと吸盤を使って、敵兵の上を易々と乗り越えて進んだりもした。
(くそぅ。おめえらのせいで明日のレースを諦めなければならないかもしれねぇんだ…。
 思いっ切りやってやるぜ!)
ジョーは跳躍して敵兵にエアガンの三日月型のキットを繰り出し、タタタタタタっと小気味良い音を立てて1度に8人の敵を倒した。
次の瞬間には羽根手裏剣によって、14人が床に倒れていた。
彼の眼の前に現われる敵は、僅かな間彼の足止めをするに留まっていた。
ジョーは逸る気持ちを抑えながら、慎重に前へと進んで行った。
今、このメカ鉄獣には自分と甚平しかいないのだ。
どちらかが遣られたら、勝ち目はない。
ジョーは祈るように甚平の無事を願いながら、全身を武器に縦横無尽に闘って道を切り拓いた。




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