『恐ろしき吸引メカ』

ゴッドフェニックスは谷間に隠し、竜は待機、他の4人はそれぞれバードスタイルで自分のメカに乗り込んで偵察をしていた。
今回の任務はギャラクターによってニュージョーク市民が綺麗さっぱり消えてしまった事件を追う事だ。
建物や地形には全く損傷がないのに、人々の姿だけが全くなく、市内は不気味に沈黙していた。
「こちらG−2号!人っ子1人いやしねぇ!」
ジョーがブレスレットに向かって叫んだ。
『こちらG−3号、こっちも同じよ!』
『こちらG−1号、俺も同様だ』
『こちらG−4号、こっちも誰もいないよ…』
それぞれの声が響いて来た。
『とにかく誰か生き残りが居ないか探すんだ。手掛かりはそれしかない!』
健の指示が飛んだ。
「ラジャー!」
ジョーはステアリングを切って、郊外の山奥へ進む事にした。
暫く走っているとジョーは何かの気配を感じた。
小動物か?
G−2号機を停めて気配を窺っているとどうやら年老いた女性の呻き声のようだった。
「こちらG−2号。生存者確認」
『ジョー、罠だと行かん。くれぐれも気をつけて行動してくれ!』
健が答えた。
「解ってる…」
ジョーは軽々とG−2号機から飛び降りると、そっとエアガンを抜き、警戒しながらも呻き声がする方向へと歩を進めて行く。
木に寄り掛かるようにして、1人のおばあさんが息も絶え絶えな様子でそこにいた。
ジョーはエアガンを仕舞うと、駆け寄った。
「どうしました?しっかりして下さい。何があったんです?」
ジョーは話し掛けながら、彼女の様子を油断なく見る。
攻撃を仕掛けて来る様子はない。
とにかく衰弱しており、精神も錯乱しているような状態だ。
辛うじてジョーの顔を見返したが、その眼が虚ろになっている。
何かを言おうとしたが声が出ない。
呼吸が荒く、脈も弱い。
ジョーは以上の事を健に報告した。
『よし、ISOに連れ帰り治療をして、その人から状況を訊く事にしよう』
「解った!」
ジョーはその老婦人を軽々と抱き上げた。
G−2号機は単座の為、ゴッドフェニックスの迎えを待って、彼女を抱いたままブースにジャンプした。
G−2号機はそのまま竜に回収して貰った。

ISOでは南部がすぐにその老婦人を医師に治療と病状のチェックをさせていた。
「ジョー。彼女が意識を取り戻した。ショック状態に陥っていただけのようだ。
 君と話したいと言っている」
南部が執務室にジョーを呼んでそう言った。
「俺と、ですか?」
ジョーだけではなく、健達も怪訝そうに南部を見返す。
「自分を助けてくれた人に話がしたいそうだ」
「そう言う事ですか…。でもバードスタイルで逢ってますからね…」
ジョーは腕を組んだ。
「まあ、病室の近くでバードスタイルに変身して、訪ねてみますよ」
「うむ、上手く事情を訊き出してくれたまえ」
「ラジャー」
ジョーは病室の前に来ると、周囲を見回して人気がない事を確認し、『バード、GO!』とバードスタイルに変身した。
コンコン。
静かに病室をノックすると、上品そうな老婦人の声がした。
「どうぞ、お入り下さい」
ジョーはそっと病室に入る。
「貴方が私を助けてくれたのですね。その眼を見ればすぐに解りますわ」
「生憎生まれ付き眼つきが悪いもんでね…」
ジョーはベッドの脇に丸椅子を引っ張って来ると、長い足を組んで座った。
「有難う、助けてくれて…」
老婦人はジョーを拝んだ。
「よして下さいよ。俺は任務で…」
「いいえ、貴方は生命の恩人です。
 でも科学忍者隊の方がこんなにお若い方だとは思ってもいませんでしたわ」
老婦人が遠くを見るような眼をした。
「一体何があったと言うのですか?……貴女だけ、なぜ助かったのですか?」
ジョーは出来るだけ急かせないように気をつけながら、静かな声で問い掛けた。
「ニュージョーク市の上空に大きな掃除機のような強い引力を持つお化けがやって来たの。
 私はたまたまあの森にいて、油絵を描いていたので、助かったみたい。
 でも、そのお化けが放つ光で意識を失ってしまったの……」
「そうですか……」
「その後は貴方がご存知の通り、あの場所で貴方に助けられたのよ」
老婦人はジョーの手を取った。
「貴方の暖かい胸がとても居心地が良かったの。息子に抱かれているかのように」
ジョーは狼狽した。
「ごめんなさいね。貴方は私の息子よりもずっとお若いのに……」
老婦人は突然ハラリと涙を流した。
「じゃあ、その息子さんも?」
「市街地に居たので、あの子も消えてしまった事でしょう……」
ジョーは暫く老婦人の手を握り締めてやった。

「どうやら、掃除機のような吸引力を持つ鉄獣メカがニュージョーク市上空に現われた模様です」
ジョーが報告した。
「人間だけがそれに吸い込まれて行った、と…。つまりはまだ生きている可能性が高いと思われます」
「そうか……。何とか救い出さねばならんな……」
南部が腕を組んだ。
「くそぅ!ギャラクターの奴らがどこに市民を監禁しているのか、それさえ解れば……!」
ジョーが右の拳で左手を叩いた。
「その掃除機メカが出現したと思われる時間のニュージョーク市近辺の管制データを調べておいた。これを見たまえ!」
南部の前にスクリーンが下りて来る。
大きな点滅がニュージョーク市の上空を動き回っているのが解る。
「これを時間を巻き戻してみよう」
南部が操作をすると、ある場所でその点滅が消えた。
「ここだ!」
南部がその地点を指差した。
「アルプス山脈の奥深く、D−2地点にギャラクターの基地があると思って間違いあるまい。
 恐らく市民達も此処に監禁されている筈だ。
 君達には基地を叩いて貰いたい。市民の救出はレッドインパルスと国連軍に当たって貰う」
「ラジャー!」
5人が声を合わせ、直ちに出動態勢に入った。

ゴッドフェニックスが基地に体当たりし、科学忍者隊が白兵戦を展開している間に、レッドインパルスが市民の監禁場所を発見し、国連軍と協力して市民らを救出する事に成功した。
科学忍者隊は残っている人達が居ないかを、敵と闘いながら最終確認し、各所に爆弾を仕掛けて撤退した。
こうして、科学忍者隊、レッドインパルス、国連軍の連携により、ニュージョーク市の市民達は無事に救助された。

3ヶ月後、老婦人が30代後半の男性と連れ立ってISOを訪ねて来た。
彼女が言っていた息子だろう。
その彼が大きな薄い板のような紙包みを持っていた。
老婦人はバードスタイルで現われたジョーにそれを自ら開いて見せた。
「貴方を描いたの。良かったら貰ってくれるかしら?」
大きなキャンバスにはほぼ等身大の『コンドルのジョー』が颯爽と立っていた。
力強く頼もしい瞳をしていた。
出逢った場所が森だったせいか、ジョーの背後には緑の木々が生い茂っている様子も描かれていた。
実はこの老婦人はその道で有名な画家だったのである。
風景画を主に描いている為、人物画はそんなに得意じゃないのよ、と上品に微笑った。
同じくバードスタイルで逢いに来ていた健達が覗き込む。
「全く驚いたな…。ジョーに生き写しだ…」
健が呟く。
「ほんと、ジョーにそっくりね…」
「ジョーの兄貴がこの中で生きているみたいだぜ!」
ジュンと甚平が感嘆した。
「うっひゃあ〜!驚いたわ!まるで写真のようじゃわい!」
彼らの反応に微笑みながら、老婦人は言った。
「大変なお仕事ですけれど、どうか平和が訪れたら、平穏な暮らしを……。
 貴方に神のご加護を……」
老婦人はジョーに両手を合わせてから十字を切った。
(俺に平穏な暮らしなんてやって来るのだろうか……?)
ジョーは掠れた声で、「ありがとう。貴女もお元気で」としか言葉が出なかった。

この時の油絵は、後にジョーを失ってから、科学忍者隊の宝物として、いつまでも司令室に飾られるのであった。
平和な日々が訪れてからも、ジョーと会話をしたくなった時に彼らはそこを訪れるようになった。




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