『二元戦争(2)』

鉄獣メカの乗り入れ口から中心部にある司令室までは距離的にはそれ程ではなかった。
いくら敵を切り拓きながらとは言え、ジョーにとってそこまで辿り着くのに時間は要さなかった。
羽根手裏剣を雨あられと降らせながら、的確に敵兵の喉笛を突いて前へと急ぐジョーだった。
敵が面白いようにバタバタと薙ぎ倒されて行き、ジョーの前に自然と道が拓けた。
まるで活劇映画を観るような素早さだが、当然CGではない。
これが人間業だと言うのだから、科学忍者隊の身体能力は驚異的である。
ジョーはやがて司令室の前に到着した。
いざ乗り込もうとした時に竜からの通信が入る。
『ジョー、南部博士からの連絡じゃわい。
 その球体鉄獣には既にウランが積み込まれている可能性があるっちゅう事じゃわ』
「何だって!?
 じゃあ、街中で爆発したら大変な事になるな。
 ようし、解った。
 爆薬を使わずに敵の動きを封じる程度に機器を破壊しろ、と甚平に指示してくれ。
 爆弾を仕掛けたら脱出してこの鉄獣メカを空か海に誘き出す」
『ラジャー!』
「竜、今の内にG−2号機とG−4号機を回収しておいてくれ!」
『解った!』
通信が切れた。
「くそぅ……。
 これでは下手に暴れられねぇな。
 爆弾を使えねぇとなると…。
 仕方がねぇ。ガス弾を使うか……」
ジョーは独り言を言うと、エアガンのキットを交換して、司令室のドアを僅かに開けた。
銃口を司令室の中に突き入れ、引き金を引いてガス弾を上方に向けて撃ち込んだ。
ガス弾は狙い違わず司令室の高い天井へと命中し、ジョーの計算通り一番効果的な位置で催眠ガスを噴出させた。
このガスには殺傷能力はない。
個人差はあるが、2〜3時間程前後不覚に陥る程度のものだ。
このメカ鉄獣を操る連中が全員、バタリと倒れて意識を失ったのを見て取ったジョーは、中に踊り込んだ。
案の定、カッツェが陣頭指揮を執っていた。
ジョーも予測をしていた事だったが、さすがに準備が良いカッツェは携帯用の小型酸素ボンベを口に咥えていた。
「くそぅ……!さすがだな。
 相変わらず自分ばかりちゃっかりしてやがるぜ!」
ジョーは10メートル以上の距離を跳躍して、カッツェの鳩尾に効果的な膝蹴りを入れた。
ベルク・カッツェが溜まらず床に片膝を着いた。
ジョーがカッツェに乗り掛かりまさにそのマスクを剥ごうとした時、ブレスレットに甚平からの通信が入った。
『ジョーの兄貴ィ。面目ない。
 おいら捕まっちまって逃げられないよ。
 でも、機関室の主な装置は破壊したぜ。
 おいらの事は構わねぇからジョーは早く脱出してよ!』
「馬鹿野郎!おめぇを置いて行ける訳がねぇだろう!
 ……カッツェめ、生命拾いをしたな。
 その生命、次に逢う時まで預けといてやる!」
ジョーはカッツェに対する憤怒の心を必死で押し殺し、カッツェを放り出すと、睨みを利かせた捨て台詞を残して踵を返した。
彼はカッツェが気付かぬ内に羽根手裏剣にぶら下げて小型爆弾を仕掛け済みだった。
爆発すると精密機器だけに影響を与える特殊電波が出る仕掛けになっているので、ウランが積み込まれているとしても、それに影響を与える事はない。
さすがにジョーはそこまで考えて行動していた。
それよりも一刻も早く甚平を助け出さなければならない。
此処に長居は無用だった。
この司令室では格闘を演ずる事なく、ジョーはすぐさま甚平が忍び込んだ機関室の方角へと向かった。
効率良く助ける為に、敵兵を捕まえてエアガンで脅して、機関室の位置を確認する事を忘れない。
場所を聞き出して敵兵に手刀を打ち込んで眠らせると、ジョーは物凄い勢いで走り始めた。
(甚平の奴、「助けてくれ」とは言わなかった…。
 自分に構わず逃げろ、とはあいつも大人になったもんだな……)
ジョーは自分だけ脱出する程、冷たい男ではなかった。
任務を最優先しなければならない事は解っている。
それは時として仲間を見捨てなければならないと言う事でもある事も良く解っている。
だが、今はベストを尽くす。
仲間を見殺しにする前に出来る限りの事をするのが『コンドルのジョー』だ。
そして、それが科学忍者隊の結束だ。
ジョーは秒速で走った。
その姿が見えない程の速さだった。
その影から時折羽根手裏剣が飛び出し、邪魔に入った敵兵が次から次へと薙ぎ倒されて行った。
「甚平、どこにいる?意地を張らずにバードスクランブルを発信しろ!」
ジョーはブレスレットに向かって叫んだ。
『ジョーの兄貴。来ちゃ駄目だ!』
甚平の声は切羽詰まっていた。
ジョーはその電波を頼りに甚平を探した。
銃口を先兵に機関室に転がり込んだが、既に倒れた敵が10数名と壊された機器があるだけで、甚平の姿は無かった。
(くそぅ。俺の判断ミスだ…。竜も連れて来るべきだった……)
ジョーは唇を噛み締めた。
その時、機関室の前の通路の色合いにそこだけ違和感を感じた。
床を叩いてみる。
確かに音が違う。
ジョーはそこを銃把で思いっ切り叩いた。
すると、下側への観音開きの扉になっていた。
つまり甚平は機関室を破壊して逃げ出す時に落とし穴に落とされたと言う訳だ。
得心が行ったジョーだが、中を窺うと焦げ臭い臭いと、炎の熱風が感じられた。
眼が慣れて来ると、甚平が磔になり、火で炙られようとしている事が解った。
「とぅっ!」
ジョーは飛び降りながら、羽根手裏剣で甚平の四肢を自由にした。
彼が着地をした時には既に甚平は彼に向かって走って来ていた。
「甚平、俺に掴まれ!」
ジョーはエアガンのワイヤーを伸ばして上の通路の天井に吸盤を取り付けた。
「早くしないと見つかってあの扉を閉じられちゃうよ!」
「解ってる!」
ジョーは素早くワイヤーを巻き戻し、間一髪で扉が閉じられる前に脱出に成功した。
「ジョーの兄貴。ごめんよ…。おいら足を引っ張っちまった……」
「事情は後だ。とにかくすぐにゴッドフェニックスに戻る。
 このメカにはウランが積み込まれている可能性がある。
 地上から引き離さなければならねぇ。
 甚平、走れるな?全速力だ!」
そう言うと、ジョーは甚平の背中を押し、自分も全速力で走り始めた。

ゴッドフェニックスに戻ると、ジョーは竜にとにかく球体メカを空へと引き寄せるように言った。
ノーズコーンを開け、大型磁石をセットする。
「これで引き付けられればいいんだがな」
ジョーは呟きながら、磁力スイッチを押した。
球体鉄獣がガタガタと揺れていたが、やがて少しずつ浮き始めた。
「竜、高度6000メートルまで上昇しろ。
 そこで磁力スイッチを切り、バードミサイルをお見舞いするぞ!」
「ラジャー!」
「さすが、ジョーの兄貴、考えたねぇ!」
「甚平、ふざけている場合じゃねぇ。
 タイミングを逃すと、球体鉄獣は地球に落下するぞ」
ジョーはバードミサイルの赤いスイッチに手を掛けながら冷や汗を掻いた。
自分のこの手に地球の命運が掛かっていると言っても過言ではなかった。




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