『二元戦争(3)』

「高度3000…、4000…、5000…、6000!
 ジョー、高度6000じゃわい!」
「ようし、超バードミサイルをお見舞いしてやる!
 竜、垂直降下に転じろ!
 甚平、しっかり捕まっているんだ!」
「ラジャー!」
ジョーは呼吸を整えて、スクリーンを見やった。
寸分の過ちも許されない。
「ジョーの兄貴、早くぅ〜!」
甚平が焦っている。
無理もない。
このまま行けば、ゴッドフェニックスも地上に落下して、鉄獣に積み込まれたウランの爆発に巻き込まれる。
ジョーは充分に照準を見極めて、発射スイッチを押した。
「竜、急速転回!」
「解っとるわい!」
竜がレバーを引いた。
ゴッドフェニックスは寸での処で辛うじて爆発の巻き添えから逃れた。
球体鉄獣は、地上4500メートルの地点で大爆発を起こし、その残骸は海の藻屑と散って行った。
ジョーは思わず深い溜息をついた。
それから竜を振り向き、
「竜、健達の方はどうなっている?」
「敵のウラン鉱脈までの通路は建造中でまだ完成していないらしい。
 基地にはウラン鉱はまだ運び入れられていないんじゃが……。
 そう言えばその後の連絡が遅いのう……」
ジョーは嫌な予感がした。
「こちらG−2号。メカ鉄獣は何とかやっつけた。
 そっちはどうだ?」
『こちらG−3号。健が負傷したわ』
不安を押し殺したジュンの声が聞こえた。
「何だって?」
『大した事はないと思うんだけど、肩を骨折していて気を失っているの』
ジュンの声の背後からはまだ闘っている物音がする。
かなり切羽詰っている状況のようだ。
「解った!俺達が助けに行くからそれまで絶対に持ち堪えていろよ!」
ジョーは竜に振り返った。
「地質学研究所の地下の基地へと潜入するぞ!
 幸いウラン鉱は運び込まれていねぇ。
 このままゴッドフェニックスで突っ込んぢまえ!
 全速力だ!」
「ラジャー!」
竜が操縦桿を操作して、反転、地質学研究所へと向かった。

ゴッドフェニックスの機首が地質学研究所の地下施設へと突っ込んだのは、それから数分も経っていなかった。
トップドームからジョー、甚平、竜が一躍飛び出して乗り込むと、敵兵がマシンガンを構えて待っていた。
すぐに衝突を始めた。
「俺は健とジュンを探す。
 竜と甚平は随所に時限爆弾を設置しろ。
 時間は10分だ」
「解った!」
3人は二手に別れた。
ジョーはすぐさまブレスレットでジュンに呼び掛けた。
「ジュン、聞こえるか?今どこだ?」
『ジョー、司令室の中よ。
 幹部はメカ鉄獣に乗り込んでいたようだけれど、1人屈強な隊長が此処を指揮しているわ』
「解った!待っていろ」
ジョーは秒速で走り始めた。
羽根手裏剣とエアガンで眼の前の敵を切り拓きながら、ジュンの電波を頼りにズンズンと前に進んだ。
司令室はすぐに見つかった。
エアガンの銃口を先兵にドアを蹴破って転がり込んで、片膝を立ててエアガンを構えた。
そこには健が倒れていて、それを守るようにしたジュンがヨーヨーを使いながら、苦戦していた。
「ジュン、大丈夫か?」
ジョーはすぐさま跳躍して、ジュンの背中を守った。
「大丈夫よ…」
と答えたジュンは息が上がっていた。
「俺に任せとけ!健を頼んだ!」
「ふふふふふ。また威勢のいいガキが転がり込んで来たか!」
「ジョー、その鉄の塊に気をつけて!」
ジュンが告げたその武器は、鎖で繋がっている2つの大きな鉄塊だった。
これを振り回したり投げたりする事によって、健とジュンは翻弄されたらしい。
ジョーは「うおぉぉぉぉっ!」と大声で気合を入れ、敵の隊長に向かって走り込んだ。
隊長は鉄塊をヌンチャクのようにして、ジョーを襲った。
ジョーは天井近くまで跳躍して、それを足蹴にした。
鉄塊が落ちて、床を抉った。
「凄い破壊力だな……」
ジョーはエアガンでその鉄塊を弾き飛ばそうとしたが、一瞬早く隊長に拾われてしまった。
それに隊長の腰にはもう1組の鉄塊が予備としてセットされていた。
「結構な重さのこいつを片側の腰につけたまま闘うとは、油断ならねぇな……」
ジョーが思わず呟く程、この隊長はやり手だ。
彼は攻撃を避ける為に床を転がり回らなければならなかった。
早く体勢を整えないと、健の二の舞だ。
ジョーは左右に転がりながらも羽根手裏剣を抜いて、反撃のチャンスを狙った。
彼はヌンチャクのようになっている鉄塊の鎖に狙いを定めた。
非常に難易度の高い攻撃を仕掛けようとしていた。
羽根手裏剣で鎖を切ろうと言うのだ。
尤もこれを破壊した処で、もう1組の予備があるから、油断はならない。
ジョーが攻撃を受けながらもツッと眼を細めた瞬間、鎖が羽根手裏剣によって切り離された。
2つの鉄塊はそれぞれが壁と床にめり込んだ。
「これの直撃を喰らったんでは、さすがの健もああなる訳だ……。
 しかし、予備のものがある。
 まだ安心は出来ねぇ……」
ジョーは新たに隊長が手にしたその鉄塊をエアガンの銛(もり)で弾き飛ばして、ついでにこの司令室のメインコンピューターを破壊しようと一石二鳥を狙っていた。
敵の動きを見切らなければならない。
彼の得意とする処だが、類稀なる集中力が必要だった。
ジュンはジョーがしようとしている事を正確に理解し、健を引き摺って、部屋の隅まで移動した。
ジョーの気を散らさない為である。
ジュンは祈るような気持ちで、ジョーの一挙手一投足に視線を投じていた。
鉄塊をただ弾き飛ばすだけではない。
それで敵のメインコンピューターも破壊しようとしているのだから、並大抵の事ではなかった。
だが、そうしなければ、この手強い隊長は、例え武器を奪われても、メインコンピューターは死守するに違いなかった。
ジュンはいざと言う時ジョーを援護する為に、ヨーヨーを構えた。
そして、敵の隊長によるヌンチャクのような鉄塊が再びジョーへの容赦のない攻撃を開始した。




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