『二元戦争(4)/終章』

敵の隊長が振り回す大きな鉄塊は容赦なくジョーを襲った。
これの一撃を受けて、健は肩を骨折し、気を失ってしまったのだ。
恐らくは複雑骨折しているだろう、とジョーはこれまでの鉄塊の破壊力を見て思った。
素早く跳躍し、回転し、時には床を転がりながらも、ジョーは攻撃に転ずる機を窺っていた。
あの鎖で繋がれた2つの鉄塊を振り回している時、敵の胴に隙が出来る事に気付かぬジョーではなかった。
「ジュン…」
ジョーは小声でブレスレットに囁いた。
「あいつの胴に隙がある。
 俺が引き付けている間にその場から動かずに気配を感じさせず胴を攻撃してくれないか?」
『解った。やってみるわ…』
ジュンから短い返信があった。
ジョーはわざと左腕を鎖に巻かれた。
敵の隊長がニヤリと舌なめずりをして、前に出た時、
「たーっ!」
と気合を掛けたジュンのヨーヨーが隊長の腹部に飛んで来て、同時に電気ショックを与えた。
「今だっ!」
ジョーは左腕に巻き付いている鎖をエアガンで切り、飛んでいる鉄塊をエアガンの銛(もり)で刺してそのままワイヤーを伸ばした。
鉄塊は狙い違わずメインコンピューターの中枢装置を直撃し、爆発が始まった。
竜と甚平が駆け付けた。
「早くしないと後2分でこの基地は木っ端微塵だぞ!」
と竜が言ったが、
「いや、後1分だ。このメインコンピューターの起爆スイッチが入ったぞ」
ジョーは冷静に返した。
「早く健を連れて脱出しよう」
とジョーが言った時、健が起き上がった。
意識を取り戻したのだ。
痛みに一瞬顔を歪ませた。
「いや、竜巻ファイターで脱出だ」
「健…。そいつは無理だ」
ジョーが低い声で諭した。
「時間がない。リーダーの言う通りにしろ!」
健の決意が固い事を、ジョーはその青い瞳の強さから感じ取った。
「解った……。
 俺と竜、健とジュンの位置を左右入れ替えれば、甚平は健の負傷していない右肩に乗る事になる。
 一か八かそれでやってみよう」
ジョーは頷かざるを得なかった。
いつもと違うフォーメーションが組まれた。
「科学忍法竜巻ファイター!」
トップに上った甚平が叫んで、5人は回転し始めた。
健が苦しげに顔を歪める。
だが、何とか彼は意地で持ち堪えた。
地上に出て体勢が解かれる時に、ジョーは落下して来る健をジャンプしてしっかりと抱き止めた。
案の定、健は気を失っていた。
ジョーは竜巻ファイターで脱出をしたら、すぐにゴッドフェニックスを動かすように竜に指示していたので、竜はすぐさまその場から消えた。
ジョーはそのまま健を抱いて走り、物陰に蹲ってマントで健の身体をカバーした。
ジュンと甚平もそれに続いた。
彼らが出て来た穴から爆風が噴き出した。
竜によってゴッドフェニックスは辛くも脱出に成功する。
そして、敵基地は誘爆を暫く繰り返して、10分後に爆風が沈静化した。

「健!健!しっかりして!」
ジュンが健を揺り起こそうとしたが、ジョーがそれを止めた。
「気を失っている方が痛みを感じなくていいだろう。
 このまま連れ帰ろうぜ」
「よっしゃ、それならおらに任せとけ」
ゴッドフェニックスから下りて来た竜が言った。
力自慢の竜には米俵と同じ健の体重など全く問題にならない。
健を軽々と抱き上げて、ゴッドフェニックスのトップドームへと跳躍する。
残る3人も続いた。
健を指定席にベルトで固定すると、南部博士がスクリーンに登場した。
「諸君。本当に良くやってくれた。
 ゼットマーク市は無事だし、ギャラクターの基地も潰す事が出来た」
「今回の事はジョーの活躍です。博士」
ジュンが言った。
「それより、健が敵の武器で左肩をやられました。
 多分、複雑骨折していると思います。
 急いで帰還しますので、看てやって下さい」
まだ気を失っている健を見やってジョーが言った。
「解った。諸君の帰還を待っている」
博士がスクリーンから消えた。
「ジュン、肩の固定具を」
冷静さを失っているのか健を見詰めて動かないジュンに、ジョーが指示をした。
「あ…、すぐに用意するわ」
左肩が動かぬよう固定と保護をして、ジョーは一息ついた。
「ジョーが来てくれた時、後光が差して見えたわ」
ジュンが健の顔をじっと見詰めながら呟いた。
「私、あの時、死を覚悟していたんだもの」
「間に合って良かったぜ…。
 科学忍者隊から2人も1度に居なくなったんじゃかっこが付かねぇからな……」
ジョーがジュンの肩を軽く叩いて、背を向けた。
じっとそれを見ていた甚平にもその眼を逸らさせるように自席へと導いた。
竜はとにかく最短距離で基地に還る計算をして、ゴッドフェニックスは一路三日月基地へと急ぐのだった。

病室で眠る健の隣で新聞を読んでいたジョーが、健が目覚めた気配に気付いたのは、手術室から戻って1時間半程経った頃だった。
「麻酔が醒めたようだな。どうだ痛むか?」
「いや……まだ麻痺していて解らない」
「そうか。やはり複雑骨折していやがったぜ。
 まあ、アレの直撃を受けてそれで済んだのはラッキーだったかもしれねぇな」
「ジョーがやったのか?」
健が半身を起こそうとしたので、ジョーは手で止め、ベッドを少しだけギャッジアップさせた。
「なぁに、運が良かっただけさ」
ジョーはシニカルに笑った。
「暫く入院だとよ。リハビリも必要だ」
「ジョー、任務のない時はリハビリに付き合ってくれないか?」
「おめぇの『リハビリ』は実戦さながらのもんだろ?
 俺と変わりはしねぇじゃねぇか?
 いつも俺の事を止める癖によ」
「付き合ってくれないのなら、1人でやるからいい」
健が珍しく不貞腐れて見せた。
「馬鹿野郎。望む処だ。とことん付き合ってやるから安心しな。
 だから、『リハビリ』が出来るようになるまで、精々安静にしている事だ」
ジョーは立場が逆転している事を愉しんでいるかのようだった。
そこにジュンが花束を持って入って来た。
ジョーはそれを潮に立ち上がった。
「じゃあ、俺は帰るぜ。2人でゆっくり話でもしてな。
 ジュン、意識が戻った事は俺が看護師に言っておいてやる」
ジョーはそう言うと、後ろ手に手を振って出て行った。
「有難う、ジョー……」
ジュンが呟くように謝辞を言った言葉は、辛うじて聞き取っていた。
今回の二元戦争は、ジュンが博士に報告した通り、ジョーの活躍がなければ制する事が出来なかった。
ジョーのサブリーダーとしての成長がまた見られたのだ。
彼は病室を出てから、フッと気がついて時計を見た。
まだ明け方だった。
辛うじてレースには間に合いそうだ。
トレーラーハウスに戻って支度をしよう。
一睡もしていない状態での出場だが、気負わずに行こう。
そう決めたジョーは足取りも軽く病院を後にするのであった。




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