『高速道路の怪事件(1)』

「あ〜あ…、何かいい事ないかなぁ?」
甚平が『スナックジュン』のカウンターの中で欠伸をしながら思わずぼやいた。
「どうした?まだ幼い癖にそんな事を言ったりして」
健が訊ねる。
「だって、毎日ギャラクターと闘っているか、この店で労働をしてるんだよ。
 兄貴はテストパイロットだし、ジョーの兄貴はレーサーなんて肩書きがあって羨ましいな」
「おいおい。ジョーはともかく、俺はそんなに仕事がないぜ」
健はいつでもお金がなくて、自分でも『おけら』だと称している。
「ジョーは任務の合間に効率的に稼いでるよね。
 レースで優勝すれば賞金が稼げるからさ。
 トレーラーハウスに住んで、何か『粋人』って言う感じだよな」
甚平は結構難しい言葉を知っていた。
健はその事に驚きながら、甚平が何を言いたいのか計り兼ねていた。
ジュンはジョーと共に博士に呼び出されていた。
「それにしても、お姉ちゃんとジョーって言う組み合わせは何なんだろうね?」
甚平はまた1つ欠伸をした。
「任務だよ。調査の為に地上を駆け回る必要があるらしいんだ。
 陸上ならあの2人だろう?」
「ええっ?おいらのG−4号も地上を走れるのに」
「ある程度のスピードが要求されるらしい。
 変身前の状態でね」
「ふ〜ん…。おいらもジョーみたいなマシンがいいなぁ。
 スポーツカーとか憧れるな」
甚平は子供らしくスポーツカーへの並々ならぬ憧れを持っていた。
「任務が終わったらまたジョーにサーキットに連れて行って貰ったらどうだ?」
「ナビゲートシートじゃ駄目なんだよね〜」
「ジョーなら子供でも乗れるカート場なんかにも詳しいだろ?」
健は言ったが、実の処、2人が取り掛かっている任務に気を取られていた。

ジョーとジュンは三日月基地に呼び出され、南部博士からある調査を命じられていた。
ギャラクターが暴走族を使って、高速道路でゲリラ的に殺人を行なっているらしい。
「それで俺とジュンって訳ですか」
ジョーは納得したように答えた。
「暴走族は飽くまでも一般市民だと見られると言うのが警察からの報告だ。
 何らかの方法でギャラクターに操られているか、金に眼が眩んだかのどちらかだ。
 それを突き止め、これ以上被害が広がらないようにして欲しい。
 またその目的も調査して貰いたい」
「それは解りましたが、博士、その暴走族に特徴とかはないのですか?」
ジュンが当然の質問をした。
「取り立てて特徴はない。普通の暴走族だ。
 ただ、突然高速道路で周囲を煽り立てるような行動に出、いきなり発砲するのだ。
 警察でも手を焼いていて、科学忍者隊に出動要請があった」
「では、これまでに出没した場所を教えて下さい」
ジョーが組んでいた腕を解(ほど)いた。
「うむ。これを見たまえ…」
博士がボタン操作で天井からスクリーンを下ろして来た。
そこに投影されたのは、地図だった。
「事件は、この2つの高速道路を拠点として起きている」
地図には赤い線が2本走っていた。
高速道路を表わす線だ。
「2本の高速道路に現われるのは同じ暴走族かどうかは解らん。
 とにかく2人で手分けをして、これ以上の暴挙を食い止めて貰いたい」
「ラジャー!」
ジョーとジュンは明快に答えて、基地を飛び出した。

2人は同じ潜水艇で地上に出た。
「ジュン、気をつけろよ。相手は女だと思って舐めて来やがるからな。
 まあ、そこいらの男に負けるようなジュンじゃねぇ事は解っているがよ」
「あら、ジョーこそ気をつけて。相手はバイクだから勝手が違うでしょ?」
「心配するなって。とにかく今回の任務は俺達の腕の見せ処だぜ」
「そうね…」
潜水艇が地上に着くと2人は暫く並走した。
それぞれの担当区域は決めてあった。
ジョーの区域は西地区、ジュンの区域は南地区にある高速道路だ。
「ギャラクターはどんな網を張ってるのか解らねぇぜ。
 ジュン、おめぇはいざとなったら健を呼べ。いいな!」
「解ってるわ。でも、1人で大丈夫よ。
 じゃあ、お互いに成功を祈りましょう」
ジュンは手を振って、道を右へと流れて行った。
ジョーはそれを見送って、自身はステアリングを左に切った。
いざとなったら変身する事を許されていた。
その為の科学忍者隊への出動要請なのだ。
とにかくまずは平時の姿でパトロールを繰り返す事だ。
勿論、同じ高速道路でいつまでも事件が起こるとは限らなかったが、今はそれしか手掛かりがない。
ジョーは油断のない眼を周囲に配らせながら快適に飛ばした。
レースのように高速を出す訳には行かないが、彼にとってはまさに『気楽なドライブ』程度の走り方だった。
だが、何がどこで起こるか解らない。
一時たりとも油断は出来なかった。
ピリリとした緊張が彼を包んだ。
「こちらG−2号。今の処、異常ありません」
1度南部に報告の通信を入れた。
『了解。何か解ればこちらからも連絡する』
「ラジャー!」
ジョーはバイクの集団を見掛ける度に注意して眼を凝らした。
暴走族なら彼にはすぐに見分けが付く。

異変が起きたのは、1時間程走った頃だった。
怪しい暴走族の一団が、暴走するかのようにジョーを追い抜いて行った。
10台を超すバイク集団だ。
「こちらG−2号!怪しい暴走族を発見。追跡します」
『うむ。充分に気をつけてくれたまえ』
「様子を録画してそちらに転送します」
『解った』
ジョーはアクセルを踏んだ。
暴走族は2人乗りをしていた。
色とりどりの色のバイクと服で一見まちまちに見えたが、1つ共通点があった。
後部に目立つ旗を立てているのだ。
白地に赤いマークが見える。
「!」
ジョーはそれを見て息を呑んだ。
「博士。暴走族はギャラクターのマークの旗を付けています。
 ジュンにも伝えて下さい」
博士に報告をすると、ジョーはその意味を考えた。
暴走族はギャラクターに操られているのではなく、ギャラクター自身である可能性もある。
一般人の姿に身を窶(やつ)しているだけなのかもしれない。
だが、予断は禁物だ。
薬物などで操られている可能性もあった。
ジョーはそのまま自分の意見を南部に伝えた。
『うむ。ギャラクターのマークをこれ見よがしに付けていると言うのはどうも解せんな。
 とにかくまだ予断は許さない。
 気をつけて行動してくれたまえ』
その時、暴走族が1台の車を囲むようにして挑発し始めた。
「博士。暴走族が車を煽っています。
 一旦通信を切ります」
『頼んだぞ』
ジョーはその動きを丹念に探った。
蛇行運転をしながら、家族連れの車を包囲している。
逃げ切れない車は、少しずつ速度を落とした。
暴走族は機銃掃射を始めようとした。
2人乗りの訳が解った。
後ろに乗っている者が攻撃手の役割を果たしていたのだ。
しかし、こんな事をして、一体何の目的があるのか、ジョーにはまだ諮る事が出来なかった。
今はとにかく、この暴挙を止めなければならない。
狙われている車の中に2人の子供が乗っているのが見えた。
怯えている。
母親が子供達を胸に抱き締めていた。
あの子供達は絶対に守らなければならない。
ジョーの怒りに火が点いた。
「バードGO!」
彼は変身すると、G−2号機で暴走族の前へと回り込んだ。




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