『高速道路の怪事件(3)』

ジョーは次から次へと出て来る罠を掻い潜って敵の中枢部へと進んでいた。
床が突然開いて落とし穴のようになった時には、エアガンのワイヤーを伸ばして吸盤で天井にぶら下がって辛くも何とか落ちるのを避ける事が出来た。
まだ罠がいくつ待っているか解らない。
その後健からは連絡がないし、ジュンと甚平からはバードスクランブルは発信されていない。
(まずはとにかく俺が中枢部に辿り着き、爆破してから、健や竜と協力して2人を救出するしかねぇ。
 それまで無事でいてくれよ……)
祈るようにそう思いながら、ジョーはエアガンを先兵に、羽根手裏剣を唇に咥えながら、慎重に、しかし風のような速さで駆け抜けた。
まるで彼の動きは野生の豹の如き素早さだった。
しなやかで何よりも速く、風を切って進む。
一般人にはその姿を見て取れないぐらいだ。
また、罠が俺を襲って来た。
突然天井から鎖が伸びて来て、ジョーは左手首を枷で掴まれてしまった。
だが、すぐにエアガンでそれを粉砕して跳躍したので、両手両足を拘束される事からは辛うじて免れた。
左手首の枷を外しながら、更に先へと進む。
通路の左側に大きな鉄扉があった。
(此処が司令室か?)
そう思った時、突然カッツェの声が響いた。
『さすがは科学忍者隊コンドルのジョーだ。
 あの罠の中、此処まで忍んで来るとは天晴れだな。
 褒めてやる。
 さあ、入るがいい。
 10個の大掛かりな罠を掻い潜った者だけが入れるこの部屋にご招待するとしよう。 
 良いものを見せてやるぞ。
 ハハハハハハ…!』
相変わらず癇に障る声だ、とジョーは思った。
彼は鉄扉に肩で体当たりをして転がり込み、一回転して油断なくエアガンを構えた。
そこにはジュンと甚平ばかりではなく、竜までもが鎖で壁際に磔になっていた。
「竜、何でおめぇまで此処にいる?!」
「ジョー、すまねぇ……。
 おら、ジュンと甚平が捕まったと聞いて、居ても立ってもいられなくなっちまったんだ」
「くそぅ……」
何と言う事だ!
これでゴッドフェニックスで突入する事は出来なくなったではないか?
ジョーは唇を噛んだ。
そして、健に対してバードスクランブルを発信した。

ジョーは銃を構えたギャラクターの隊員達に周囲を囲まれた。
勿論黙ってじっとしている彼ではない。
敵を長い足で何人も1度に足払いして体勢を崩したのを見計らい、エアガンの三日月型のキットで薙ぎ倒し、次の瞬間には羽根手裏剣が華麗に飛んだ。
1度に何人もが斃れて行く。
そしてジョーは倒立をしながら敵を両足で挟んで投げ飛ばす。
脚力が強い彼だからこそ出来る技だ。
起き上がった時には敵兵の鳩尾に重いパンチを入れている。
同時に右足で別の隊員に蹴りを入れていた。
その素早さは賞賛に値する。
『コンドルのジョー君。それ以上暴れると仲間達を1人ずつ銃殺するぞ』
またカッツェの声が響いた。
此処には居ないのか?
自分は安全な場所で部下を遠隔操作しているのだ。
ジョーは取り敢えず、人質となった3人の前で銃を構えている隊員達に後方から羽根手裏剣を首に叩き付けた。
敵兵はその場に崩れ落ちたが、代わりなど幾らでも居る。
危機を回避するには、健の到着を待つしかなさそうだ。
その時、聴き慣れた口笛が響いた。
ジョーと同等の身体能力を有する健は、やはり数ある罠を無事に潜り抜けて来たようだ。
(けっ、また気障な事をしやがって!
 さっさと出て来やがれ!)
ジョーは内心で悪態を付いたが、決して悪意から来るものではなかった。
健は天井近くにある階段の上に潜んでいた。
そこから跳躍してジョーの後ろへと到達した。
「待たせたな」
「ああ、待ちくたびれたぜ。竜の奴までのこのこ出て来やがってよ。
 さすがに俺1人じゃ手に負えねぇぜ。
 此処の奴らは俺が引き受けるからブーメランで3人の拘束を破ってくれねぇか?」
「ああ、俺に任せておけ」
健はそう答えると、「此処は任せた」と言い残して跳躍した。
ジョーは周囲の敵兵が健を攻撃しないように援護をした。
時には壁を数歩走って、敵に確実な蹴りを入れた。
敵2人の首を両手で掴んで、その頭と頭をぶつけさせると言ったまるで竜がやるような事も彼はこなした。
1人の敵を倒した時には、次の攻撃目標を見切っている。
この能力は他の誰にも負けない。
皆、当然この能力は有しているが、ジョーはそれよりも一歩進んでいた。
だからこそ、科学忍者隊の中では斬り込み隊長的役割を果たしている。
カッツェがスクリーンに登場した。
『ええぃっ!コンドルのジョー如きに何を翻弄されておる!
 たった1匹の小童に手を拱いているとは何事だ!
 さっさとひっ捕らえて焼き鳥にしてしまえっ!
 ガッチャマンも逃がすな!
 折角捕らえた科学忍者隊を解放されてしまうぞ』
「けっ!離れた所から指示しているだけでは、現場の事なんぞ解りゃあしねぇよ!
 おめぇの部下達も苦労する訳だ」
ジョーは苦笑して、そのスクリーンをエアガンで粉々に破壊した。
彼が活躍している間に健は仲間達を救出したようだ。
ジョーの後方にいた敵兵に健のブーメランが飛んで来た。
「冷や冷やさせやがって!
 竜、おめぇはゴッドフェニックスに残っている筈だったろうが!」
「ジョー、話は後だ。
 カッツェの事だから、基地を自爆させるに違いないぞ」
「解った。とにかくあの罠の制御装置を破壊しようぜ。
 脱出の邪魔になる」
ジョーは中枢コンピューターに近づいた。
「ジョー、危ないっ!」
ジュンの叫びは間に合わなかった。
早くも中枢コンピューターが大爆発を起こしたのだ。
爆発に巻き込まれて、ジョーは数メートル身体を吹き飛ばされた。
カッツェは科学忍者隊の行動をお見通しだったのである。
「ジョーっ!」
健の叫びが長く尾を引いた。




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