『生きると言う事』

コンドルのジョーは今まさに死地に向かおうとしていた。
彼が見下ろしているのは、総裁Xの地上絵だった。
彼の生き様はその全てが闘いの中にあったと言っていい。
ギャラクターとの闘いは勿論、レーサーとしての闘いもそうだった。
彼にとっての生きる糧、生きるエネルギーは何もかもが闘う事に通じていたのだ。
その為に腕を磨き、身体を鍛え抜き、誰にも負けない努力をして来た。
18歳の若者らしい生き方はして来なかったかもしれない。
しかし、ジョーにはその事に関しての不満はなかったし、後悔もしていなかった。
それは大人達から見れば不幸な事だと思うだろう。
ジョーは他の明るい世界を知らなかっただけなのだ。
だが彼は自らの死期を知り、尚更、闘いの中でその短い生命を散らしたいと思っていた。
どうせ助からないのなら、この生命を無駄に捨てたくはなかった。
病院で朽ちて行く事は絶対に許せない事だった。
だからこそ、仲間達の自分の身体の不調を隠せるだけ隠し通し、ついには単身この場所へと訪れたのだ。
18歳と言うこの若さで、彼が必要以上に大人びていたのは、この為だったのか、と後になって周囲の大人達は驚かされたのである。

彼にとって『生きる』と言う事は、闘争本能その物だった。
他の生き方を彼は知らない。
その事を哀しいと思った事も辛いと思った事もなかった。
だが、仲間達には闘いを離れて平穏な生活を送って欲しい、と本心から願っていた。
ジュンには健と一緒になって子供の1人や2人も作って幸せになって欲しいし、竜だって誰かいい人を見つけて彼の生来ののんびりとした性格通りの穏やかな温かい家庭を作るだろう。
甚平も、きっと立派な大人になってくれるに違いない。
あの幼さにしてこれまでの闘いの中で酸いも甘いも経験して来たのだ。
人の痛みを知った心優しい大人になってくれるだろう。
……彼らには燦然たる『未来』があるが、ジョーは自分の生命の限界が後数日で訪れる事を知っている。
自分にとっての『未来』と言うものは永遠にやって来ないのだ。
彼の未来は既に閉ざされていた。
科学忍者隊の仲間達の未来を繋げる為に、地球の人類を救う為に、自分の限りある生命を使おうと言う決意をしてジョーは此処にやって来たのだ。

(きっとこの手でギャラクターを壊滅させ、ベルク・カッツェの、総裁Xの息の根を止めてやる!
 俺の生命と道連れにな!
 今、すぐに俺の生命が失われたとしても、ほんの少し寿命が縮まるだけに過ぎねぇ…。
 この生命、惜しくはねぇぜ!俺はやってやる!)
激しい眩暈に視界が揺らぐ中、意識がハッキリとしたタイミングを逃さずに、ジョーはその眼に力を込めて、軽々と崖から飛び降りるのだった。
この瞬間が、まさにこれまでに無く激しい白兵戦の始まりであった。
そしてこれが科学忍者隊にとって最後の決戦になる事になる。
彼はその闘いの渦に、今、ついに足を踏み入れた。

ジョーは一点の曇りもなく、自分の生き方に満足していた。
バードスタイルの変身も解かれ、生身で闘い、激しく傷ついた血まみれのその身体を横たえ、此処で力尽きて死ねる事は本望だった。
(これでいい……)
彼が瞳を閉じた時、コンドルのジョーの長く短い、闘いだけに明け暮れた一生も終わりを告げたのだった。




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