『灼熱の溶鉱炉』

ジョーが侵入したメカ鉄獣の中は、嫌に暑く、広かった。
バードスタイルは熱に強いが、それでも汗をびっしょり掻く程だった。
まさに灼熱と言って良かった。
3体のメカ鉄獣が同時に現われた為、止むを得ず3方に別れて、それぞれがメカ鉄獣に乗り込んでいた。
健、ジョーは単身で、ジュンと甚平は2人でコンビを組んだ。
竜はいつも通りゴッドフェニックスにて待機。
それぞれが相手のメカ鉄獣の機関室に侵入し、小型発信機を仕掛け、ゴッドフェニックスに戻ってから超バードミサイルで効果的に攻撃しようと言う作戦だった。
その日、ジョーは体調が悪かった。
例の頭痛と眩暈である。
それを誰にも告げなかった為、いつもの働きが出来ると思われて、彼は1人になった。
だが、どうやらこの暑さが頭痛と眩暈を増幅させているようで、いつになく調子が悪い。
身体がだるくて重く、何もかもがフィルターを通して見ているかのようだ。
視力よりも、聴力や身体が覚えた勘を働かせて、彼は敵兵を薙ぎ倒すしかなかった。
(この暑さで本当に発熱しているのかもしれねぇな……。
 一時的な熱中症の症状なのかもしれねぇ。
 とにかく気にしない事だ……)
ジョーは走りながら、エアガンと羽根手裏剣を駆使して進んで行く。
(何でこんなに暑いんだ?)
その答えはすぐに解った。
このメカ鉄獣には溶鉱炉が積まれていたのだ。
これではギャラクターの隊員達も溜まったものではない。
相手の動きもやはり普段よりも落ちているように見えた。
体調の悪いジョーには有難い事だった。
動きを見切るのに、眼で追わず、空気を見る事にした。
敵兵の気配を読み取っては正確に投擲武器を投げつけて行く。
その正確さは眼が霞んでいるようには見えない。
他の者が見たら、全くジョーの体調不良には気付かないだろう。
だが、油断は禁物だ……。
こう言った闘いの場に於いては、いつ何時窮地に陥るか解らない。
死と隣り合わせの任務を遂行しているのだと言う事は科学忍者隊の全員が自覚している事だった。
普段は夢を見たり、若者らしい事を考える事はあっても、一旦バードスタイルになったら、全ての概念を捨てて、任務に当たる。
それが科学忍者隊である。
ジョーは時折襲って来る激しい頭痛と眩暈に、立ち往生する事もあり、辛くもそれを通り越して此処までやって来た。
目的とする機関室まで後1歩だ。
また頭に刺すような痛みが走った。
身体がぐらりと揺れた。
(こんな処で倒れる訳には行かねぇんだ……!
 しっかりしろ、コンドルのジョー!)
ジョーは自身を叱咤激励しながら、ふらついて一旦床に着いた膝を上げた。
敵兵の銃撃がその頻度を高めて来た。
間違いなく、機関室の近くまでやって来ている。
ジョーは敵の銃撃に全身を晒しながらも進んで行った。
(このバードスタイルで持ち応えるか否か……。
 それは俺の時の運だ……)
ジョーはそれでも巧みに銃弾を避けながら、進んだ。
眩暈が彼の意識を一瞬遠退かせた時、銃弾が右肩を貫いた。
かと思ったが、それだけの衝撃があっただけで、バードスタイルは彼の身体を守ってくれた。
多少の痛みはあるが、これなら大丈夫、動く事は出来る。
ジョーは左肩で機関室のドアを突き破り、中にいた戦闘員達と立ち回りを繰り広げる。
不調とは言っても科学忍者隊のコンドルのジョーだ。
そう簡単には引けを取らない。
不意を突かれて床に倒れ込む事もあったが、必ず立ち上がった。
通常時なら防げる攻撃が防げなくなっているのは明らかだった。
だが、幸いにもそれ程身体にダメージは受けずに済んだ。
ジョーは爆弾1つでこの部屋と隊員諸共に始末を付ける事にした。
自分が脱出するだけの体力は残しておかなければならない。
ペンシル型の爆弾を取り出し、羽根手裏剣を投げる要領で部屋の中にいくつも投げつけた。
そして、爆発が落ち着いた処で、無事だった部屋の入口に小型発信機を取り付けて任務を完了した。
「こちらG−2号。任務完了。
 これから脱出する」
ブレスレットに告げて、ジョーは今持てる体力で精一杯早く走った。

「ジョー珍しく遅かったな」
ゴッドフェニックスに戻るとやきもきしていたらしい健の声がした。
その声さえも頭に響く程、症状は悪かった。
「すまねぇな。
 あのメカ鉄獣はやたらにだだっ広いばかりか、溶鉱炉を積み込んでいて凄く暑い……。
 一時的に熱中症のような症状にやられているらしい」
「溶鉱炉だって!?
 竜!メカ鉄獣を海に誘導するんだ!」
健の的確な指示が飛ぶ。
「確かにジョーの兄貴、凄い汗だ」
「顔も赤いわ……」
ジュンがよろめいたジョーの身体を脇から支える。
「熱も出ているようね。
 まさしく熱中症の症状だわ。
 甚平、保管庫からスポーツドリンクと氷を持って来て!」
ジョーの発熱は恐らく頭痛と眩暈の体調不良から来るもので、溶鉱炉を積んだメカ鉄獣に踏み込んだ事が誘因となっているに違いない。
だが、皆はそれを知らない。
メカ鉄獣の暑さが原因と思っていてくれれば都合がいい。
「ジョー。水分と一緒に塩分を摂るといいのよ」
ジュンがペットボトルの蓋を開けて、ジョーに渡した。
「俺の事はいい。メカ鉄獣はどうなっている?」
「上手く海に誘導している処だ。
 心配しなくていい」
健が振り向かずに答えた。

こうして全員の活躍で3体のメカ鉄獣を爆破する事が出来た。
だが、健は不安を押し隠せなかった。
「ジョー、頑強なお前がこの程度で体調を崩すとはどう言う事だ?
 また眠れないのか?」
「いや、そんなこたぁねぇ。たまたまそうなっただけだ」
「科学忍者隊のリーダーとして命令する。
 博士には後で俺から了解を取るから、G−2号は今すぐに休暇を取るように」
「健、おめぇっ!」
ジョーが反感を持って健を見詰めた。
「ジョー、貴方の熱は半端じゃないわ。
 39度を超えているのよ。
 まずは基地に戻って医師に診せた方がいいわ。
 貴方が寝込んだら私達も困るんだから。
 ね、ジョー……」
ジュンから宥められ、ジョーは「ケッ!」と呟いた。
医者になんぞ診て欲しくねぇ。
自分の身体の事は自分が一番良く知っている。
俺の身体を蝕む何かを見つけられてしまったら……。
ジョーは基地に戻ると皆の前から姿を消してしまった。
「ジョー、何て奴だ。熱のある身体で……」
健が拳を握り締める。
「ジョーの兄貴、明日はレースだと言ってたから、きっとサーキットに向かったんじゃないかなぁ?」
甚平が心配そうに呟いた。
「探しても仕方がない。
 次に俺の眼の前に現われたらガツンと言っておく」
ジョーは物陰に隠れて健のその声を聞いていた。
(すまねぇな、健……。
 俺は自分の生き方を貫く……)
心でそう呟いて、フラリとその場を音もなく立ち去るのだった。




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