『G−5号、危機一髪(1)』

「こちらG−2号、どうぞ」
ジョーがブレスレットからの呼び出しに答えたのは、サーキットを降りた時だった。
爽快な気分が一瞬で消えた。
『こちらG−1号。ジョー、竜が行方不明になった!』
「何だって?」
レーシングスーツを脱ぎながら、ジョーは眉を顰める。
スーツの下から汗に濡れたTシャツが現われた。
Tシャツが身体に張り付いている為、その芸術的な形の良い筋肉の様子が露わになった。
彫刻のようなそのバランスの良い素晴らしいバネの効いた肉体は、画家が見たらキャンバスに描きたいと思うだろうし、写真家が見たらフィルムに収めたいと考えるだろう。
背が高く、細くてもこのように筋肉質な身体付き、それでマスクが良いとなっては、女性が放っておかないのも頷けるものがある。
『昨日からヨットハーバーにもいないし、『スナックジュン』にも現われない。
 俺は先程潜水をしてみたが、G−5号機はそのまま残っている。
 ブレスレットで通信を試みた処、ヨットハーバーの小屋に置きっぱなしになっていた』
「あいつ、またかよ……」
ジョーは汗を拭く暇もなくG−2号機に乗り込んだ。
「何かおかしな形跡でもあるのか?」
『少なくとも行方不明になったのは住居ではないらしい。
 だが、ギャラクターが関係している可能性はある。
 今から南部博士に報告するから、博士から指令があるかもしれん』
「解った。俺もその心積もりでいる」
ジョーは答えると溜息をついた。
いつも人の命令違反を糾弾する癖に、意外にブレスレットを外してどこかに消えてしまうのは竜が多かったのだ。
「ゴッドフェニックスのメインパイロットとして、もっと自覚を持て!」
思わず呟いてから、アクセルを踏み込んだ。
取り敢えず竜が管理するヨットハーバーへと向かうつもりだった。
ジョーは悪態をついてはいても、竜の事を心配していた。
竜は彼の事を冷たい男だと評する事もあったが、実質は違っていた。
非常に仲間思いなのだ。
一見冷たいように見えるのは、ギャラクターへの復讐心と任務に対する厳しさからだ。
(竜が行きそうな所と言えば、やはり釣りだろう……)
彼の勘はそう告げていた。
モーターボートで釣りに出て、遭難でもしているのでは、と彼は考えた。
しかし…。
健の『ギャラクターが関係している可能性がある』と言う発言には、何か根拠があるのだろうか?とジョーは考えた。
その答えを見つける為に、ヨットハーバーへと向かおうとしたのだ。
健とは別の目線で何か手掛かりが掴めるかもしれない。

やがてヨットハーバーに着いた。
カモメが啼いたりして、何とものんびりとした雰囲気だ。
ユートランドの外れにこんな場所があるとは、不思議な感じがする。
ジョーはすぐに竜が住んでいる管理人小屋へと飛び込んだ。
ハンモックが吊られている他にはベッドと小さなテーブル、そしてテレビと冷蔵庫。
殆ど物がないせいもあってか、荒らされた形跡はない。
見た処、ブレスレットは見当たらなかった。
健が回収したのだろう。
大体、健の言うようにギャラクターに連れ去られたとして、どうしてブレスレットもしていない竜が狙われたのか?
何かまずい物を目撃したか、事件に巻き込まれたか、そのいずれかかだろう、と言う気がした。
ジョーは冷蔵庫を開けてみた。
健はこう言う処には気がつかないに違いない。
飲み掛けの牛乳パックは今日で期限切れ。
竜らしく、半分に切ったホールケーキがラップを掛けた状態で入っていた。
竜は料理をしないのか、中には他にも出来合いの高カロリーの惣菜がいくつも残っていた。
(やはり突発的に消えたんだな……)
ケーキを残して遠出をする事はないだろう。
と言う事は漁村にある自宅に帰ったと言うパターンは消えた。
釣り道具があるかどうかを見渡してみる。
確か前に1度此処に来た時には壁に立て掛けてあった筈だ。
案の定釣り道具はない。
ジョーはヨットハーバーに出てみた。
竜がいつも使っているモーターボートが消えている。
(やはり釣りに出ている時に何かがあったんだな……)
ジョーが考えている処に南部博士からの召集が掛かった。

4人の科学忍者隊は風のように三日月珊瑚礁へと集まった。
健とジョーはそれぞれの見解を話した。
「うむ。ジョーの言うように、竜がケーキや惣菜を残して漁村に帰ったとは考えられん。
 それに釣り道具とモーターボートが消えているとなると、海の上で何かがあったと言う結論になる。
 諸君、見たまえ」
南部がボタン操作で天井からスクリーンを下ろした。
「この海域に海賊が出ると言う噂があるのを知っているかね?」
博士が指差した範囲には、竜が釣りに良く行く区域も含まれていた。
「まさか。今時海賊なんてナンセンスですよ……。
 あっ!でも、それがギャラクターだったら…」
ジョーは笑い掛けて途中でそれに気付いた。
だから健はギャラクターの可能性がある、と言ったのか?
さすがはガッチャマンだ、とジョーは舌を巻いた。
海賊の噂の事も考えに入れて出した結論だったのだろう。
「竜は何かまずい物でも見たのかもしれませんね」
ジョーは腕組みを解いた。
「まずい物って?」
甚平が訊いて来る。
最近声変わりが進んで来た。
「ギャラクターの陰謀に関する何かに決まっている!」
ジョーが甚平を睨みつけるように言った。
甚平は竦み上がって、ジュンに抱きついた。
「とにかく竜がいないと、ゴッドフェニックスの操縦を誰かがしなければならないわ。
 操縦は出来たとしても、合体までは出来るかどうか……」
ジュンが憂い顔になった。
甚平以外の3人は一応操縦をした事がある。
その回数が多いのは、意外にも空の専門ではないジョーだった。
「当面はそれぞれのGメカで捜索して貰おう」
南部が告げた。
「ですが、博士。俺は陸上でしか行動出来ません」
ジョーが不服そうに言った。
「ジョーには必要に応じて普段この基地との移動に使っている潜水艇にG−2号機を積んで行動して貰う。
 それに、まずは行って貰いたい所がある」
「それはどこですか?」
「海洋科学研究所に行ってあの海域を観測したデータを見せて貰ってくれたまえ。
 『海賊』に関する事で役に立つデータがある筈だ。
 必要があればデータのコピーを貰えるように手配しておく」
「解りました」
「では、諸君。早速G−5号救出作戦に出動せよ!」
「ラジャー!」
博士の命令に4人は声を合わせて答えた。




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