『G−5号、危機一髪(4)/終章』

健達は大分先に進んでいるようだった。
ジョーは此処でも敵兵の洗礼を受けた。
メカ鉄獣の中で散々戦闘をして来たが、また此処で闘いを繰り広げる事となってしまった。
だが、健達の作戦遂行を早める為にも、ジョーは出来る限り早く彼らの元へと辿り着かなければならなかった。
身体毎ぶつかって行く。
彼が通り過ぎた後には、累々と敵兵の山が築かれて行く。
不思議な事に全員覆面が2つに切り裂かれている。
羽根手裏剣の切っ先を利用したのだ。
ジョーはあっと言う間にそれをしたのである。
ジャンプして繰り出された長い足を効果的に利用した強い蹴りは、敵兵のボディーに喰い込み、大きなダメージを与える。
多分暫くは意識を回復しまい。
身を低くして、バラバラと集まって来る敵兵の足を一気に払い、薙ぎ倒しておいて、ジョーはそのまま走り抜けた。
左右から現われる敵には羽根手裏剣をシュシュッと小気味良い音を立てながら浴びせて行く。
音が繋がって響いて行く程、その行動は素早かった。
唇に、左手に、羽根手裏剣は常備されていた。
右手のエアガンも黙ってはいない。
弧を描くようにワイヤーが飛び、三日月型のキットがタンタンタン…と音を立てた。
敵を見切るスピードが相手の比ではない。
ジョーの動きは時に訓練されたギャラクターの隊員でさえ見えなくなる事があり、まさにコンドルのように猛々しい。
その駆け抜けるスピードは豹のようだった。
ジョーは喩えて言うなら獰猛で俊敏な黒豹かもしれない。
猛禽類のコンドルに比する動物である。
それらの敏捷さを物にした彼は、あっと言う間に敵を切り拓き、道を作った。

「健!待たせたな」
ジョーが闘いを続けて作業が続かない仲間達の輪に入った。
「此処は俺に任せろ!作業は頼んだぜ!」
「ああ!助かった!
 遅々として作業が進まず、困っていたんだ。
 ジュン、甚平、竜は急ピッチで作業を頼む」
「ラジャー!」
3人が散った。
そして、健はジョーと背中合わせになり、敵を牽制した。
最強の2人である。
最近ではギャラクターにも科学忍者隊はガッチャマンだけでなく、コンドルのジョーも相当に手強いと言う事が知られていたので、新たな加勢に少し怖気づいた。
「ジョー。此処まで散々闘って来た筈だが、大丈夫か?」
「当ったりめぇよ!これしきの事で疲れていたんじゃ科学忍者隊は務まらねぇぜ!」
ジョーは言うが早いか、高く跳躍して、敵兵の元へと飛び込んで行った。
健はニヤッと笑って、「バードランっ!」と叫びながらブーメランを敵兵に向かって一巡させた。
戦力が増えて、健も安心して背中を任せられる相棒と2人、思いっ切り暴れた。
任務は爆薬に強いジュンを中心として、しっかりこなしてくれる筈だ。
「でやぁぁぁぁぁっ!」
ジョーの迫力ある気合に、健は心底心強いと思った。
力が沸いて来る。
それはジョーも同様の事で、1人で闘っていた時よりも更にモチベーションが上がった。
ライバル心から来るものもある。
同等の能力を有する2人はこうして切磋琢磨しながら、フォーメーションを完璧にした。
互いの背中を守りながらの闘いは続いた。
健がそう思っているように、口にはしないがジョーもまた健になら自分の背中を任せられると密かに感じていたのだ。
科学忍者隊最強の2人のタッグに、ギャラクターの隊員達は赤子同然の扱いを受け、次から次へと倒されて行った。
マシンガンの弾雨など平気で掻い潜るこの2人の敏捷さに敵う者は無かった。
前と上下左右を守るだけで闘えるので、そちらに集中出来る。
互いに利き手の右を中心に守ったので、左からの敵にはそれ程気を配る必要はなかった。
後方を気にせずに闘う事が出来るのはそう言った利点があった。
だから2人で闘う時は、背中合わせになるパターンが多いのである。
2人は阿吽の呼吸で、それを語り合わなくても知り尽くしていた。
科学忍者隊の正副リーダーとしても長い付き合いだが、それ以前からお互いを知っていた。
普段は相手が考えている事を全部解るとは言い難かったが、こう言った肉弾戦の場面では、相手の意図が手に取るように解った。
科学忍者隊はそれぞれがそうだ。
まるでテレパシーでも使っているかのように、以心伝心で動いている。
合図をしなくても、竜巻ファイターを使う時などはまさにそう言った状態であろう。
ジュン達が去ってから、あちこちで小型爆弾が爆発する音が断続的に聞こえていた。
間もなく作業は終わる事だろう。

『こちらG−3号。
 随分時間が掛かったけれど爆破は完了したわ』
「解った。長居は無用だ。
 こっちに戻って来てくれ!」
健がブレスレットに応答した。
30分程の長い時間が経っていたが、ずっと戦闘を続けていたジョーや健にとっては、時間が経つのを長いと感じる事は無かった。
2人とも息も切らしていないし、余力があったが、敵兵の方はかなり疲弊していた。
ギャラクターの一般隊員には少年はおらず、若くても20代以上であると見られた。
元々の体力が、訓練し尽くした科学忍者隊の少年少女とはもうレベルが全く違っているのである。
頭の切れる者は生き残る。
だが、ギャラクターと言う組織の中での世渡りに長けていなければ、簡単にベルク・カッツェに見捨てられる運命に在るのだ。
気の毒に思う事はない、とジョーは思った。
彼はギャラクターには並々ならぬ復讐心を抱いているので、いつも本懐を遂げる日を焦っている。
この程度の闘いでは決して満足していない。
もっとギャラクターに壊滅的なダメージを与えなければ、また奴らは立ち上がって来る。
ジョーはその悔しさに唇を噛んだ。
敵兵はもう及び腰だった。
羽根手裏剣と健のブーメランで充分に倒せる人数までに減っていた。
来(きた)る脱出の時の為に、2人は体力を温存する戦略に出た。
これもどちらからともなく、以心伝心で始めた戦闘法だった。
「健!ジュン達が戻って来たぜ!」
「よし、竜巻ファイターで一気に脱出だ!」
すぐさまジョーと竜が跳躍して肩を組んだ。
ジョーの上にジュンが、竜の上に健がジャンプし、その上に甚平が飛んだ。
「科学忍法竜巻ファイター!」
甚平の掛け声で5人は力を合わせて回転を開始した。
これも訓練の賜物の技である。
5人の息が合わなければ出来ない。
竜巻ファイターは文字通り風を巻き、敵の基地をぶち破って、全員が無事に脱出を遂げた。
G−1号機からG−4号機までは揃っていたが、G−5号機はない。
「仕方がねぇな。俺がG−2号機を積んで来た潜水艇に乗りな」
ジョーが親指で潜水艇を指差した。
「竜、これからは休暇中であろうと、ブレスレットを外して出掛けたりしない事だ」
健がリーダーとして窘めた。
「特にジョーには大変な苦労を掛けたんだぞ」
健は尚も言った。
「ジョー。すまねぇ……」
「いいって事よ。命令違反は俺の専売特許だからな」
ジョーは一笑に付した。
言いたい事はあった筈だが、健が代わりに言ってくれたので、もうそれ以上は言わぬ事にした。
皮肉の1つや2つ言ってやろうと思っていた筈なのだが…。
「健もそうだけど、ジョーもヨットハーバーまで行ったのよ」
ジュンが竜の肩を叩いた。
「そうだよ、みんなに心配を掛けちゃってさ」
甚平が肘で竜の大きな腹を突ついた。
「おめぇはゴッドフェニックスのメインパイロットなんだからな……」
ジョーは最後にポツリと一言だけ呟いて終わりにした。
自覚を持て、と言下に匂わせている事は竜にも解ったに違いない。
こうして竜の危機一髪は無事に回避され、助けられた人々も南部博士の検査の結果、異常なしと診断され、自宅に帰されたのである。




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