『葬送の時』

ジョーの葬儀は密やかに彼が8歳以降養育された南部博士の別荘にて営まれる事になっていた。
捜索の結果、彼の遺体を発見する事が出来なかった為、甚平が持ち帰って来たジョーが死の間際まで持っていただろうと思われる健のブーメランと、ジョーが愛用していたレース用のヘルメットを骨壷に納める事となった。
「いずれはBC島のジョーの両親の元にジョーを返してやらねばならないと思っている。
 健がクロスカラコルムから持って来た土をこの別荘の墓と、BC島にあるジョーの墓の両方に収めてやろうと思う」
南部が静かにそう言った。
別荘の敷地の片隅に小さいがジョーの墓が建造されていた。
ジョーの本名『ジョージ浅倉』をイタリア語で表記すると『Giorgio Asakura』となる。
小さな墓碑にはその文字が刻み込まれており、後は納骨の儀式を待つのみであった。
使用人達の手により、墓碑の周りには華やかな花が植えられていて、1年中何らかの花が咲き誇っているように気遣いがなされていた。
そして、南部と科学忍者隊の4人、別荘の使用人数名だけでひっそりとジョーを葬送しようとしていたのである。
「諸君、実はアンダーソン長官が、ジョーの葬儀に参列したいと言って来たのだ」
南部は健達に『打診』する形で訊いて来た。
何故なら彼らが内輪だけでジョーを見送ってやりたい、と強く希望していたからである。
アンダーソン長官はISOの最高責任者でもある。
「長官が…?」
健は戸惑いを隠せなかった。
確かに南部博士以外に直接彼らにコンタクトを取れる人物ではあったが、素顔で逢った事は1度もなかった。
アンダーソン長官程の地位にある人物が参列するとなれば、葬儀は仰々しいものになるのではないか、と健は懸念したのである。
ジョーは派手な事が嫌いなタイプではなかったが、最後は俺達だけで静かに見送って欲しいのではないだろうか…?
ジョーの死を看取ってやれなかった償いをしたいと科学忍者隊のリーダーとして考えていた健は、特にその思いが強かった。
「長官はプライベートで来られると言っている。
 しかし、諸君が嫌なら別の機会にして貰う事にしよう」
「南部博士。アンダーソン長官の前で涙を見せないでいられる自信が俺にはありません」
暫く押し黙っていた健が漸く答えた。
「んだ。おらも同じだ」
「おいらもだよ」
「私も健と同じ気持ちです、博士。私達に思い切りジョーの為に泣く、最後の時間を下さい」
ジュンがほろりと涙を零した。
「解った…。私から丁重にお断りしておこう」
南部は背中を向けてその話を打ち切った。
気が付けば、南部の眼にも光る物があった。
それを忍者隊の若者達に見られたくなかったのである。

そうして、別荘のジョーの墓には毎日供え物が欠かされる事はなかった。
半年程して南部博士がBC島へ飛び去り、残しておいたクロスカラコルムの土を、以前ギャラクターによって暴かれたジョーの棺に入れ、埋め直して来た。
「これで漸くジョーをあなた方の元に返せましたな…」
南部はジュゼッペ浅倉とカテリーナ浅倉の墓に、そしてジョージ浅倉の墓に花を手向けると、暫く動かずにいた。
ジョーを引き取ってからの10年間の様々な出来事が胸に去来して、心が溢れそうになった。
(ジョー、君は私に助けられて、幸せだったのか?)
『博士。博士のお陰で俺はただの復讐鬼にならずに済んだんですよ…』
ジョーの低い独特な声が南部の耳を風と共にくすぐって行った。




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