『もう1度ゼロから(1)』

ベルク・カッツェとの攻防戦はいつも良い処まで追いつめて、寸での処で逃げられる。
ギャラクターの基地を破壊しても、また新たな基地を建造して、新たなメカ鉄獣で攻めて来る。
ギャラクターの資金力と科学力は凄まじいもので、ジョーはいつも歯噛みをする思いで過ごしている。
そして、またもう1度ゼロから始めなければならないのだ。
こんな事がいつまで続くのか、と一番焦りを感じているのが彼だ。
彼は1日も早く両親を葬り去った憎っくきギャラクターを壊滅させて本懐を遂げたい。
その一心だけでこれまで闘って来たのだ。
人には言えない悩みも抱えて来た。
自分がギャラクターの隊員の子だと知ってからは、殻に篭る事も増えていた。
気がつくと無口になっていた。
以前程冗談も言わなくなっている。
仲間達が心配している事は解っているが、その事が疎ましく思える事もあって、素直には応じられない。
最近、ギャラクターの壊滅を急がなければならない理由も出来た。
それは自分の身体の異常だった。
明らかに何かが自分の身体を蝕んでいる。
それも強く……。
生命に関わる事かもしれない、とジョーは思い始めていた。
だとしたら、いつまでもギャラクターとイタチごっこをしてはいられない。
自然、その焦りから1人で探索に歩くようになっていた。
その事は情報部員から南部博士へと報せられていた。
『科学忍者隊のG−2号が探索をして回っている』と。
ジョーは即刻南部に呼び出された。
「ジョー、何を焦っておる。何があったのだ?」
そう問われてもジョーには本当の理由を言う事は口が裂けても出来ない。
「俺はただ、一刻も早く復讐を果たしたい、それだけですよ」
「科学忍者隊はチームワークで行動するのだ。
 私からの命令がない限りは動いては行かん。
 本当は解っている筈だ……」
「でも、このままではイタチゴッコです。
 奴らが出て来てから俺達は出動する。
 こんな事をしていたのでは、人々に被害が出る。
 俺はそれを未然に防ぎたい!」
その事は事実だった。
ジョーには自分の身体の事だけではなく、そう言った焦りもあった。
もう自分のような子供は出すまい……。
それは当初から彼が良く口にしていた言葉だった。
「気持ちは解る。だが、その仕事は情報部員の仕事だ。
 実際、諜報活動に支障があると言って来た」
「俺が邪魔だと?」
ジョーの拳が怒りに震えた。
「そう言う事だ……。
 ジョー、落ち着きたまえ。
 情報部は決して君の探索行動が上手くないと言っているのではない。
 だが、バードスタイルは目立つ。
 諜報活動をするに当たって、非常に不安だと彼らは言っている。
 つまりは、彼らにも危険が及ぶ可能性があると言う事だ……」
「………………………………………」
「解ってくれ。君の気持ちは解るが、顔色が悪い。
 君は疲れているのだ。
 身体を休める事も科学忍者隊の重要な任務だ」
南部は優しい眼をしてジョーを見つめた。
「君は自分の出自を気に病む事などないのだよ」
「気に病んでなんか、いません…。
 ただ……、自分の身がどうしようもなく憎いだけです……」
南部はジョーの頬をいきなり張った。
ジョーの頬は赤くなったが、ダメージは全くない。
「ジョー。君の両親は君との生活を大事にする為に、そして自分達が犯した罪の贖罪をする為にギャラクターを脱け出そうとされたのだ。
 その事を重く受け止めたまえ」
南部はそれだけ言い残して、別荘の司令室を後にした。
残されたジョーは呆然と立ち尽くしていた。
博士はやはりBC島の事件がある前から、両親の事を知っていた。
島の神父にでも聞いたのだろう。
それを自分に隠して−−−それは自分の為を思っての事だろうと思えるが−−−此処まで養育してくれたのだ。
ギャラクターの子だと言う事を思い出してからのジョーの変化に一番敏感だったのはこの人なのかもしれない……。
ジョーは血が出る程に唇を噛んだ。
自分の出生を呪う気持ちを南部博士はあっさりと否定した。
冷静に考えればそうなのだが、彼の血は苦しみで赤々と燃え滾っている。
沸騰して生命を脅かさないかと思う位に。
今回の身体の不調はそのせいで起きているのか、と思う程だった。.
頭痛に眩暈に時折吐き気も伴った。
まさか脳に傷があろうとは思ってもいなかったし、まさにこのせいで体調が悪いのだと思った。
自分の血が自分を殺そうとしているのだ、とジョーは実感していた。
生命に限りがある事は、既に気付いていた。
遠からず死はやって来るだろう。
しかし、すぐではないと信じていた。
とにかく少しでも早くギャラクターを倒し、レーサーとしての自分の夢も叶えられる。
それ位の余裕はあると思っていた。

バードスタイルで偵察する事が駄目だと言うのなら、変身をしなければいい、とジョーは考えた。
情報部員も市井の人々に紛れて、諜報活動を行なっているのだ。
自分もただの18歳の少年として、偵察すればいい。
自分の素顔は知られていないのだから。
ジョーは司令室から走り出ると、G−2号機を飛ばした。
最近新聞を賑わしている街の凄腕技術者が消えている事件が気になっていた。
一番最近起きたのは、コスギシンシティーであった。
まずはそこに行こうと考えたのだ。
そこでは数人が行方不明になっている。
当然警察が捜査を行なっていると思われたが、相手がギャラクターなら納得が行く。
これだけ多くの技術者を狙っていると言う事は、何か、例えば秘密基地やメカ鉄獣などを建造する人材が不足しているのではあるまいか、とジョーは睨んだのである。
そして、彼の勘はいつも鋭い。
今回も当たっていた。
自分はゼロからギャラクターに当たって砕けてやる。
ジョーはそう決めていた。
このコスギシンシティーにはまだまだ街の高度な技術者が多い。
まだ狙われる人物が残っているに違いない。
彼は街の中をパトロールして回っていた。
そして、騒ぎは起きた。
ある町工場の前を走っている時に微かだが悲鳴のようなものを聞いたのである。
ジョーはG−2号機を停めた。
様子を見ていると、ギャラクターの隊員が50絡みの男性を気絶させて、肩に担いでいた。
もう1人が手伝ってジープの後部座席にその技術者を寝かせると、2人組の隊員はジープを出発させた。
ジョーは密かにこれを尾行する事にした。




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