『もう1度ゼロから(2)』

ジョーは慎重にジープの尾行を始めた。
相手の動きに合わせて緩急を付け、少し離れて尾いて行く。
見た処、ISOの情報部員が尾行している様子は見られない。
そう言った怪しい動きをしている者は皆無で、ジープを追っているのはジョーだけだった。
(一体技術者を誘拐して、どうしようって言うんだ?
 無理矢理ギャラクターの隊員にして途轍もなくでかいメカ鉄獣でも作ろうってのか?)
この時、ギャラクターが既に『ブラックホール作戦』の準備を展開しつつあるのは、ジョーも知らない。
ギャラクター内部での人員確保が難しくなって来た為、一般人の優秀な技術者を掻き集め始めた、と言うのが本当の処だった。
ジープはコスギシンシティーを出て、山道へと入って行った。
此処まで来ると、ジョーはさすがに用心した。
こんな山道を走っている車はなかなか居ないからだ。
(これはきっとギャラクターの秘密基地に違いねぇ。
 怪しい車が走っていれば、たちまち囲まれる……)
ジョーは覚悟を決め、南部博士に連絡を取った。
事情を説明すると、博士は『ジョー、私が言った事を忘れたのかね?』と彼を責めた。
「たまたま事件の事が気になって行ってみたら、丁度技術者を誘拐している処に出くわしました。
 それより、ギャラクターの基地が近くにあるものと思われます。
 このまま技術者を見殺しには出来ません。
 追わせて下さい。連絡は密にします」
ジョーがそう告げた時、眼の前に大きなタンクローリーが現われた。
「あれは?!タンクローリーじゃねぇ、メカ鉄獣だ!」
『ジョー、どうした?ジョー!』
ジョーの通信はそれきり途絶えた。
南部は急ぎ科学忍者隊を集合させた。
「ジョーの通信が途絶えたのはミゾルカ山脈の麓だ」
スクリーンを天井から下ろして来て、南部は地図を示した。
「そして、『あれはタンクローリーじゃない、メカ鉄獣だ』と謎の言葉を残し、その後、空電が入って急に通信が途絶えた」
「ジョーはそのメカ鉄獣に拉致された可能性が高いですね」
健が憂い顔を見せた。
「この処、ジョーはどうもギャラクターを倒す事を焦っている。
 何事もなければ良いのだが……。
 恐らくはバードスタイルにはなっていなかった筈だ。
 情報部から嗅ぎ回るのをやめろ、と言う話があったばかりなのでね」
「ジョーは自分の出自を知ってから、俺達にも心を開かなくなって来たように思います。
 俺達も心配しているのですが、あいつの心はズタズタですよ」
健が呟くように言った。
「ジョーは1人で苦しんでいるのね。
 自分で全てを抱え込んで……。
 きっと私達では癒せないのでしょう……」
ジュンが哀しげに眼を伏せた。
手を差し伸べられるものなら差し伸べたい。
科学忍者隊の4人は全員がそう思っている。
だが、ジョーは心に鍵をして一方的に閉ざしてしまった。
なかなか頑丈な鍵だ。
人付き合いは悪くなかっただけに、全員が心配していた。
「とにかくミゾルカ山脈までゴッドフェニックスで行ってみます」
健が強い意志を感じさせる瞳で博士の顔を見た。
「頼んだぞ…」
博士は自席に深く沈み込んだ。

巨大タンクローリーは後部を開き、ビーム砲のような物でジープとG−2号機を包んだ。
すると、中に引き込まれるようにジョーは車ごと連れ去られた。
このタンクローリーにはこのような搭乗の仕方をするらしく、ギャラクターの隊員達は特段驚いていなかった。
ただ、レース用に改造した一般車にしか見えないG−2号機まで入って来た事に驚いていた。
「おい、余計なもんまで吸い込んぢまったみたいだぜ」
隊員達がG−2号機を囲んだ。
ジョーは中で気絶している振りをしながら、敵の数を数え、先程の技術者がジープの中で無事に生きている事を確認した。
今、暴れるのは得策じゃない。
このまま基地に連れ去られよう。
他にも技術者達がいる筈だった。
元々ジョーの目的はギャラクターの秘密基地へ潜入する事だ。
それが本部だったらなおいい。
ジョーはG−2号機毎、目論見通り基地へと運び込まれた。
「カッツェ様。タンクローリーにこんな奴まで吸い込まれて来ました。
 いかが致しましょう?」
(カッツェが居るのか?益々大掛りな基地だぜ)
ジョーは車の中で気を失った振りを続けつつ、考えを巡らせた。
健達はこのミゾルカ山脈までは駆けつける事が出来るだろう。
その後、この基地を発見させる為にはバードスクランブルを発信するしかない。
ジョーはさり気なくブレスレットを強く押した。
仲間達に伝わっている事を願って。
「そんな若造は地下牢にでも放り込んでおけ。
 あの技術者共と一緒に洗脳して、ギャラクターの隊員にしてしまうのだ」
「ははぁ!」
隊員の返事と共に、カツンカツンとカッツェの足音が遠ざかった。
(やはりそう言う事だったか……)
ジョーは思いながら、とにかく地下牢に放り込まれるまでは気を失った振りを続ける事にした。

「この若造、いつまで寝ていやがるんだ?」
ギャラクターの隊員に担がれて、ジョーは地下牢へとぶち込まれた。
同時に拉致された技術者も同様に放り込まれる。
ジョーはそっと中を見渡した。
新聞記事で見た顔もある。
此処には世界中から集められた企業や街工場の優秀な技術者達だけが集められているのだ。
ジョーだけが異分子だった。
地下牢の前には敵兵が2人、マシンガンを持って見張りに立っている。
ジョーはまず技術者達が既に洗脳されているのか探りを入れた。
疲れ果てて顔を伏せ、眠っている者が多かったが、起きている者の眼を見た限りでは洗脳の臭いは感じない。
後ろ手に縛られたローブを少しずつ緩めて行く。
このような事は科学忍者隊にとっては、大した技術ではなかった。
見張りの死角でロープを外すと、ジョーは手近な人物に近づき、彼のロープを解き始めた。
中にいた技術者達が一様に驚いている。
「静かにして下さい。俺はあなた方を救出しに来ました」
ジョーは低い声で話した。
全員に安堵の表情が広がる。
見張りに気付かれないように、ジョーは少しずつ技術者のロープを解いて行った。
自由になった者は、捕らえられてから日数の長い者程、身体が動かなくなっていて、他の技術者のロープを解くまでの余裕はない様子だった。
ジョーは20人からの技術者全員のロープを外した。
だが、まだ後ろに手を回しておくようにそっと指示をする。
そして、見張りの気を引くように声を上げた。
「おい、俺は巻き込まれただけだ。
 こんな処に入れてどうするつもりなんだ?
 急がなくちゃならねぇ。親父が危篤なんだよ。
 だからあんな山道を走っていた。
 さっさと早く帰せよ、この野郎!」
後ろ手でバードスクランブルを発信しながら、ジョーは今時の少しグレた若者風に巻き舌で言った。
見張り兵が鍵を開けて入って来た。
「気にいらねぇ眼つきをしているガキだ。
 親父が何だか知らないが、一緒にあの世とやらに行けばいい。
 俺はカッツェ様よりお前の生命を一任されているんだぞ。
 殺しても構わないと言われている。
 面白いから磔にして痛め付けてからじわじわと殺してやろうか?」
「そいつはいい趣向だ」
(けっ、何がいい趣向だ!)
ジョーは唾を吐きたくなる思いで、内心どついた。
地下牢の外に引き摺り出された処で、ジョーは敵兵の首を後ろから絞めた。
そして、その手にあるマシンガンを無理矢理奪い取った。
そのまま首を絞めて気絶させ、もう1人はそのマシンガンで殴って、倒した。
「さあ、皆さん、歩けますか?歩けない人を助けて此処を脱出して下さい!」
ジョーは牢屋の中の人々を振り返って言った。
丁度そこにバードスタイルのジュンと甚平の姿を見たジョーは、
「あの2人は科学忍者隊です。2人が守ってくれます」
「あんたは?」
1人の男が訊いた。
「俺にはまだやる事があるんで……」
ジョーはマシンガンを担いだまま、ブレスレットに向かって「技術者達の脱出を助けてやってくれ」とジュンと甚平に告げた。
『健は別ルートでやって来るわ。ジョー、気をつけて』
ジュンの答えが返って来た。
『お土産にあちこちに爆弾を仕掛けて帰るから、深追いは禁物よ』
「解った!」
ジョーはすぐさま上の階を目指す。
健は恐らくそちらに進んでいる事だろう。
先を越されて溜まるか、と言う思いがあった。
(俺はこの基地を見つける為に潜入して来たんだぜ)
上の階に行くと、G−2号機があった。
ジョーは乗り込むとバードスタイルに変身した。
虹に包まれて、彼とG−2号機は姿を変えた。
そのまま走り出て、基地内を縦横無尽に走り、ガトリング砲を派手派手しく撃ち放って行く。
車が通れる程の広い通路が設けられた大規模な基地だった。
通路と言うよりは『道路』だ。
G−2号機が余裕でUターン出来るだけの幅はあった。
敵基地の中枢区域に入ったのか、敵兵が増え始めて来た。
ジョーはG−2号機毎、怪しい扉の中に体当たりで突っ込んだ。
扉を突き破って進入した先には、大型コンピューターが何基も輝きを見せている、まるで舞踏会でも開けそうな大きな部屋があった。
華麗な丸い絨毯の上で豪華なテーブルと座り心地の良さそうな椅子に陣取り、カッツェが優雅にワインを飲んでいたが、突然の闖入者に飛び上がった。
(どうやらゼロから始めた甲斐があったようだぜ……)
ジョーは内心で呟いた。




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