『もう1度ゼロから(3)』

「おのれ!科学忍者隊G−2号、コンドルのジョーだな?」
カッツェが1歩後ろに引いた。
ジョーはG−2号機のコックピットを飛び出して、
「その通りだ、カッツェ!俺は貴様に用があったのさ!
 今日こそその息の根を止めてやる!」
その時、「此処にもいるぞ!」
ジョーの後ろからG−2号機を華麗に飛び越えて回転して現われた、白い羽を持つ男が居た。
当然ながら、健である。
「科学忍者隊G−1号ことガッチャマン参上!」
(また派手に現われやがった……)
ジョーは思ったが、ニヤリとしただけだった。
健らしい。
バードスタイルの時の彼がどんなに見得を切っても、ジョーは嫌味には感じなかった。
「ジョー、勝手な行動をするな。
 どれだけ俺達がやきもきしていたか、解っているのか?」
「こんな時にお説教かい?」
ジョーは唇を曲げた。
健は説教はそこまでにして、ジョーと並び立ち、科学忍者隊の2トップが華麗な立ち姿を披露した。
眺めていてもこの2人は双極を成し、光と影のように対になっている事が良く解る。
体格もほぼ同じ。
2人が背中合わせになると、無敵に見える。
いや、実際に無敵なのだ。
身体能力も拮抗しており、科学忍者隊の中では、やはり仲間を引っ張って行く立場にある。
「何をしておる?早く遣れ!」
カッツェが紫のマントを翻して指示をした。
たちまち2人はギャラクターの隊員に取り囲まれた。
これを突破出来ない2人ではなかった。
だが、この時、ジョーにはまたあの原因不明の頭痛と眩暈が襲い掛かっていた。
冷や汗が出て来ている。
それに健が気付かない訳がなかった。
「ジョー、顔色が悪いぞ。大丈夫か?」
「何でもねぇ。早く雑魚どもを片付けようぜ」
頭がツキンと痛む。
だが、今は痛みを気にしている時ではない。
ジョーは「うおおっ!」と叫びながら跳躍して、何回転もしながら長い足で、何人もの敵を足蹴にして行く。
眩暈がしている身体には、これはきつかった。
ジョーは一瞬ぐらりとしたが、健は闘いに専念していて気付かれずに済んだ。
そのまま怯む事なく、羽根手裏剣をピシュシュシュシュ!と言う音と共に、四方八方に散らしまくった。
それが1本も無駄にはならないだけの技術をジョーは持っている。
バタバタと敵兵が倒れて行く。
これが一番体力を使わない敵の倒し方だった。
眩暈を起こして手元が狂わないかと、ジョーはそれを恐れたが、研ぎ澄まされた感性が彼の不調を手助けしてくれた。
元々、眼が見えなくても音を頼りに攻撃出来るように彼は様々な自主訓練を積んで来ていた。
それが今になって役立っている。
健にこれ以上不調を気づかせまい。
その気持ちが強かった。
そして、健のブーメランもリーダーの威厳を保ち、ジョーには決して負けてはいなかった。
華麗な軌道を描いて、彼の手元に戻って来たその時には同様に敵がバッタバタと倒れている。
2人とも動体視力に優れ、手先が器用なのだ。
両雄並び立たず、と言うが、この2人に関しては並び立つのだ。
そのコンビネーションでこれまで何度も危機を脱して来た。
そして、磐石な身体能力。
これに敵う者はない。
ジョーは敵兵の包囲網を切り開きながらカッツェの元へと急いだ。
大鷲の健とコンドルのジョーに挟まれたカッツェは部下に攻撃を命じようとしたが、その部下がもう殆ど役に立たない状況に陥っていた。
突然、カッツェが居た丸い絨毯がエレベーターのように下に落下した。
ジョーは出来た穴に飛び込んだ。
と見えたが、そこには強化ガラスが張り巡らされ、行く手を阻まれた。
「くそぅ。また逃げられたか?
 此処まで追い詰めておきながら……」
ジョーが床の強化ガラスを力一杯叩いた。
「ジョー、カッツェはメカ鉄獣に乗り移ったのかもしれん。
 早く此処を爆破してゴッドフェニックスに戻ろう」
「解った」
健の判断は的確だった。
「こちらG−1号。技術者達の脱出は成功したか?」
『ええ、大丈夫よ。私達も今そちらに戻っているわ」
「司令室に爆弾を仕掛けて脱出する。
 カッツェはメカ鉄獣に移動したと見られる。
 そっちは動力室に爆弾を仕掛けて、ゴッドフェニックスへと脱出してくれ」
『ラジャー!』
ジュンの声が明快に聞こえて来た。
健はジョーと2人で巨大な司令室に強力爆弾を仕掛けた。
これだけの巨大な基地だ。
そしてこの大型コンピューターを完膚なきまで破壊しなければならない。
ジョーはヒラリとG−2号機に乗り込むと、「健!乗れ!」と言った。
健がG−2号機の上部に張り付く。
「健、マントで爆発を防いでいろ。
 スピードを出すから振り落とされるなよ!」
『解っている。こちらG−1号。G−5号応答せよ!』
健が竜に指示を出している間に、ジョーはG−2号機を急発進させ、出口へと向かった。

『こちら南部。タンクローリーメカが、コスギシンシティーを襲っている。
 ゴッドフェニックスはすぐさま駆けつけてこれを倒せ』
「ラジャー」
ゴッドフェニックスのコックピットで5人は答えた。
ジョーの頭痛は収まっていなかった。
先程以上にその痛みは増していて、いつ任務に支障が出るかと彼は冷や冷やしていた。
頭痛は限界以上まで我慢するとしても、眩暈だけはどうしようもない。
羽根手裏剣やエアガンの訓練はしていても、バードミサイルだけは無理だろう。
肉弾戦に於ける様々な状況を考えて、彼はその身体能力を鍛えて来た。
例え眼が見えなくなろうとも、手足が傷を受けようとも、どんな状況になっても、その身1つで闘えるよう緻密な訓練に耐えて来た。
自己流だったが、その訓練は今日の実戦にも役に立った。
眩暈が起きていても、羽根手裏剣を正確に繰り出せた事は、彼にとって自信となった。
「ジョー、顔色が悪いわよ」
ジュンが先程の健と同様の事を言った。
「気のせいさ。誘拐された技術者を追って来た時に変な光線を浴びたからだろうぜ。
 健、あの巨大なタンクローリー型メカは後部からレーザー砲みたいなものを出し、そこから搭乗するようになっている。
 レーザー砲に当たると吸い込まれるが、逆に其処が逆転だと言えるかもしれねぇ。
 狙いを付けるのならそこだぜ」
「タンクローリーの中には石油は積まれているのか?」
「俺が見て来た限りではそれはなかったが、街から離れた方が攻撃するには安心だろう」
「竜。先程爆破した基地があるミゾルカ山脈まで奴を引き寄せよう」
健がまた的確な指示をした。
さすがはリーダーだ、とジョーは思う。
この判断力、そして類稀なる人心掌握力。
特に後者は自分にはない、とジョーは考えた。
だからこそ、何かがあった時には、健を生かして帰さなければならない。
彼は以前からその強い考えに支配されていた。
科学忍者隊のリーダーが率先して死地に赴くのは仕方がない事だが、死なせてはならない、とジョーはそう考えていたのである。
そして、手を汚す事は全て自分がやる。
自分は健の『影』だと、そう決めていた。
だから、もし、今自分の身体の中に巣食う病が、自分を健と引き離す時の事が心配でならなかった。
彼がギャラクター壊滅を急ぐ理由は、個人的な復讐心からだけではなかったのである。
ジョーはそう言った事を一々説明しないし、第一身体の秘密を話したりする事は出来ない。
誤解されがちになるのは仕方のない事だったのだ。
健は正義感が強く、汚れ役をするのは辛いに違いない。
事実、『レオナ3号』の時の彼の対応でも良く解る。
あの時は最終的には健が自分でバードミサイルのボタンを押したのだが……。
ジョーはその時も一旦は自分が辛い役目を背負おうとしたのである。
そんなジョーの気持ちを、少なくとも健は解っている。
以前、『国際潜入捜査』の任務の時にそんな話をした事があった。
光と影……。
ジョーはそれが自分達の対比となっていると思ったし、自分達に相応しいと思っていた。
自分はそのバードスタイルの色のように、影から科学忍者隊を支え、いつかはそれがギャラクターの壊滅へと繋がる、と信じていた。
だが、今回単独行動を起こしたのは、全て先述したような焦りからである。
これまで、確かに命令違反を犯しては来たが、大きな命令違反や、南部博士へ反抗したのは、意外にも健の方が多かった。
ジョーばかり命令違反をしているような印象を持たれているが、健はリーダーとして品行方正で飽くまでも優等生なので、そんなイメージが着きにくいのかもしれない。
ジョーにはそんな事はどうでも良かった。
彼にはただ『自分を生きる』、その事が重要だったのだ。

「メカ鉄獣が見えて来たぞいっ!」
竜の声でジョーは我に返った。
レーダー席に居ながら、その眼はレーダーを追っていなかったのだ。
実の処、眩暈が酷くて良く見えていなかった。
だが、それを咎める者は誰もいない。
目先の巨大タンクローリー型メカをどうやって、ミゾルカ山脈に引き寄せるかと言う事が重要だったからだ。
「竜。敵のミサイル攻撃に遣られた振りをして、煙幕を出し不時着するように見せ掛けながら、ミゾルカ山脈へと誘導しろ!」
健の指示が飛んだ。
「ラジャー」
竜がメカ鉄獣へとゴッドフェニックスを突進させた。




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