『マリーン〜転生(完全版)』

ジョーはその生命を喪って、『赦された者が来る世界』へと飛ばされた。
そこでアランやその婚約者とも逢った。
両親とも逢った。
だが、まだ逢っていない人物がいる、とジョーは思った……。
(マリーン……)
ジョーはサーキットで不慮の死を遂げた彼女の事を思っていた。
だが、此処は『赦された者が来る場所』。
赦されるべき罪のないマリーンは違う世界にいるのかもしれない、とジョーは思った。
それでも、探さざるを得なかった。
時間と言う概念のないこの世界で、マリーンの姿を追い求めた。
「フフフ、ジョー。私を捕まえて御覧なさい」
確かに脳裡に響いたその声を頼りに、ジョーは丘の上の美しい花畑へと出た。
誰もいない、と思ったその瞬間、眼の前を影が走った。
長い金髪が風に舞うのをジョーは確かに見た。
ジョーはダッシュを掛けて走り始めた。
どこまでも影を追って後ろから捕まえ、2人で草の上に倒れ込んだ時、確かに彼の腕の中にはマリーンがいた。
「捕まえたぜ…。マリーン。
 だが、何でお前がこの世界にいる?」
マリーンはジョーと逢えた嬉しさに微笑んでいたが、その笑みが崩れた。
「母を遺して死んでしまったからよ」
「あのお袋さんは気の毒で見ていられなかったぜ……」
ジョーは頷いた。
マリーンの横で仰臥位になり、長い手足を伸ばす。
この世界はいつでも晴天だ。
気分がいい。
マリーンはジョーに甘えるように抱き付いて来た。
ジョーは一瞬たじろいだが、なされるままにした。
彼はマリーンの事を愛していたのだ。
喪ってからその事を自覚した。
彼はマリーンの『死』と言う形で振られてしまったのだが……。
「ジョー。貴方が来るのが解ったから、転生を少し待って貰ったの」
「転生だって?」
「私は次の世界で猫になる事が決まっているの。
 そうして母の元に戻るのよ」
「そうだったのか……?」
ジョーは明らかに落胆した。
折角逢えたのに、また別れなければならないのか…?
「だから…貴方に逢うまで待って貰った。
 貴方の気持ち、知りたかったから……」
マリーンは大胆にもジョーの両頬を手で挟んで、軽く唇を合わせた。
ジョーには嫌悪感は全くなかった。
そのまま折れそうなぐらい、強くマリーンを抱き締めた。
草の上で2人は強く抱き合い、優しく情熱的なキスをした。
誰もいない丘の上だった。
マリーンがレーシングスーツの胸のジッパーを下げてジョーを誘ったとしても、見ている者など誰もいなかった。
ジョーは固唾を飲んでそれを見守った。
形の良い白く丸い丘が2つ現われた。
「綺麗だ…。マリーン……」
余りにも眩しかった。
マリーンがジョーの手を自分の胸に引き寄せた。
だが、ジョーにはその後の記憶が無かった。

2人はマリーンの情熱的なキスを合図に、頭から光の輪に包まれ、輪は全身を通り抜けた。
そして、彼らは生まれたままの姿になった。
魂と魂の触れ合いはマリーンが先に仕掛けたので、彼女の意のままに、ジョーはリードされる事になった。
マリーンと共にジョーの引き締まった肉体が露わになった。
ジョーは羞恥で一瞬頬を赤く染めたが、それよりも眼の前のマリーンの余りの美しさに心を奪われた。
流線形の女性らしい身体のライン。
胸の2つの隆起が美しく盛り上がっている。
彼女が着痩せするタイプだったと言う事を思わせた。
2人は改めてお互いを見詰めあう。
「本当に、綺麗だぜ…。マリーン…」
ジョーは唾をごくりと飲み込んだ。
この世のものとは思えない美しさだった。
「あなたこそ、男らしくてとっても素敵よ。
 まるで芸術作品…。彫刻のようだわ。
 でも…ごめんなさい。私、恥ずかしい…」
「馬鹿だな。それは俺だって…。
 自分から仕掛けた癖に、こいつぅ…」
と言いながら、ジョーは草の上でマリーンを強く抱き締め、その唇を飢えたように求めた。
そうして、ジョーの日に焼けた肌と、マリーンの白い肌が1つに重なり、とろけ合った。
全く違和感なく、今までもそうしていたように思える。
2人は身体を密着させ、お互いの鼓動の高鳴りを感じた。
ジョーのカモシカのような筋肉質の長い脚が、マリーンの白く細い脚と絡まった。
ずっとこうして来たような、そんな暖かさを感じた。
熱いキスを交わし合った後、ジョーの唇がマリーンの唇から首を滑り、ついに白く丸い丘の桃色の頂を捉える。
「あっ…」
マリーンが頬を染め、仰け反った。
2人はそれぞれに強い興奮と官能を覚えた。
それからお互いに激しく相手を求め合い、愛し合った。
そして、2人はついに自然に1つになった。
身体が繋がった事で、心が深く深く満たされた。
こうなる事が当たり前だったかのように、2人は幸せだった。
お互いに相手が自分の物になったと言う喜びに満ち溢れていた。
ついに結ばれたと言う感慨に胸が一杯になった。
快感の波に打ち震えながら、この日は来るべくして来たものだと、ジョーは思った。
生きている内にその機会があれば、マリーンは死ななかったのではないか、と言う気がした。
情熱的にお互いを求め合い、2人は最初で最後の逢瀬の時間を過ごした。
互いのその愛によって心は満タンに満ち足りたのだった。
快感の海にたゆたいながら、2人は共に眠った。
マリーンはジョーの腕枕で幸せそうにしていたが、やがてそっと起き上がった。
今、愛し合ったばかりのジョーの寝姿は無防備だった。
その凄まじく男の色気がある姿を、マリーンは暫くの間じっと愛おしそうに見詰めていた。
最期の別れが近づいていた。
逞しいジョーの胸が呼吸と共に上下していた。
その胸に、マリーンは自分の涙の滴を託した。
死した2人には、もう実際の肉体は無かった。
魂と魂が触れ合ったに過ぎない。
それがお互いに形として見えているだけだった。
マリーンの身体が光り始めた。

ジョーが気が付いた時、確かに横の草には人型があったし、彼の腕には心地好い痺れがあった。
マリーンに腕枕をしていたのだろう。
2人はどうなってしまったのか?
結ばれたのか?
ジョーにはその辺りの記憶がなかったし、彼はきちんと衣服を身に付けていた。
だが、1つだけ、何となくだがマリーンの言葉が脳裡に残っている。
「私は貴方と1つになれて、漸く転生出来るわ……。
 有難う、ジョー……」
彼女の涙が綺麗だった。
その涙の滴がペンダントになって、ジョーの胸に下げられていた。
「俺はマリーンと1つになったのか?」
どうしても思い出せない。
思い出したかったのに、記憶からすっぱり抜け落ちている。
マリーンの眩しく美しい肢体だけが脳裡を掠めた。
しかし、彼の手には涙の滴型のペンダントが握られている。
「夢だったのだろうか?だったらこれは……?」
形が残っている以上、夢だったと一言で片付けるのには無理がある。
ジョーはマリーンと一線を超えたのだ。
彼はそう考えた。
彼女の事を愛していた。
だから、せめてその時の記憶が欲しかった。
(マリーン。俺からその記憶まで奪うなんて、照れ屋な奴だな。
 俺は再びおめぇに振られたのか……?)
マリーンはジョーの胸の中で、転生して行ったのだ。
「マリーンよ。もう少し時間を与えてくれ。
 俺の心の整理が出来ねぇじゃねぇか……」
ジョーはペンダントを握り締め、涙を一筋流した。
身体に官能と快感の残影が残っているような気がする。
「マリーン……。愛していたのに……。
 漸く逢えたのにまたこの仕打ちかよ?」
ジョーは切なさに打ち震えた。
「俺は…お前を抱いたのか?
 上手く愛せたのか?
 全身全霊、俺の愛情を注ぐ事が出来たのか?」
覚えていない。
これではその答えは見つからない。
一瞬だがマリーンの声が聞こえた。
『ジョー、貴方はとても素敵な男(ひと)だったわ。
 私が思った通り……』
ジョーの横には子猫がいた。
思わず起き上がった。
「お前は、マ…マリーンなのか?」
ジョーが抱き上げようとすると、その子猫は薄っすらとその姿を消して行った。


※この物語は340◆『マリーン〜転生』の完全版です。
「やはり、苦手です。多分もう書きません。(^_^;」と書きながらも、妄想してしまいました。
これは秘密のページとして、340(2)と言う事で、『マリーン〜転生』のページに隠しておきます。
今、凄く恥ずかしいです〜。




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