『マーズ引き寄せ計画(1)』

『科学忍者隊の諸君、速やかに三日月基地へ集合せよ!』
南部博士の通信で全員が呼び出された。
ハードスタイルで集まった彼らは、ソファーに座ったり、窓辺に寄り掛かったりして思い思いの体勢で南部の登場を待っていた。
ゴッドフェニックスに合体して待機せよ、との指示ではなかったので、メカ鉄獣が街を荒らしているとか、そう言った問題ではないらしい。
一体何が起こったのか、今詮索しても仕方がない。
各自は静かに南部博士の指示が出るのを待っていた。
それにしても今日は博士がなかなか出て来ない。
どうしたのだろう?
ジョーがそろそろ痺れを切らしそうになった時、博士はアンダーソン長官を伴って入って来た。
長官がこの基地に来るのは初めての事だ。
忍者隊のメンバーはその事に驚いていた。
「実は今朝、長官の元にベルク・カッツェからビデオテープが届いたのだ」
南部は低いいつもの落ち着いた調子で話し始めた。
「これを観てくれたまえ」
スクリーンを天井から下ろし、ビデオをセットする。
そこにはどこかの基地の内部が映し出され、天空に向けて何かのレーザー光線のような物が設置されているのが見える。
そしてあのカッツェの『アンダーソン長官、おはよう』と癇に障る声がした。
『これは何か解るかね?これは火星を地球に引き寄せる為の装置だ。
 火星が地球に激突すればどう言う事になるかは賢明なる貴方なら解るだろう。
 ビーム砲は明日午前6時に発射する。
 私の計算では6時間もすれば、地球に激突させる事が出来る。
 それまでに科学忍者隊と南部博士の生命を申し受けたい。
 そうすればこの計画は中止してやっても良い。
 正午にまた連絡する。よくよく検討しておくが良い』
カッツェの声と映像は消えた。
「様々な検討をしてみたが、この声はカッツェの声に間違いはなく、悪戯ではないようだ」
「これは一体どこなんです?」
健が訊いた。
「ISOの情報部員が全力を注いで調査を始めているが、まだ解らんのだ」
南部が答えた。
「次の連絡は正午、と言う事は、後3時間半しかありません。
 俺達が奴らの前に出て行くより他はないでしょう」
腕組みを解かないままに、ジョーが強い口調で言った。
「だが、それでは奴らの思うツボです」
アンダーソン長官が言った。
「南部博士と君達の生命を差し出す訳には行きません。
 何とかして、この基地の場所を探し出して、先手を打ってあの巨大レーザー砲を破壊するより他はないのです」
「長官。レッドインパルスにも応援を頼んで、空から調査して貰っています。
 とにかく調査報告を待ちましょう」
「では、ゴッドフェニックスでも捜索を開始しましょう」
「健、君達には此処に待機して貰う。
 ゴッドフェニックスで出て行ったのでは、敵の格好の標的になる」
「しかし、このままでは地球が…!」
ジュンが1歩進み出た。
「おいら達の生命で地球が助かるのなら、おいら、この生命なんか惜しくないよ」
「んだ。おらもだ」
「俺達の気持ちは皆同じです。
 ただ、心配なのは、俺達の生命を差し出したからと言ってカッツェが計画をやめる保障はないと言う事です」
いつも熱くなるジョーが珍しく冷静な事を言った。
彼には嫌な予感がしていたのだ。
ジョーの勘は侮れないと言う事を、健は一番良く知っていた。
「生命は惜しくねぇが、無駄死にはごめんだぜ」
ジョーの言葉に全員が頷いた。
「君達だけではありません。
 ギャラクターは南部博士の生命も差し出せと言って来ているのです。
 此処は慎重に事を運ばなくてはなりません」
アンダーソン長官が言った。
南部博士はISOに取って喪われては困る存在だった。
「博士に似せたロボットでカモフラージュ出来ないでしょうか?」
健が長官に問うた。
「ICチップに南部博士の記憶を組み込む時間はとてもありません。
 既にあるロボットの姿形を加工する事なら出来るでしょう」
「では、至急その手配をお願いします。
 人形よりは多少なりとも何とかなる事でしょう」
健が長官に依頼した。
「解りました。心苦しいのだが最終的には君達に任せるしかない」
アンダーソン長官は苦渋の表情でそう述べた。
「さあ、長官は執務室にお戻り下さい。
 ジョー。特別IDカードを貸し出すから、長官をISOまでお送りして、そのまま長官の護衛を頼みたい。
 君は1度長官室に入った事があるから、様子を覚えているだろう」
「ラジャー」
「G−2号機はゴッドフェニックスに搭載して置く。
 ジョーは生身に戻ってフルフェイスのヘルメットを着用し、長官を送ってくれたまえ。
 駐車場で変身して、不慮の襲撃に備えるのだ。
 車は周囲を防弾ガラスで囲った物が用意されている。
 長官の左右にはSPも着いている」
「解りました」
こうしてジョーは待機する他のメンバーとは別行動を取る事となった。

長官の執務室までは無事に到着する事が出来た。
まだ襲撃して来る事はないだろう。
それに狙いは南部博士と科学忍者隊の生命だ。
長官は襲って来まい、とジョーは思っていた。
襲われるとしたら自分の方だ。
その事により集中していないと、長官を巻き込む事になる。
長官の護衛はSPがいれば充分だろうと思っていた。
だが、敢えてその事を言わずに従ったのは、カッツェからの次の連絡を一番早く眼にする事が出来るからだったのかもしれない。
今度はビデオではなく、直接長官の執務室のモニターにベルク・カッツェが現われた。
『おや?もう科学忍者隊が1匹、そこにいるようだな?』
「カッツェ!汚ねぇぜ!
 俺達の生命が欲しいのなら、正々堂々と出て来やがれ!」
ジョーはモニターに向かって叫んだ。
SP達が逆探知の作業をしていた。
時間を稼ぐ必要があった。
『君達は出て来てくれるだろうが、南部君はなかなか出て来てくれないのでね』
カッツェが哄笑した。
ジョーはカッツェの背後に移っている物に注目していた。
潜望鏡らしき物がチラリと見えたのだ。
この通信は録画されているので、後でもう1度確認してみる必要があったが、カッツェはどうやら潜水艦に乗艦しているらしい、とジョーは判断した。
だとすれば、敵基地は海の中なのかもしれない。
空からばかり見ていたのでは、見つかりっこない。
この通信が終わったら、南部博士に報告する必要がありそうだ。
南部博士の元にもこの通信は転送されていたが、元画像に比べると精度が落ちるだろうと思われた。
『南部君の処に直接通信しても良いのだが、アンダーソン君に頼めば南部君に命令をして、引き摺り出してくれるかと思ってね』
「何と言う事を!私がそんな男に見えるのかね?」
『地球と引き換えとなれば、国際科学技術庁長官としてその決断を迫られるのではないかね?』
ジョーはカッツェが憎かった。
カッツェはその為にわざわざ回りくどいやり方を採ったのだ。
言ってやりたい事は多々あったが、この場では堪えた。
「それで?一体俺達にどこへ出て来いって言うんだ?」
『エベレストの頂上だ。ゴッドフェニックスなら問題あるまい』
カッツェがまた哄笑した。
『夕方6時までに来て貰おうか?後6時間弱だ。
 必ず南部も連れて来るのだぞ』
カッツェからの通信はそこで途絶えた。
ジョーはすかさずブレスレットで南部を呼び出し、カッツェが潜水艦から指揮を執っている可能性を示唆した。
『潜水艦…。エベレスト…。インド洋付近に基地があるのかもしれんな』
南部が呟いた。
「博士。それも海中です」
『うむ。調査艇を派遣しよう』
「下手に国連軍を動かしても、犠牲者が出るだけですよ」
ジョーが眉を顰めた。
「博士、科学忍者隊に出動命令を出して下さい!」
『そうです。ジョーの言う通りです。
 犠牲者を増やす位なら、俺達が乗り込んで行って基地を探し、木っ端微塵に破壊してやります!』
健の声も聞こえて来た。
そうして、科学忍者隊に出動命令が出た。




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